永遠    前編


「えっ お見合い!?」
総司は、あまりに驚いて口に入れた団子を喉に詰まらせそうになった。
「先生っ 大丈夫ですか?」
慌ててセイは総司にお茶を差し出した。
それを受取ると、急いで飲み込む。
喉のつまりが取れると、総司はふぅっと息を吐いた。

「ありがとうございます。  それで、お見合いってどういう事ですか?」
「そのー‥ 今朝おっちゃんから大事な話があると言われて・・・ 私ももう隊を出てだいぶ経つし、年齢的にももう嫁いでもおかしくないだろうって・・」
言いづらそうに総司を上目遣いに見てそういうセイに、総司の顔が曇った。
「それで・・ あなたはその見合いを受けるつもりでいるのですか?」
「まだ悩んでます。 でもこのままおっちゃんの所にずっとお世話になる訳にもいかないし、多分・・ 受けることになると思います」
それを聞いて、総司は目を伏せた。
「そう・・なんですか・・」

2人の間には気まずい空気が流れる。


「相手の方は・・」
「えっ?」
「どんな人なんですか? 年齢は? 仕事は何をしている人ですか? 身元はもちろ
んしっかりしているのでしょうね?」
急に厳しい口調になった総司に、セイは驚いて総司を見上げた。
「何ですか、急に」
「ちゃんと聞いておかなかったのですか? あなたの一生を決める問題ですよ」
「あ、いえ。 もちろんきちんとと聞きました。 確かおっちゃんの知り合いの医者さまの息子
さんとかで・・」
「それで?」
「えっと・・・  結構大きな病院のようです」
「場所は京都なのですか?」
「いえ、大阪だと言っていました」
「・・・・・」
そこまで聞くと、総司は黙ってしまった。

セイはどうしたのかと、不思議そうに総司の顔を覗きこむ。
「沖田先生?」

「松本先生のお知り合いでしたら、きっと文句の付け所のない方なのでしょうね」
「えっ?」
「良かったですね、神谷さん」
総司はにっこりと微笑んだ。
「・・・・良かった?」
「ええ、これであなたもやっと幸せになれるじゃないですか」
総司の言葉に、セイは悲しげな表情になった。

「お見合いをするのでしたら、もう私なんかと一緒にいてはまずいですね」
「先生・・」
セイの表情がみるみる曇っていく。
「こうして一緒に甘味処へ来るのも、今日が最後になりますね。 今まで付き合ってくれて、ありがとうございました」
「・・・・」
ぺこっと頭を下げる総司を、セイはただ呆然と眺めていた。

「じゃあそろそろ行きましょうか。 家まで送りますよ」
そう言って立ち上がった総司に、セイは首を振った。
「いえ、私は1人で帰れますからここで大丈夫です」
「そうですか? でも危ないですよ?」
「ここで・・ 大丈夫です・・」
下を向きながらそう呟くセイに、総司は苦笑いした。
「分かりました。 ではここで。 幸せになるんですよ」
総司はセイの頭に軽くぽんぽんと手を置くと、店に金を払いその場を後にした。

総司の姿が見えなくなると、セイの瞳にはみるみる涙が浮かんだ。



もしかしたら、止めてくれるかもと思った。
しかし予想通りの反応だった。
きっと総司は、セイのお見合いの話など気にも留めないだろうと思っていた。

セイの瞳からはポロポロと涙がこぼれる。


総司は二度とセイに会いに来ないだろう。

両手で顔を覆うと、しゃくりあげて泣き出した。






セイが女と露見したのは、数ヶ月ほど前のことだった。
必死になって隠し続けていた秘密は、驚くほど簡単にバレてしまった。
切腹を覚悟したセイだったが、近藤と土方が出した結論は松本の助手になることだった。
詳しくは聞いていないが、松本が2人(特に土方)を説得したらしい。
隊を出てからは、松本の助手として医学の勉強をしながら一生懸命働いた。
新撰組の検診にも出向いており、仕事が終わるとこうして総司に誘われこれまでのように甘味処へ行ったり散歩に付き合ったりしていた。

しかし、もう今後総司から誘われる事などないだろう。
それどころか、見合いをしてしまえば大阪へ行く事になる。
新撰組とも総司とも縁を切らなければいけなくなってしまうのだ。







屯所に戻った総司は、階段に腰をかけるとがっくりと肩を落とした。

とうとうこの日が来てしまった。
セイが隊を出てから、いつかこのような日が来るとは思っていた。
その時自分はどうするのだろうと、考えた事もあった。
しかし出した結論は、彼女の幸せの為に笑顔で見送る事だった。

セイが隊を出るだいぶ前から、セイへの恋心には気づいていた。
早く隊から出して誰かいい人の元へ嫁がせて幸せにさせたい。
そう思っていても、どうしても手放せなかった。
セイが女と露見して松本の所へ身を置く事になったと聞いた時、すぐに誰かの元へ嫁ぐ訳ではなかったのだと知り安心したのも事実。
この矛盾した気持ちをどうして良いのか、自分でも良く分からなかった。

しかしそれも今日までの事。
今後彼女を見守るのは自分ではなくなる。

総司は暗い気持ちのまま、その場を立ち上がった。


「よう、総司」
行く当てもなく、ふらっと歩き始めた総司を、背後から呼ぶ声が聞こえた。

振り返ると、憮然とした表情の土方がいた。

「土方さん。 何か用ですか?」
「何だその顔は」
「顔? 元々こんな顔ですけど・・ 何かついてますか?」
土方が近づいて、総司の顔をニヤッと笑いながら覗きこんだ。

「何か嫌な事でもあったか」
「はぁ?」
「当ててみてやろうか? 女がらみだろう」
「はぁっ!?」
総司は思わず顔を真っ赤にして後ずさった。
「やっぱりな。 何か思いつめたような顔してやがると思ったぜ」
「な、何を言ってるんですかっ! 私にそんな人いる訳ないじゃないですかっ!」
「ふーーん。 別に興味はねぇがな。 ま、何かあればいつでも相談に乗ってやるからいつでも来い」
「だからありませんてばっ!!」
真っ赤になって反論するが、土方はふふんと笑っている。

「そう言えば、神谷だがな」
「えぇっ!?」
突然出てきた名前に、総司は飛び上がった。
「何なんだよ、お前はいちいち」
土方は呆れたような顔をして総司を見る。
「いえっ! 何でもありませんっ! それで、神谷さんがどうかしましたか」
総司は心臓を抑えながら、何とか気持ちを落ち着かせようと大きく息を吸ったり吐いたりしている。
「松本先生から連絡があってな。 そろそろあいつを嫁に出したいと相談を受けた」
「はぁ・・」
総司は耳を塞ぎたい気持ちを必死に抑えた。
「俺も近藤さんもその話には大賛成でな。 あいつもそろそろ年頃だ」
「そうですね・・・」
「しかも松本先生の紹介とあれば、悪い話な訳がねぇ。 随分大きな病院だって話だ。 あいつもやっと人並みの女としての幸せを・・」
「あの、土方さん」
尚も話そうとしている土方を、総司はやんわりと制した。
「何だ?」
「私、ちょっと行くところがあって・・ その話はまた今度でも良いですか?」
「あ? 別に構わんが」
「すみません、では私はこれで」
そう言うと、総司は土方に軽く会釈をしその場を後にした。


後姿からでも分かるほどがっくりと肩を落としている総司を見て、土方は噴出しそうになるのを必死で抑えながら、その姿を見送った。



後編