「タイムスリップ 60」
総司は、落ち着きなくリビングを行ったり来たりしていた。
家の中はTVもついておらず、とても静かだ。
その為、バスルームからはセイが浴びているであろうシャワーの音が聞こえる。
それだけで、総司の顔は真っ赤になり色んな事が頭をよぎる。
ついうっかりセイの体を想像してしまい、1人で叫んだり悶絶したりしていた。
こんな状態でセイが出てきたら、自分は彼女に何をしてしまうか分からない。
とにかく深呼吸をしなければ。
総司は、手を大きく上に上げながら、スーハースーハーと大きく息を吸ったり吐いたりした。
Rrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
「うげっ! げほっ げほっ!」
突然鳴り響いた音に、丁度息を吸った総司は驚いて咽てしまった。
とにかく気持ちを落ち着かせて、何が鳴っているのか総司は部屋の中を見渡した。
何か棚のようなものの上に乗っているボタンが沢山ついている変な形をした物から音が出ている。
どう扱って良いのか分からない総司は、取り合えずそれを手に取ってみた。
その瞬間。
『もしもし! もしもーーーーしっ!』
「わぁっ!!」
突然聞こえた声に驚いた総司は、それを投げつけてしまった。
『おぉーーいっ! 沖田さーーーーん?』
えっ!?
自分の名を呼んでいる。
総司は恐る恐るその物体に近づいてみた。
そしてもう1度それを手に取ってみた。
『沖田さん? いるんでしょ?』
颯太の声だ。
総司はその物体から聞こえてくる声を不思議に思い、耳に当ててみた。
「そ、颯太さん?」
『あー、良かった。 沖田さんっ!』
「颯太さんなんですか!?」
颯太の声が聞こえてくるのが不思議な総司は、驚いて声を上げた。
『そうです、颯太ですー。 って、沖田さんの声が遠い… 受話器を上下逆に持ってるでしょう?』
「は? 逆?」
『そうそう。 ちょっと上と下逆にして持ってみて下さい』
総司は言われた通り、くるっとひっくり返してみた。
「こ、これで良いですか?」
『あー、はいはい。 今度はちゃんと聞こえる』
向こうからは安心した颯太の声が聞こえるが、総司は一体何故ここから声が聞こえてくるのか分からず、頭の中ははてなマークだらけだ。
「あの、どうして颯太さんの声が聞こえてくるのですか? もしかして近くにいるのですか?」
『ぷっ あはははっ!! 違いますよ。 これは電話と言って、遠くにいても話が出来るのです』
「そ、そんなすごいものが世の中にあるのですか」
総司は感心したように、持っているコードレスホンをマジマジと見た。
『あの、それよりも大丈夫ですか?』
「えっ! 大丈夫って!?」
『いえ、いきなり2人きりにしちゃって大丈夫だったかなぁって。 うまくいってます?』
電話の向こうからは、楽しそうな颯太の声が聞こえる。
それを聞いて、総司は泣きそうになった。
「ちょっと聞いて下さいよう、颯太さん! それが・・」
先ほどの事を颯太に伝えようとした時、電話の向こうからは楽しげな土方のバカ笑いが聞こえてきた。
「今の・・ 土方さんですか・・」
『えぇ、何か知り合いに会っちゃったらしくて、何か盛り上がってるんですよ』
「知り合い!?」
こちらの時代に知り合いなどいるのかと、総司はびっくりした。
『何か、その人を見た瞬間、勝ちゃん!!とか言っていきなり抱きついたんですよ。 まさか土方さんがあんなことするとは思わなくて、見てる私もびっくりしましたよー』
「か、勝ちゃん!?」
『えぇ、沖田さん知ってる人ですか?』
土方のいう勝ちゃんは、間違いなく近藤だろう。
まさか近藤までこっちに来てしまったのだろうか。
総司は急に不安になった。
「こ、近藤先生…」
ボソッと呟いた言葉に、颯太は「えっ!」と声を上げた。
『近藤って、近藤勇ですか!?』
「ええ・・ 間違いないかと・・」
『へぇ〜、じゃああの人近藤勇の生まれ変わりなんだぁ』
