repayment of a kindness 前編
この日、沖田総司はバイトで残業をして疲れた体を引きずるように帰っていた。
「?」
もうあと少し歩いたら家だという裏道に入ったとき、何かの物体が目に入った。
総司は気になり近づいてみると、足に怪我をして血まみれになっている子猫だった。
「どうしたの? 怪我しちゃったのかな?」
総司は、子猫をそおっと抱き上げてみた。
子猫は総司の手の中で震えている。
良かった、命に別状はないみたいだ。
総司は、バイトで使った汗の滲んだタオルに子猫を包み、大事そうに抱え家に連れて帰った。
家に帰ると、まず子猫の足の傷を消毒し、奇麗に体を拭いてから丁寧に包帯を巻いた。
真っ白な子猫はとても可愛かった。
「ミルク飲むかな」
ぬるめに暖めたミルクを、皿に入れて猫の前に出してやると、ペロペロとなめ始めた。
「美味しい?」
子猫の頭を軽く撫でながら、総司は訪ねる。
『みゃぁ〜』
子猫は、総司の顔を見上げて可愛く鳴いた。
「ふふふ、可愛い」
総司には、両親がいなかった。
大学生の総司は、自分の学費を稼ぐため、毎日バイトで夜中まで働いていた。
友達と遊ぶ時間もなく、もちろん彼女もいない。
学校とバイトとの往復だけの日々に、少々疲れていた。
そんな時、現れた子猫。
総司は、この猫の面倒を見ようと決めた。
「お前、この家の子になるかい?」
ミルクを飲んでいる子猫を見ながら総司は訪ねる。
一瞬猫は総司を見上げて『みゃあ』とひと鳴きすると、またミルクを飲み始めた。
「そっか、この家の子になってくれるのか〜。 じゃあ名前付けないとね」
総司は色々名前を考えた。
・・・が、元々深く考える事が苦手な総司は、何も思い浮かばない。
「シロ・・・で良いかな」
白いから、シロ。
安易すぎるかなとは思いつつ、いっかぁと総司は思った。
その日、総司はシロを抱いて寝た。
ミルクを沢山飲ませてもらったシロは、お腹をパンパンにして総司の腕の中で安心しきった顔で寝ていた。
それから、総司はシロを大切に大切に育てた。
シロも総司になつき、総司が家にいる時はずっと総司の膝の上に乗り甘えた。
総司にとって、シロはなくてはならない存在になっていた。
シロが可愛くて可愛くて仕方がない。
毎日家に帰るのが楽しみになっていった。
シロが総司の家に来て2週間ほど経った頃、総司が帰宅するとシロの姿がなかった。
「シロ?」
総司は家中探し回ったのだが、どこにもいない。
「逃げちゃったのかな・・・」
念のため、アパートの外も見回ってみたのだが見つける事はできなった。
落胆しながら、総司は自分の部屋に戻った。
すると、中に何か気配がした。
総司は急いで靴を脱ぎ、中へ入った。
「シロ!?」
シロが帰ってきたのかと思い、部屋の中に入ると、知らない女の子が居た。
「え・・?」
真っ白のワンピースを着た、とても可愛らしい女の子が、自分の部屋にちょこんと座っている。
「あの・・ あなた誰ですか?」
総司は何が何だか分からず訪ねてみた。
女の子は総司を見て、にこっと微笑んだ。
「えーと・・ どうしてここに?」
「私は、あなたに助けて頂いたシロです。 あなたに恩返しをしに来ました」
「は??」
総司は、女の子の言っている意味が分からず、思わず聞き返した。
「あの・・ 本当なんです。 ほら」
と言って、女の子は立ち上がり、足を総司に見せた。
女の子の足には包帯がしてあった。
「これ、あなたに手当てしてもらった傷です。」
それを見ても、総司は俄かには信じられなかった。
「本当の名前はセイと言います。 助けて頂いた時、私はお母さんや兄弟達とはぐれてしまったところを、知らない大きな猫に襲われたんです。 あの時は、もうだめだと思ったのですが、助けて頂いてこんなに元気になれました。 ありがとうございました」
女の子は深々とお辞儀をした。
「いえ・・ そんな、とんでもない・・」
何となく、総司は返事をしてしまった。
「私は何かお返しが出来ないかと毎日考えていたのです。 すると、神様が総司さんの願いを1つだけ叶えてあげなさいと言いました。 それで人間の姿に変わり、ここに戻ってきたのです」
「願い?」
「はい、何でも1つだけ叶える事が出来ます。 何かありますか?」
突然告げられた内容に、総司の頭がついていかない。
「突然そんな事言われても・・・」
「本当に何でも良いですよ? お金持ちになりたいとか・・」
総司には欲がなかった。
お金なんて仕事をすれば稼げる。
友達だって、いない訳ではない。
今の生活はもちろんキツイが、不満はなかった。
「えーと・・ じゃあ考えるのに時間もらえますか? 思いついたら言います」
「ふふっ はい、大丈夫ですよ? それまでお待ちしますから」
セイと名乗った元子猫の女の子はふわりと笑った。
「その・・ すみません。 お腹空きませんか? 私ぺこぺこなんですけど・・・ ミルク飲みます? それとも普通にご飯食べますか?」
「私は何でも大丈夫ですよ? 総司さんにお任せします」
「じゃあ何か作りますので、そこに座って待っててもらえますか?」
そういうと、総司はキッチンに立ち、食事を作り始めた。
総司の頭の中は「????」だらけだった。
・・・が、やはり深く考える事が苦手な総司は、この状況を取り合えず受け入れるしかなかった。
2人分の食事を作り、テーブルに出す。
「どうぞ、お口に合うかどうか分かりませんけど・・」
2人は、食べ始めた。
「美味しいです」
一口食べたセイは、嬉しそうに微笑んだ。
「本当ですか? 嬉しいなぁ。 今まで自分の作った料理を人に食べさせた事なんてないから緊張しちゃいましたよ」
と、総司もどんどん食べる。
こんなに食事が美味しいと感じたのは、いつぶりだろうか?
今まで1人で食べていた食事を、誰かと食べている。
人と食べるというのが、こんなに美味しいものだと初めて気づいた。
「あっ、総司さん、口の横にご飯粒ついてますよ」
セイは、総司の顔についているご飯をとって、ぱくっと食べた。
その行動を見て、総司は真っ赤になった。
「ふふふ」
セイは首を傾けて微笑んだ。
「す、すみませんっ」
女の子に対してほとんど免疫のない総司には、刺激の強すぎる行動だが、セイは元猫なのでそんな事分からない。
食事も終わり、総司はセイにお風呂を勧めた。
しかし、セイはもちろんお風呂に入ったことがない。
一緒に入りたいと言い出したのを、総司は真っ赤になりながら拒否した。
「でも・・ 水は苦手で・・ 1人で水を浴びるなんて出来ません・・」
上目遣いに総司を見上げるセイに、総司は慌てた。
「そ、そんなっ 一緒に入るのは絶対にダメです!!」
「猫の時は一緒に入ってくれたのに・・」
「それとこれとは違います!!」
「でも・・ 入り方も分かりません・・」
そうだ。 猫なのだから、お湯の出し方も体の洗い方も分からなくて当然だ。
一生懸命考えた総司は、セイを銭湯に連れていくことにした。
そこなら、他のお客さんの荒い方を見て覚えてくれるだろう。
思いついた総司は、用意をしてセイをアパートから連れ出した。
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