「タイムスリップ 55」
「颯太さん、どこへ行くのですか?」
電車にのり10分程の場所へ来た一行は、駅前の繁華街へやってきた。
「まだ内緒ですよ」
ふふふ〜ん♪と鼻歌を歌いながら、颯太は嬉しそうにどこかへ向かってあるいている。
土方はというと、やはりまだ見るもの全てがものめずらしいらしく、キョロキョロと周りを見て歩いている。
中でも、駅前にある大きなスクリーンに映っている画像に興味を示している。
「あれは一体なんだ?」
「スクリーンですよ。 テレビの大型版です。 あれで、今流行っている曲のプロモーションビデオ流したりするんですよ」
颯太は得意げに話すが、3人は全く理解できていなかった。
「ふぅ〜ん・・・」
全く意味は通じていないのだが、聞くと説明が長くなりそうなので、とりあえず相槌をうつ。
「あ、ここのビルの最上階にカフェがあるんです。 そこで待ち合わせしてるんですよ」
「誰とですか?」
セイが不思議そうに尋ねる。
「だから、まだ内緒ですって」
そう言うと、ショッピングビルの中に入りエレベータのボタンを押す。
このビルのエレベータは透明になっており、中から外が全て見渡せる。
エレベータが上昇した途端、セイと土方は固まった。
「そそそそそ颯太さんっ! 浮いてますっ!!」
青くなりながら総司にしがみつくセイに、颯太と瀬奈がぷっと吹き出した。
総司は、以外と大丈夫のようで嬉しそうに外を眺めている。
「おいっ! 落ちたらどうするんだっ!!」
さすがの土方も、ぷるぷると足を震わせながら必死に室内についている手すりにしがみつく。
「あの・・ お願いですからそういうのは降りてから言ってもらえますか?」
エレベータには他にもお客さんが何人も乗っている。
一緒に乗っているカップルが、顔を見合わせて笑っている。
隣にいる年配の女性は、ものめずらしいものでも見るようにセイと土方を見比べていた。
「だってぇ! 沖田先生〜っ」
セイは外を見ないように総司にぎゅっとしがみつく。
「もう、神谷さんてば怖がりさんですねぇ」
そういいながらも、嬉しそうにセイをぎゅっと抱きしめた。
「着きましたよ」
目的の階に到着し、颯太と瀬奈が降りると、それに続いて少し残念そうな総司とホッとしたセイもエレベータを降りる。
「お、おいっ おいていくなっ!!」
恐る恐る足元を確かめながらゆっくりと降りてくる土方に、総司は仕方なく手を貸した。
「土方さん・・ とても新撰組の副長だなんて思えませんね」
「うっ うるさいっ!」
真っ赤になって反論するが、まだ足元は震えている。
「こっちです。 あのお店に入りますよ」
カフェに入った颯太は、キョロキョロと店内を見渡した。
目的の人物は、窓際に座って本を読んでいた。
「いたいたっ」
颯太は、小走りにその人物の元へ向かった。
「こんにちはっ!」
声をかけられた人物は、本から顔を上げ笑顔を向けた。
「やあ」
セイ達も、颯太に続いてその人物の元へ駆け寄る。
「あっ!」
「まだこっちにいたのかい?」
セイ達を見ると、にっこり微笑んだ。
「山南先生〜っ」
セイは、下山だと分かると走って下山の元へ行き飛びついた。
「あははっ 今日は随分とご機嫌だね」
この間とは打って変わってご機嫌なセイを見て、下山は笑った。
「ど、どうも・・・」
総司も下山の前に来ると、気まずそうに苦笑いした。
「やあ、沖田くん。 君も元気そうで安心したよ」
総司を見ると、何か含んだようにウインクをした。
「すみません、お忙しいところ呼び出してしまって・・・」
颯太が申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、良いんだよ。 ちょうどそこの家裁に行っていてね。 もう仕事は終わったんだ」
下山は、そういいながら椅子に座るようすすめた。
「あれ? 土方さんは?」
総司が土方がいないのを不思議に思い振り返った。
そこには、固まったまま立っている土方がいた。
「どうしたんですか、土方さん?」
「や、山南さんか・・・?」
信じられないといった表情で、下山を凝視している。
その様子を見て、総司とセイは顔を見合わせて微笑んだ。
「こちらは下山さんと言って、恐らく山南さんの生まれ変わりだと思われる方ですよ。 私達も先日偶然お会いしたんです」
「そうなんですよ。 きっと新撰組にいた方の生まれ変わりなら、土方さんも喜んでくれると思って私が勝手に連絡しちゃいました」
颯太も嬉しそうに微笑みながら、事情を説明した。
「初めまして。 下山と言います。 あなたも新撰組の方ですか?」
下山は、土方が同年代と分かると丁寧に挨拶をした。
しかし、土方はあまりにも驚いているようで、その場に立ち尽くしている。
「とにかく座りましょうよ、土方さん」
総司が土方の腕を掴んで下山の元へ連れて行こうとした時。
土方は総司の腕を振りほどき、下山に近づいた。
「土方さんっ」
土方の形相に、総司は下山に掴みかかるのかと焦った。
しかし土方は驚いている下山の目の前まで来ると、じっと下山の顔を見た。
「あんた、やっぱり山南さんだ・・・」
「えっ?」
「山南さん、どうしても一言言いたいことがある」
じっと下山の目を見据える土方に、下山は何のことだか分からず首をかしげる。
「俺は、ずっとあんたに謝りたかったんだ」
そう言うと、土方は下山の手を取った。
「本当にすまなかった」
「えっ いや・・」
初対面の土方に謝られる覚えはない。
下山はオロオロと総司やセイを見た。
しかし、2人とも土方が何故土方がそんな風に言っているのか分かっているようで、じっと下山と土方を見ている。
「これだけは言わせてくれ・・・ 俺は決してあんたの事を嫌ってはいなかった」
「はあ・・」
よく分からないが、ここは山南になりきった方がいいのだろうかと曖昧に返事をする。
「あんたがあんな事になってしまったのは、状況に気付けなかった俺の責任だ。 本当に申し訳なかった」
土方は、下山の手をギュッと握ると、頭を下げた。
「いえ、とんでもない・・・」
あんな事とはどんなことだろう?
疑問には思うが、空気的に山南にならなければいけないような気がした。
2人の様子を、総司は嬉しそうに見ており、セイは涙まで浮かべている。
颯太と瀬奈は何のことだかさっぱり分かっていなかったのだが、あの土方が頭を下げているという事に
感動していた。