「タイムスリップ 63」
「颯ちゃん、ちょっと良い?」
振り向くと、瀬奈が扉の向こうから小さく手招きをしていた。
颯太は、ぐいぐいとこれでもかと絞めていた総司の首から手を離し、その場に倒れこんだ総司を放って瀬奈の元へ行った。
瀬奈に促されるまま、廊下に出ると、瀬奈は大きくため息をついた。
「セイちゃんから全部聞いた」
呆れたようにそう言うと、瀬奈はうなだれた。
「えっ セイさんから? で、何だって!? やっぱり沖田さんは…」
声を荒げた颯太に、瀬奈はブンブンと首を振った。
「違うの… まだそっちのが良かったかも知れない」
「は?」
「沖田さんね… いきなりセイちゃんにキスして、そのまま気を失ったらしいの」
「・・・・・・はぁ?」
颯太は、瀬奈の言っている事の意味が分からず眉間にしわを寄せた。
「私にも一体何がなんだか分からないんだけど・・ セイちゃんは、そんなに自分にキスしたのが嫌だったのかとショック受けちゃったらしくて・・」
「・・・・・・・」
さすがの颯太も言葉を失ってしまった。
「だから、沖田さんがセイちゃんの事襲ったとか、そう言う事は一切なかったって事。 私たちの勘違い」
瀬奈の言葉に、颯太は思いっきり大きなため息をついた。
「僕… 沖田さんの生まれ変わり、やめたくなってきた…」
颯太が出て行って1人きりになった総司は、頭を抱えながら必死にセイに何をしてしまったのか思い出そうとしていた。
しかしセイに口づけをした後からの事を、どうしても思い出す事が出来ない。
一体セイに何をしてしまったのだろうか。
本当にあんな事やこんな事をしてしまったのだろうか。
よし、切腹しよう。
セイに合わせる顔がない。
このまま一緒に元の時代に戻って、これまで通り隊務に就けるはずがない。
それどころか、彼女はもう二度と自分の元にいたいなどと思わないだろう。
総司は、何か腹を切るものはないか周りを物色し始めた。
しかしこの時代には簡単に腹を切れるような刃物はない。
どうしたものかと部屋をうろうろし始めた。
「何やってんですか、沖田さん」
ハッとして声のした方を見ると、颯太と瀬奈が腕を組んでこちらを見ている。
総司は真っ赤になり、その場に座り込んでしまった。
そんな総司の前に、2人は同じように座った。
やっと落ち着いたセイは、ソファに座って先ほどの事を思い出していた。
色々と起こりすぎて、頭の中が整理出来ない。
総司と両想いになったところまでは良かったのだ。
しかしうっかり総司のピーを見てしまい、錯乱状態に陥ってしまった。
恥ずかしくて顔を合わせられなくなってしまい、総司の事を避けるような行動を取ってしまった。
そんなセイに、総司は抱きしめて、く、く、く、口づけ(きゃぁぁぁぁぁぁっ)してきたのだ。
その事を思い出したセイは、顔を真っ赤にして顔を両手で包んだ。
まさかこんな日が来るとは思っていなかった。
何が何だか分からないうちに終わってしまったが、あの瞬間、本当に今まで生まれてきてから最高の幸せを感じた。
それなのに…
それなのに……(怒)
思い出せば思い出すほどふつふつと怒りがわいてくる。
勝手に口づけをしておきながら、泡を吹きながら気絶するなんて(怒)
「そんなに嫌なら、しなきゃ良いじゃないっ! どうせ先生は私の事なんて好きじゃないんだわっ!! もう先生なんて知らないっ! あの馬鹿ヒラメっ!!!」
怒りに任せて叫んだ瞬間、背後に人の気配を感じた。
セイはハッとして、ゆっくりと後ろを振り向いた。
そこには、颯太と瀬奈に連れられた、今にも泣きそうな顔の総司が立っていた。
「あの2人、本当に大丈夫かしら」
「さぁ… でもこればっかりは僕たちがどうする事も出来ないでしょ。 あとは2人の問題だよ」
リビングのソファに土方を寝かせ、その向かい側に2人は座りながら飲み直していた。
相変わらず大きないびきをかきながら土方は気持ちよさそうに寝ている。
土方は酒はあまり強くないと総司から聞いていたのだが、近藤の生まれ変わりらしき人物と会えた事がよほどうれしかったのか、これでもかという程飲んでいた。
まだまだセイ達ががこちらの時代にいるような事があれば、下山も呼んで皆で会うのも悪くないなと颯太は思っていた。
「もうすぐ2時になっちゃうね。 いい加減眠くなってきちゃった」
そう言いながら、瀬奈はあくびをした。
「うん、僕も。 寝ちゃおっか」
「そうね。 あの2人に一応声かけてくる」
瀬奈は立ち上がると、セイと総司のいる寝室に向かった。
ドアをそっと開けると、瀬奈は息を飲んだ。
寝室の中は、異様な空気が漂っている。
照明がついているにも関わらず、黒い空気が渦巻いている。
そこには、無言のまま総司とセイが正座をして向かい合って座っていた。
ただならぬ空気に、瀬奈は思わずそのまま声をかける事が出来ずドアを閉めた。
がんばれ、セイちゃん。
そう心の中で言うと、瀬奈は颯太の元へ戻った。