未来への地図 8



「今日はどこへ連れて行ってくれるんですか?」
車に乗り込んできた総司は、開口一番に土方に尋ねた。
土方は何も言わず車を出した。
総司は肩をすくめて笑ってから、前を見てそれからは何も訪ねなかった。

本当は総司はどこへ行くのか分かっている。
総司が気づいている事を土方が分かっている事も総司はちゃんと分かっていた。

総司もセイに会いたいと思っていた。
しかしきっかけがどうしてもつかめずにいた。
土方が無理やりつれていくという形にはなったが、その事に総司は内心感謝していた。



しばらく走っているうちに、セイの入院している病院が見えてきた。
総司は急にそわそわし始めた。
平静を装ってはいるが、やはり緊張しているのだ。

(可愛いやつめ)
土方はその総司の態度を見て、笑いをこらえていた。

病院の駐車場に車を止めた土方が先に車を降りた。
総司も続いて降りる。
そして土方は後部座席を開け、花束とお菓子の箱を取り出した。
「ほれ、これ持って行け」
総司はあっけにとられながらそれを受け取った。
「用意周到ですね」
土方はふんと鼻で笑って病院の中へ入っていった。

病室のある階まで来ると、土方は外で待っていると良い、談話室になっている廊下のソファに座ってタバコを吸い始めた。
総司は仕方なくセイの病室に1人で向かった。
しかしなかなか中に入る事が出来ない。
何と言って声をかけて良いかも分からない。
どうしようか悩んでいる間に、このままここにいても仕方ないと、とりあえずノックした。

「はい」
中から静かに返事が聞こえた。

久しぶりに聞くセイの声に、総司の心臓が震えた。
震えながらドアをそおっと開けた。


セイは、ノックがした時ベッドに座って窓の外を眺めていた。
ドアが開いて人が入ってきた気配がした。
どうせ様子を見に来た医者か看護婦だと思い、振り向かなかった。
しかし、ドア付近に立ったままこちらに来る気配がない。
それに話しかけても来ない。
不振に思ったセイはゆっくりと振り向いた。

「・・・っ」
そこに立っている人物を見て、セイは目を見開いた。

「こんにちは」
遠慮がちに総司が言った。
しかし、セイは口を一文字に閉じたまま何も言わなかった。
そして総司をじっと見ている。

沈黙。

総司は何を言って良いか分からず、ただそこに立ち尽くしていた。
セイは、じっと総司の顔を見ていたが、何も言わずふっとまた窓に顔を向けた。

総司の胸がちくっと痛んだ。

怒らせて当然だ。
きっと彼女は自分のした事に原を立てているだろう。
何と声をかけて良いか、必死に考えた。

「・・・・セイ」
やっとの思いで呼びかけた。
しかしセイは振り向かない。

かすかにセイの肩が震えているように見えた。
「セイ?」
再び呼びかけるが、セイは振り向かない。
不思議に思った総司がセイに近づき、顔を覗き込んだ。

セイは泣いていた。
必死に声を出さずにボロボロと涙を流していた。

「セイっ!? どうしたんですか??」
びっくりした総司が、セイの肩を抱いて訪ねた。

「・・・っく」
セイは泣きながら、総司を見上げた。
「そんなに私が来るのが嫌でしたか? ごめんなさい。 帰りますから泣かないで下さい」
総司は悲痛な面持ちで訴えた。

そして、セイから離れ、花束と菓子を棚に置き病室を出ようとした。

「・・・で下さい」
セイが小さな声で言った。

「え?」
総司は足を止めて振り向いた。

「・・行かないで下さい」
セイは泣きじゃくりながら哀願した。

総司はセイを振り返ったまま立ち尽くしていた。

「私の事嫌いになりましたか?」
セイは総司を見上げて訪ねた。

「そんな事・・」
あるはずがない。
むしろ、その逆だ。
好きで好きで仕方ない。
だから、セイが記憶をなくしている状況が耐えられなかったのだ。

「あれからずっと来てくれなかったじゃないですか。 私がどんなに待っていても全然来てくれなかった」
「待ってて・・・くれたんですか・・?」
総司は、セイが自分の事を待っていてくれた事に歓喜を覚えた。
しかしその問いに、セイは何も答えない。

「私の事怒ってないんですか?」
総司は、恐る恐る訪ねた。

「どうして私が怒るんですか? 総司さんの方が怒っていたんじゃないですか。 私本当に嫌われたと思って、どうしたら会いに来てくれるんだろうって毎日考えて・・」
そこまで言ったところで、総司はセイを抱きしめた。

セイが記憶を失くしてから、総司は極力セイに触れないようにしていた。
今のセイにとって、総司は他人同然だと思っていたからだ。

突然抱きしめられたセイは、びっくりして声を出せずにいた。
総司は更に強くセイを抱きしめた。
「ごめんなさい。 本当にごめんなさい。 嫌な思いさせてしまって」

セイの目にはまた涙が溢れてきた。
総司の胸の中でぬくもりを感じながら、咽び泣いた。