「タイムスリップ 54」
「100年以上経ってるから当然かも知れませんけど、全然違いますねぇ」
一同外壁の外から中を覗き込みながら、総司がボソッと呟いた。
「本当にここが俺の家なのか?」
家の周辺はもちろん、家自体にも全く面影がない。
しばらく実家に帰っていないと言っても、もちろん自分の家は覚えている。
ここへ来るのは数年ぶりだが、ここでは140年以上経っている。
何だかややこしい状況に、土方も考えがついていかない。
「ぶほっ」
突然セイが噴出した。
「どうしたんです?」
総司が不思議そうにセイに尋ねた。
セイは、こらえるように笑っていたのだが、そのうち我慢できなくなりお腹を抱えて爆笑し始めた。
「だ、だって・・ あれ・・」
涙を流しながらセイが何かを指差した。
その先に一斉に目を向けた瞬間、総司も噴出した。
「ぎゃはははははっ ひ、土方さんがぁっ」
「何なんだ、あれはっ!!」
門を入ってすぐのところに、何と土方の胸から上の銅像が置いてある。
「か、かっこいい、副長っ! ひぃ〜っ く、くるしぃ」
セイは蹲って笑っている。
その横では総司も「そんなに笑っちゃ悪いですよぅ」と言いながらも、げらげらと笑っている。
颯太と瀬奈は、銅像と土方を見比べて「へぇ〜、似てるねぇ」と暢気に言い合っている。
「あ、あんな恥ずかしいものが何でこんな所に堂々と置いてあるんだっ!!」
土方は真っ赤になりながら銅像に近づき、わなわなと震えながら自分を見上げる。
「いや〜、よほど英雄扱いされてるんですよ、きっと」
涙をぬぐいながら総司たちも土方に近づいた。
「副長カッコいい」
小バカにしたような声色のセイに、土方の米神に怒りのマークが浮かんだ。
「お前・・ バカにしているだろう」
「まさか、そんな」
ケラケラと笑いがら、総司の後ろにセイは逃げる。
「後で覚えてろよ」
ちっと舌打ちをしてセイを睨むが、セイも総司も全く気にしている様子はない。
「あの〜、中入ります?」
中の様子を伺いながら、颯太が尋ねる。
入り口付近に受付をしている人物がいる。
「中に入れるのか?」
土方は、自分の家がどうなっているのか気になるのか、颯太に尋ねた。
「入れるみたいですよ。 1人300円ですって」
「それは、金がいるという事か?」
円を知らない土方だが、何となくニュアンスで通じたようだ。
「そのようです」
「何で俺んちに入るのに金を払わなければいけないんだっ!!」
突然そう叫びだすと、土方は受付に向かって走り出した。
唖然とする4人を尻目に、土方は立っていた女性に向かって掴みかからんばかりの勢いで何やら怒鳴っている。
「ここは金を取るのか!」だの、「俺んちだぞっ!!」
と、他人が聞くと若干頭がおかしいと思われても仕方がない発言を堂々としている。
はっと我に返った颯太が、急いで土方の元へ行き、腕を掴んで女性から引き剥がした。
「離せーっ」
じたばたしている土方を、必死に抑えながら颯太は笑顔で女性に謝った。
3人も、慌てて土方と颯太の元へ近づき土方をなだめている。
「土方さん、いくらここがご自分の家だといっても、ここはあなたのいる時代ではないのですよ」
「そうですよ、副長。 ここがどこなのかを早く理解して下さいよ」
セイにまで呆れたように言われた土方は、ムッとした表情をするが大人しくなった。
「すみません、ちょっとこの人自分が土方歳三に似てるのにびっくりしちゃったみたいで〜」
「そうなんです〜、申し訳ありません〜」
不審そうにこちらを見ている女性に謝り、5人はその場をそそくさと後にした。
「何でだっ! 中に入らせろっ!」
まだ納得がいかない土方は、家に向かって再び歩き出そうとした。
しかしそれを颯太がとめる。
「土方さん、お家が見れたのだから良いじゃないですか! それに、中といっても家の中に入れるわけではないのですよ」
「なにっ そうなのか?」
「えぇ、入れるのは資料館になっている一室だけですって」
「資料館??」
「多分、土方さんが新撰組として過ごした時に使用したものとかを展示してあるんだと思います」
颯太の言葉を聞き更に興味がわいた土方だったが、それがどういう事なのか何となく理解したようで、黙ってきびすを返した。
「今見るわけにはいかないものもあるって訳か・・」
納得したような口調でそういう土方に、颯太は悲しそうに微笑んだ。
「中入りたかったですねぇ・・・」
歩きながら、総司は残念そうに言った。
「仕方ないですよー、副長があんなに興奮しちゃったら、中に入ったらどうなるか分からないんですもの」
「土方さんて、向こうの世界でもあんな感じなの?」
それまで黙って一部始終を見ていた瀬奈が、苦笑いをしながら尋ねた。
「普段は、もうちょっと理性があるんですけどねぇ」
「こっちでは、何か見たことないものばかりでどうして興奮しちゃってるんでしょうね」
「聞こえてるぞ」
土方の怒りを含んだ声と共に、総司の頭に拳骨が飛んできた。
「痛いですよー」
「お前らが俺の事バカにするからだろうっ!!」
わいわいと喧嘩をしている土方達から少し離れたところを歩いている颯太は、こっそりと携帯を取り出した。
そして、ある番号へ電話をし始めた。
電話を終えた颯太は、未だ土方達とじゃれあっている総司をこっそりと呼んだ。
「どうしたんです?」
「ちょっとお話があるんですけど・・・」
そう言うと、総司にコソコソと何かを耳打ちした。
すると、総司の目が見る見る輝いていく。
「それはとても良い考えですねっ!!」
「ですよね? さっきからずっと私考えてて、既に連絡もしてしまいました」
「きっと土方さん喜びますよっ!!」
「では、早速向かいますか。 この辺りを色々回っていて、新撰組がどうなるか分かってしまっても困りますしね」
颯太は中に入った事もなければ、新撰組関係の場所へ行ったことなどないが、あのようなところへ行くと、色々史実が書かれているに違いない。
そうなると、土方や総司たちがこの先どうなるのか本人たちが知ってしまう可能性が大きいのだ。
あの場で暴れてくれた土方に、内心颯太は安堵のため息をついていた。
この後どうしようかと考えていた颯太だったが、ある事を思い出した。
きっと土方が喜ぶであろう事を。
颯太はニコニコしながら一行を従えて歩き出した。