「生まれ変わり??」
『はい、何か土方さんの事知らないのに突然抱きつかれて驚いてましたから。 なのに、今なぜか仲良く一緒に飲んでますよ』
「はぁ〜っ!?」
総司は呆れた。
しかし、近藤までがこちらに来てしまった訳ではなかったのだと分かり、ホッとした。
というか、近藤の生まれ変わりなら自分も会いたい。
「颯太さんっ! 私もそちらへ行っても良いですか?」
総司は鼻息荒く尋ねた。
『何言ってるんですか、沖田さん。 あなたはそちらでやることがあるでしょ』
意地悪くそう言った颯太の言葉に、先ほどの事を一気に思い出してしまった。
「あっ! そうでした! 聞いて下さいよ、颯太さんっ!」
どうやってセイと接して良いのか颯太に相談しようと思った。
『あ、ごめんなさい。 なんだか土方さんが暴走し始めちゃいました』
何やら電話の向こうでは、土方が何やら叫んでいる声が聞こえる。
「えっ、 ちょっとっ 颯太さん??」
『じゃあもう切っちゃいますけど、2人で楽しんでくださいね♪ この調子なら、帰りはかなり遅くなると思いますので安心してあんな事やこんな事しちゃってください。 帰る時一応もう1度電話しますから』
「ちょ、ちょっと待って下さい、颯太さんっ!」
総司は必死に呼びかける。
『じゃあまた後で! 素敵な報告待ってますからね〜♪ じゃっ!』
それだけ言うと、颯太は電話を切った。
プーッ プーッ プーッ・・・・
何やら聞いたことのない音が鳴っている。
「颯太さんっ! 颯太さんっ!?」
それが切れたという事だと分からない総司は、何度も電話に呼びかけてみた。
しかしそれきり颯太の声は聞こえてこなかった。
総司は諦めて、元あった場所に電話を戻した。
あんな事やこんな事って・・・・
颯太の言った言葉を反芻し、総司は1人で首まで真赤になっていた。
「お、沖田先生…?」
突然背後から聞こえた声に、驚いて振り返った。
そこには、お風呂から上がったセイが、不思議そうな顔で立っていた。
「神谷さんっ!!」
「今、誰と話してらっしゃったんですか?」
お風呂からあがり、瀬名に用意してもらった服を着ていると総司の声が聞こえてきた。
明らかに誰かと話している様子。
しかし出て来てみれば、総司1人しかいない。
一体誰と話していたのだろうかとセイは不思議に思っていた。
「あ、あの・・ 颯太さんと・・」
総司は、電話を指差し電話の説明をして颯太から連絡があったことを伝えた。
そして颯太たちが行っている銭湯(スパの名前を忘れたので、取り合えず銭湯と言ってみた)に、近藤の生まれ変わりらしい人物がおり、土方が興奮しているという事も話した。
「えっ、局長の生まれ変わりに会ったんですか?」
それにはセイも嬉しそうに言った。
「えぇ、そうみたいです。 私も会いたいと言ったんですが・・・」
そこまで言って、颯太の言葉をまた思い出してしまった。
あんな事やこんな事…
突然ボッと顔を赤くしてしまった総司は、慌ててセイに背を向けた。
「?」
総司の行動の意味が分からず、セイは不思議そうに総司の背中を見つめた。
「あ、あの、颯太さんが留守番してて欲しいって言ってたので・・」
「そう…ですか…」
訳が分からないセイは、肩にかけているバスタオルで髪をぽんぽんと乾かしながら、ソファに座った。
そして、テーブルに置きっぱなしになっている瀬名が普段読んでいるであろうファッション雑誌を手にとってペラペラとめくって見ている。
それを総司は横目で盗み見た。
お風呂上がりのセイは、髪も下ろしており艶やかな黒髪がしっとりと濡れている。
そして顔はほんのりピンク色になっている。
普段のセイからは想像できないほど色っぽいその様子に、総司は更にドキドキと鳴る心臓に手をあてた。
あーー、神様 仏様 近藤さん(←?) この状況で私は一体どうしたら良いのですか(涙)
本当に誰か助けて下さいーーーーっ!!!
総司は泣きそうになりながら、その場に立ち尽くしていた。