「タイムスリップ 61」





再びセイに目をやると、まだセイは手元の本をペラペラと興味深そうにめくって見ている。
総司は意を決して、セイが座っているソファの隣に座った。

「神谷さん」
隣のセイを見ると、心なしか座った時よりも距離が離れているような気がする。
きっと気のせいだろう。
気を取り直して、もう1度セイに話しかけてみる。

「何を見ているのですか?」
飛び出しそうになる心臓を抑えながら、セイに近寄りながら一緒に本を覗き込んだ。


「………」

気のせいではなかったようだ。
総司が近寄った瞬間、同じ距離セイは総司から離れた。


何故…


しかもセイに話しかけているのに、無視されている。

「あの、神谷さん?」
恐る恐る名を呼んでみたが、全くこっちを見ようともしない。


やはり自分の(ピーッ)を見てしまった事をまだ気にしているのだろうか。

「神谷さんてば」
そう言うと、総司はセイに手を伸ばした。

「いやっ」
セイはその総司の手を振り払った。



いやっ




って






総司はその場に固まった。

「あっ! ご、ごめんなさいっ!」
セイは慌ててその場に立ちあがった。

総司は呆然としながら、振り払われた自分の手を見つめた。

「え、えーと、その…」
セイはその場を何とか取り繕うとしているようだが、どうして良いか分からずあたふたしている。
そして、寝室に走って入ると、バタンとドアを閉めてしまった。



ガーーーーン




どころではない。

この上ないほどのショックを受けて、総司の頭は全く働かなくなってしまった。

今のは一体何だったのだろう。

自分はセイに嫌われてしまったのか。


想いが通じ合ったのは、つい昨日のことではなかったか。
一緒に写っているポトガラを、あんなに嬉しそうに見ていたではないか。
今日だって、仲良く手をつないで楽しく過ごしたのに。

それなのに、(ピーッ)を見ただけであれほどまでに態度を変えるなんて…


いずれ見る事になるかも知れな…  コホン。 いやいや、そうではなくて。


見られたのは自分だし、何よりも誰にでもあるものではないかっ!









…ん? ちょっと待てよ?
想いが通じ合ったからと言って、自分たちは果たして恋仲と呼べる仲になったのだろうか?
そもそも元の世界では、恋仲になどなれるような状況ではない。
何しろ男だけの新撰組の隊士なのだ。
堂々と恋仲ですと公表すれば、修道の中だと思われてしまう。


…それはマジ困る。


と言う事は…

恋仲ではないという事か。

更には、(ピーッ)を見られてはいけない仲だという事ではないか!!!
もっと言えば、颯太の言う、「あんな事やこんな事」などしてしまってはならないのではないだろうか!!!



何を今までやっていたのだ、自分。
自分だけがすっかり恋仲になっているつもりでいたのだ。
きっとセイは、「はぁ? 想いを告げただけで恋仲になったと思うだなんて、何て図々しい。 私はそんなつもり一切ありませんでしたけど」 とでも思っているのだろう。


はうぅぅぅっ!!!ζ

ものすごい思い上がりではないかっ!!



総司は頭を抱えた。



いやいや。
でもセイはそんな女子ではないはずだ。
自分が今まで見てきた彼女は、いつだって自分を信じてついてきてくれたではないか。
純粋で優しくて心がきれいで。
そんな彼女がそんな捻くれた考えを持つ訳がない。



それよりも何よりも、自分はセイの事が好きなのだ。
そしてセイだって自分の事が好きだと言ったではないか。
私だって男だっ!
いつまでもウジウジ女々しい事をしている訳にはいかない。

もう考えすぎて頭の回線がプツッと切れたような気がした。

総司は、セイが入って行った寝室に向かった。







「神谷さん、入っても良いですか?」
声をかけると、中からザザッと動く音が聞こえた。
何やら焦っているような気配を感じる。

返事はないが、総司はそのままドアノブを掴むと一気にドアを開けた。



「な、何でしょうか」
そこには、掛け布団を体に巻いて今にも泣きそうなセイがこちらを見ている。

そんなに警戒しなくても良いじゃないですか…


泣きそうなのはこっちだ。


総司はつかつかとセイの元に向うと、セイから布団をバッと剥ぎ取った。
そして、驚いて動けなくなっているセイを、ギュッと抱きしめた。

「お お お お おきたせんせい…?」
突然の総司の行動に、セイは真っ赤になりながら腕の中で固まっている。

「神谷さん、なぜ私の事を避けるのですかっ!」
「・・・・」
セイは答えない。

「わ、私の事、嫌いになったのですか?」
「・・・・いいえ」
ボソッとセイは答えた。
「では私のことはまだ好きなんですよね?」
総司にしては、結構頑張って尋ねている。

「‥‥‥‥‥‥‥‥はい」
相当な時間、セイは恥ずかしそうにもじもじしていたが、小さな声で答えた。
それを聞いて、総司もホッと胸を撫で下ろす。


「なら、どうして避けるのですか?」



「だって…」
しばらくして、セイが小さな声で話だした。

「だって?」


セイはそうっと涙目で顔を真赤にして総司を見上げた。


「何か… 恥ずかしくって…」



ずきゅーーーん


そのセイの言い方が、何とも可愛らしくて総司の心臓は鷲掴みにされた。


「そ、そんな可愛く言われたら、我慢できなくなってしまいますっ!!」

「え? 我慢?」
セイは意味が分かっていないようで、首をかしげて総司を見ている。


「だ、だからぁっ! もうっ どうしてあなたはそう野暮天なんですかっ!?」

「なっ!? 野暮天って! 沖田先生には言われたくありませんっ!」
思わずセイもその言葉は心外だと、言い返す。
「私よりも、よっぽどあなたの方が野暮天ですよっ」
「私のどこがっ」
「あーっ もうっ! それ以上は良いですっ!」

それだけ言うと、総司はセイの顔を両手で包んだ。
「えっ 沖田せんせ…っ」


セイは、何が起きたのか一瞬理解できなかった。
自分の目の前に総司の顔がある。
そして自分の唇に感じる柔らかい感触。



く、口づけ… されてる…


やっと理解できた時には、既に総司の顔は目の前からなくなっており、再び抱きしめられていた。