別れ路   前編



セイが、土方に総司との修道の仲を疑われ3番隊に異動になってから3日。
セイは、突如副長室に呼ばれた。

「神谷です。」
「入れ」
土方の無愛想な返事に、セイは副長室の襖を開けた。

中には、総司と斉藤が土方の両隣に座っていた。
土方の表情は堅く、総司は下を向いておりどんな表情か分からなかった。

「失礼します」
ただならぬ雰囲気に、セイは緊張の面持ちで中に入った。


土方の前に座すると、土方が口を開いた。
「神谷清三郎、本日を持って除隊を命ずる」
「っな!!」
反論しようとしたところに、更に土方は言い放った。
「女子という事を隠していたな。」
その言葉に、セイの頭の中は真っ白になった。

「これ以上ここにお前を置いておく事は出来ん。」
セイは総司を見た。
が、総司は下を向いたままで、セイと目を合わせようとしない。

「今後の事だが、お前はここに居る斉藤が娶る事になった」
セイはびっくりして顔を上げた。

「本来なら俺らを騙していた罪で切腹と言いたいところだが、総司と斉藤が責任をとると言い出した。
 それで斉藤が娶るという事で落ち着いたんだ。 斉藤に感謝しろよ」
土方は、鼻をふんと鳴らしてセイを睨んだ。

「そん・・な。 私は誰の元にも嫁ぐつもりはありません! それなら切腹をお申し付けください!」
セイは必死で土方に訴えた。

「ダメだ。 これはもう決まったことだ。」

その言葉に、セイは刀を抜き自分の腹に突き刺そうとした。
瞬間、セイの目の動きと表情から行動を察した総司に素早く手刀で刀を落とされ、その場に押さえつけられた。

「先生っ! 離してっ」

「切腹は絶対に許しません。 あなたと斉藤さんの祝言は既に決まった事です。 大人しく従いなさい」
総司はセイを見下ろしながら、苦渋の表情で言った。

「嫌ですっ! 私はここに居たいんです! それがダメなら生きている意味はありません!」
「いい加減にしなさい。 斉藤さんに失礼だとは思いませんか。 あなたの事を思ってこのお話を持ちかけて下さったのですよ。」
総司は、セイから脇差も取り上げ、押さえつけていた手をどかせた。

「幸せになるんですよ」
そういうと、セイの大小を持ち土方の部屋を後にしようとした。

「沖田先生!」
セイの呼びかけにもこたえず、総司はそのまま部屋から出て行ってしまった。

セイはゆっくりとその場に起き上がった。

「今後の事は追って沙汰する。 それまでは里という女のところで待つように」
土方は感情の篭らない声で言った。

セイは声を発する事が出来なかった。

「もう行ってよし」
土方のその言葉にもセイは立ち上がる事が出来ない。

見かねた斉藤が、セイの腕を持ち立ち上がらせた。

「大丈夫か」
セイは答えない。

「すみません、神谷を女の家まで送って来ます。」
そう言って、斉藤はセイの腕を引き土方の部屋を出た。

屯所の中を歩いていると、隊士達が血の気の失せた顔のセイを心配そうに振り返る。
しかし斉藤が一緒なので誰も声をかけない。

「まだ誰にも知らされていない。」
やはりセイは何も答えなかった。

屯所を出て里の家に着くと、セイの様子に里は驚いた。

「おセイ・・清三郎はん! どうされはったん!?」
「お里さん、話があります」
セイと斉藤は里の家に上がり、斉藤から事の詳細が里に告げられた。

「それはほんまどすか」
「はい。 今後の事はまだこれから決めますので、それまで神谷を預かってもらえると助かります。」
「それはもちろんです。 でも・・ その・・」
里は言いづらそうに斉藤を見上げた。

「沖田さんなら承知してますが」
里の言いたいことが何かを瞬時に察知し、先に答えた。
「そう・・どすか・・」
斉藤の答えに、里は落胆した表情で俯いた。
そしてセイを見た。
セイはただ一点を見つめ、何も言葉を発しない。

「ではこれからまだ仕事が残ってますので。 神谷を宜しく頼みます」
そう言って斉藤は里の家を出て行った。


「おセイちゃん・・」
里は何と声をかけて良いのか分からず、セイに近づき名を呼んだ。
やはりセイは何の反応も示さない。
もはやセイには生気がなかった。




屯所に戻った斉藤は、まず総司を探した。
総司は、隊士部屋で何をするでもなく、座り込んでぼーっとしていた。

「沖田さん」
声をかけると、総司はゆっくり振り返った。

「斉藤さん。 神谷さんはもうお里さんのところへ?」
「本当に良いんだな。」
「やだなぁ。 当然じゃないですか。 斉藤さんとなら、きっと神谷さんは幸せになれますよ。 これで私も一安心です。 可愛い妹が旅立った感じで何だか淋しいですけどね」
総司は笑顔で答えた。

斉藤は、「それならいい」と言って、その場を後にした。
斉藤の後姿を見つめ、総司はふぅとため息をついた。



セイが女子だろうと斉藤に詰め寄られたのは、つい今朝の事だった。
勘の良い斉藤の事だから、いずれ気づくだろうとは思っていたが、まさかこんなに早くバレるとは思っていなかった。
女という事を認めると、斉藤は土方に本当の事を全て話し自分が娶ると言い出した。
とっくにセイに対しての恋心に気づいていた総司だったが、自分には誠がある。
生涯誰も娶るつもりもないし、娶ったところで幸せにする自信など微塵もなかった。

だから、斉藤の申し出にはもちろん賛成だった。
斉藤なら絶対に幸せにしてくれる。


なのに、何がひっかかるのだろう。
モヤモヤとしたものが取れないでいる。
最後に見たセイの顔が今でも頭に焼き付いている。

もう二度とセイには会わない。
総司はそう決めていた。
セイの存在も自分の中から消してしまおうと。




セイが新撰組を除隊してから2日経ち、隊士達にもその事が伝えられた。
皆一同に動揺を隠せずにいた。
が、誰もがどこかで納得していた。

「神谷。 元気にしているか」
セイが里の家に来てからというもの、毎日斉藤はセイの元を訪れていた。
しかしセイは決して斉藤の目を見ようとしない。

「斉藤せんせ・・ すみません。 おセイちゃん、ずっとあんな感じなんです」
里が話しかけても答えない上、食事もとらず睡眠もとっている様子がない。
その場に座り込んだまま、ただ息をしているだけの状態だった。

斉藤はセイの隣に座った。
「神谷」
反応はないが、お構いなしに斉藤は離し始めた。

「婚礼の日取りが決まった」
かすかにセイが揺れた気がしたが、反応はなかった。
斉藤は日取りと場所をセイに伝えた。

「当日は局長を初め、幹部連中と1番隊が参列する。 またそれまで様子を見に来るからな。」
そう言って、里を見た。
里は悲しげに斉藤を見返しただけで、何も言わなかった。
斉藤は里に1度うなづき、そして立ち上がりかえっていった。


里はセイの様子が痛々しかったが、自分にはどうする事も出来ない事が分かっていた。
セイをじっと眺めていた里だったが、何か思いついたように出かける用意を始めた。

「おセイちゃん、ちょっと出かけてきます。 すぐ戻るから待っててね」
そういうと、里はいそいそと家を出て行った。








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