未来への地図 3
電話を終え、セイの病室に戻ってみると、リンがセイのベッドの横に座り、セイの顔を悲しそうに見つめていた。
「お母さん、お疲れじゃありませんか?」
リンは表情のない顔を総司に向けた。
「寝ている顔を見ていると、記憶を失くしているなんて分からないのにね。
セイの私を見る目が全くの他人なの。 それが辛くて・・・・」
リンの気持ちは痛いほど分かった。
総司もそうなのだ。
常にセイの目の中に見える不安。
何を見ていても誰を見ていても、今の彼女には不安しかないのだ。
「私と2人きりになるのは今のセイには辛いんじゃないかと思って。 そう思うと、ここにはあまり
来ない方が良いのかしら・・・」
「お母さん、今セイに記憶が無くても、親子じゃないですか。 お母さんがそんな気弱だと、彼女の記憶も戻らないし、彼女が頼れる人がいなくなっちゃいますよ?」
総司は優しくリンに話しかける。
「そうかしら・・ このまま退院して、今のセイと2人きりになったらどうしたらいいのかと、そんな事
ばかり考えちゃって。 母親失格ね」
と、涙を拭う。
「もし、良ければ退院したら私がセイの面倒を見ましょうか?」
リンは驚いて総司を見上げる。
「もしセイが嫌がるなら私がお家へお邪魔して3人で暮らすのは駄目でしょうか?」
「でも・・」
「お母さんの事は、本当の母親のように思ってるんです。 困った事があれば、力になりたいんです。
セイと結婚しても、セイと私の間ではお母さんも一緒に住もうと既に決めていました。
ご迷惑でなければ、どうでしょうか?」
リンは更に溢れる涙を止める事が出来ないでいた。
「本当に・・・ ありがとう・・・」
総司はにこっと笑った。
「いいえ、私にはこんな事しか出来ませんから。」
「2人でセイを支えて行きましょう。」
「ええ」
2人は微笑みあった。
コンコン
部屋がノックされて、土方が中へ入ってきた。
「土方さん! 早かったんですね!」
総司は嬉しそうに土方を迎え入れる。
リンも立ち上がり、会釈する。
「ご無沙汰してます、失礼して宜しいですか?」
土方が丁寧にリンに挨拶をする。
「もちろんです。 わざわざ来て頂いてありがとうございます。 どうぞごゆっくりしていって下さい。」
そう言って、リンは気を使い部屋を出た。
土方はまずベッドに寝ているセイを見た。
「寝てるのか?」
「はい、お昼過ぎくらいからずっと。 多分体力もないんでしょうし、気疲れもあったんでしょう」
「そうだろうな」
と言い、ベッドの横に置いてあるイスに座りながら総司お見舞いの果物バスケットを渡す。
「退院の見込みは?」
「それはまだまだですよ。 足の骨が折れているのと、体中内出血と傷だらけですからね。
数ヶ月は入院生活だと思いますよ」
総司はため息をつきながら答える。
「ん・・・」
2人が声のしたほうを見る。
セイが目を覚ましたようだ。
「セイ、目が覚めましたか?」
「・・・総司さん?」
セイはゆっくり目を覚まし、総司を見て、それから自分の横に座っている土方に目を向けた。
「そちらの方は?」
「私たちの結婚式で、スピーチをお願いしている私の会社の上司の土方歳三さんですよ」
セイは土方を見ているうちに、みるみる顔を赤らめていった。
そして、
「かっこいい・・」
と言った。
これには2人とも止まってしまった。
「ちょ、ちょっとセイ!?」
「ぶははははははははっ! そうか! 記憶はなくしても、俺のかっこよさはちゃんと分かるのか!」
総司はオロオロし、土方は爆笑していた。
「セイ! 婚約者は私ですよ!」
それでもまだセイは土方を見て顔を赤らめている。
「セイ!」
「あ、ごめんなさい」
セイはやっと総司に向き直った。
総司は気が気ではなかった。
もしかしたら、記憶を失くしている今、セイが土方を好きになってしまうかも知れないと思ったのだ。
「あっ、私ったら寝たままで・・」
と言って、起き上がろうとした。
それを総司が手伝う。
「私と土方さんは何度か面識が?」
「何度もな。 しかもお前らの喧嘩の仲裁までさせられた事がある。」
土方は面白そうにセイに話しかける。
「そ、そうなんですか・・・ 何も覚えてなくて・・・」
セイはまたもや顔を赤くして下を向いてしまった。
「最後に会ったのが去年だ。 ちったぁおとなっぽくなってるかと思えば、
やっぱりまだまだ子供だな」
土方はふふんと鼻を鳴らしながら楽しそうに話している。
「ちょっとっ 土方さん! セイは記憶がないんですよ! もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃない
ですかっ!」
「何だよ、本当の事言ってるだけだろうが」
「でもですねぇ!」
2人の言い合いを聞いていて、思わずセイは笑った。
何だか、この空気が懐かしいような気がする。
思い出せないが、前にもこんなこんな言い合いを聞いた事があるような気がする。
「そ、それでセイ!? 土方さんの事を好きになったりしないですよね??」
セイは、あははと笑った。
「それはないです。 だって、私美形すぎる人って逆にダメなんですもん」
と言ってから、
「あっ! すみません、総司さん。 そういう意味じゃなくて」
とあたふたする。
これには2人が爆笑する。
「え? え? どうして笑うんですか??」
お腹を抱えながら笑っている総司が、苦しそうに言う。
「だって、セイ 初めて土方さんに会ったときと全く同じ事言うんですもん」
「本当ですか?」
「えぇ、やっぱり記憶がなくてもセイはセイなんですね」
そう言われて、セイはちょっと照れたように笑った。
「そうですか? ふふふっ 」
3人は、その後も面会時間ぎりぎりまで他愛のないおしゃべりをした。
セイはその間、総司と土方のやり取りを見てずっと笑っていた。