「タイムスリップ 62」
どのくらい時間が経ったのだろう。
セイの混乱していた頭の中は、少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。
しかし、先ほどから総司はセイを抱きしめたまま動かない。
セイ自身も総司の顔を見るのは恥ずかしかった。
しかしいつまでもこのままでいる訳にはいかない。
「お、沖田先生?」
勇気を振り絞って名前を呼んでみた。
「・・・・・・・・・・・」
全く返事がない。
それどころか、微動だにしない。
「先生?」
もう1度読んでみる。
やはり反応がない。
不思議に思い、セイは総司から少し体を離して顔をのぞいてみた。
「!!!」
セイは顔をひきつらせた。
総司は、白眼を向いて今にも口から魂が抜け出ようとしている。
何故…
いきなり自分に口づけをして抱きしめておきながら、なぜ白眼を向いて気絶しているのだろうか…
意味が分からない。
そんなに自分との口づけが嫌だったというのだろうか。
「ちょっとっ! 沖田先生…?(怒)」
再度総司を揺らしてみる。
しかしぐらぐらと揺れるだけで反応がない。
セイの体がぷるぷると震えだした。
人の初接吻を奪っておいて!!!!!
「沖田先生のあほーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!(怒)」
バタンという音と共に、どかどかと騒がしい足音が家の中に入って来た。
「セイさん只今戻りました?っ」
リビングに入るなり、颯太は楽しげに手を掲げながらそう言った。
颯太の背中には、「ごーごー」といびきをかきながら泥酔して眠っている土方が負ぶわれている。
「…って、あれ? セイさんどうしました?」
リビングの片隅で、ひざを抱いてうつむいているセイを見つけ、颯太は不思議そうに問いかけた。
「セイちゃんただいま?っ! お土産買ってきたよ?! …ん?」
遅れて帰って来た瀬名も、セイの姿を見るなり不思議そうに首をかしげた。
問いかけにも答えず、微動だにしないセイに、2人は近づいて顔を覗き込んだ。
「えっ、セイさんっ??」
「わっ どうしたの!?」
無言で涙をぽろぽろ流し続けているセイを見て、颯太と瀬名は驚いて声を上げた。
瀬奈がセイの前に座りこみ、背中をさすりながら心配そうに声をかける。
「何かあったの?」
セイはしばらく答えずに下を向いていたが、やがてゆっくりと顔を上げると、瀬名に抱きついてきた。
「えーーーーんっ! 瀬名さーーーーんっ!!」
自分の腕の中でわんわん泣き続けるセイを抱きとめながら、瀬名は困ったように颯太を見上げた。
瀬奈の視線を受けとめながら、颯太も首を傾ける。
「そう言えば、沖田さんは…?」
颯太の言葉に、一瞬セイは体をびくっと震わせると、更に大声で泣き始めた。
セイの様子に、2人は眉間に皺を寄せながら顔を見合わせた。
『沖田さんと何かあったのかしら?』
『何かって、何があったんだろ?』
瀬奈と颯太は、目と目で会話し始めた。
『も、もしかして沖田さんたら…』
その言葉に(実際は視線のみ)、颯太は何か思いついたようにハッとなった。
『もしかして嫌がるセイさんを、無理やり!?』
『それ以外、考えられる?』
颯太は、家を出る時に総司に対して言った言葉を思い出し顔面蒼白になった。
『そうかも知れない…』
ショックで思わず負ぶっている土方を落としてしまった。
落とされた土方は、それでも起きる事はなく気持ち良さそうに眠っている。
「ゆ、許せないっ!!!」
颯太は怒りで顔を真赤にした。
「瀬奈はセイさんをお願い。 沖田さんを探してくるからっ!」
そう言うなり、颯太は総司を探すためその場を離れた。
自分たちの考えが正しければ、きっと寝室でコトに及ぼうとしたはずだと真っ先に寝室に入った。
「沖田さんっ!!」
寝室に入ると、案の定そこには総司がいた。
口から魂が抜けている状態で、白眼を向いて…
「ちょっ! 何やってるんです、沖田さん!」
颯太は総司に駆け寄ると、総司を揺らしながら叫んだ。
そして、飛び出ている魂を掴んで無理やり口の中に押し込んだ。
「うぅ…」
苦しそうに総司は小さく声を出した。
「起きて下さい、沖田さん」
その声に、総司は徐々に意識を取り戻した。
「沖田さんっ!!」
漸く気がついたかと、颯太は総司の顔を覗き込んだ。
「あれ? 颯太さん?」
ゆっくりと体を起こしながら、不思議そうに颯太を見た。
「颯太さん?じゃないですよ! あなた一体セイさんに何したんですかっ!!」
颯太の問いかけに、総司はぼーっと颯太の顔を見ていたが、やがてみるみる顔を赤らめた。
「はっ!! そ、そう言えば神谷さんはっ!?」
突然慌てだした総司を、颯太は冷ややかな顔で見ている。
「セイさんに何をしたんですか」
「なななな何ってっ」
茹でダコのような顔を、総司は両手で隠した。
「私たちが帰ってきたら、セイさん向こうで泣いてましたよ」
「えぇぇぇっ!?」
真っ赤だった顔は、一気に青ざめた。
もしかして、自分が口づけした事が嫌で泣かせてしまったのだろうかと不安になった。
「いくら私がああ言ったからって、無理やり犯すだなんてっ!」
颯太の言葉に、総司は更に顔を青くした。
「はぁっ!? お、犯す!?」
「あなた、ひどい人ですね! 見損ないましたよっ!!」
「ちょちょちょっ 何言ってるんですか!?」
「それで、どこまでやったんですか!? もしかして、最後まで無理やりしてしまったのですかっ!?」
「最後までってっ! 一体さっきから何の事を言ってるんですか??」
総司はもう何が何だか分からなくなった。
一体颯太は何を言っているのだろうか。
そして、なぜセイは泣いているのだろうか。
セイに口づけしたところまでは覚えている。
ものすごーくものすごーーーーく勇気を振り絞って口づけした結果、緊張がピークに達して気を失ってしまったらしく、その後の記憶がない。
もしかして、その後記憶がないままセイに対してあんな事やこんな事を本当にしてしまったのだろうか。
総司はそこまで想像して、「ひぃっ」と叫びながら再び気を失いそうになった。