「タイムスリップ 53」
瀬奈は、恥ずかしくて顔から火が出そうになっていた。
外へ1歩出た土方は、見るもの全てに感動し興味を示している。
「うおぉぉぉっ 何だあれはっ!!!」
土方は何かを見つけて指を指して叫んでいる。
その声はあまりに大きく、周りを歩いている人々が振り返って土方を見ている。
車を見れば、「何だあの動く物体は!!」と叫んだり、高いビルを見ると「あんなもの倒れてきたらどうするんだ!!」と怒ってみたり、自転車に乗っている人を見ては「便利そうだな、貸せ!」と乗っている人を引きずりおろそうとする。
颯太は、既に3人目になると慣れてきたのか、「はい、そこ〜! 絡まないで下さいね〜」と軽くあしらっていた。
今は電車に乗って、どんどん流れていく外の景色を目を見開いて見ている。
さすがに土方は、セイや総司のように後ろ向きで乗ってキャーキャーいう事はなかった。
土方は、どこへ行っても目立った。
街を歩いていれば、通り過ぎる女性は皆振り返っていくし、電車に乗り込んできたOLらしき女性なんかは、わざと土方の隣に立ち、さきほどからちらちらを土方の顔を盗み見している。
髷のままいさせる訳にはいかず、今は後ろで1つに結んでいる。
それがまたカッコ良さを強調させているようだった。
「ねね、沖田さん」
「何ですか?」
だいぶ現代に慣れたのか、大人しくきちんと座っている総司に、颯太は嬉しそうに話しかけた。
「昨日、どうなったんですか?」
「昨日?」
颯太の質問の意味が分からず、眉間に皺を寄せながら聞き返す。
「とぼけないで下さいよ〜! 昨日、2人きりで寝室に入ったんだから、何もなかったとは言わせませんよ」
瞬間、総司の顔がボッと赤くなった。
「わーっ! 赤くなっちゃってぇ! やっぱり何かあったんですか!?」
わくわくしながら颯太が総司の顔を覗きこんでいる。
総司は少し離れた座席に座って、瀬奈と何やら楽しそうに話しているセイに目を向けた。
普段から可愛いとは思っているが、女の子の格好をしているセイは、やっぱり可愛いなぁと思い見とれてしまう。
月代を隠す為に、瀬奈に借りている帽子がまた良く似合う。
その視線に気づいたセイも、総司の方を見た。
セイは総司に向かってニッコリと微笑むと、ひらひらと手を振ってきた。
思わず総司も手を振り返す。
「ちょっとちょっと沖田さん?」
「あっ すみません」
颯太の存在を思い出し、また総司は顔を赤くして颯太を振り返った。
「で? どうだったんですか?」
「どうって・・ その・・・」
「もう! 恥ずかしがらないで教えて下さいよ!」
顔に「面白い」と書いてあるかのようなウキウキ顔の颯太に、総司は何となくむっとした。
「何か面白がってるでしょう」
「えぇっ!? そんなんじゃないですよぅ! ただ、どうなったのかな〜って。 だって無理やりあぁやって2人きりにしないと、あなた達は何も進展しないでしょう?」
「別にそういうのはゆっくりで良いんです!」
ほっぺを膨らませながら、総司が拗ねたように言う。
「えっ!? って事は、もしかして何もしてないんですか!?」
信じられないという顔で、颯太が尋ねた。
「何もって・・ 一緒には寝ましたけど・・・」
もじもじと話す総司を見て、颯太は呆れたような顔になった。
「沖田さん・・・ もしかしてあなた男性の機能に何か障害でも・・?」
「何ですかそれ!!」
「だって・・ 普通一緒の部屋で同じベッドで寝て何もないってあり得なくないですか?」
「うるさいですねぇ、ほっといて下さいよ」
そう言うと、総司はぷいっと横を向いてしまった。
この2人が本当の恋人同士になるには、まだまだ時間がかかるだろうな・・
そう考えて、颯太はため息をついた。
その後、一行は電車を乗り換え目的の駅で降りた。
「この辺りに見覚えありますか?」
街を歩きながら、颯太は土方に尋ねた。
周りをキョロキョロと見渡していた土方だったが、悲しそうにため息をついた。
「いや、全く分かんねぇ」
「そうですか・・・ やっぱり140年以上経ってますからね。 色々変わっちゃってるでしょうね」
颯太と土方が話しながら歩いていると、土方の反対側にこそーっと瀬奈が近づいてきた。
「土方さんの隣歩いちゃお♪ 彼女とかに見えるかな」
頬をほんのり染めながら、瀬奈は土方に寄り添い気味に歩いている。
「・・・聞こえたけど」
地を這うような声がしたかと思うと、ものすごい力で瀬奈はひっぱられた。
「えっ? きゃぁっ」
突然引っ張られた瀬奈は、驚いて後ろを振り向いた。
すると、ものすごい形相をした颯太がたっていた。
「あ、颯ちゃん」
しまったという顔をして、笑って誤魔化す。
そんな瀬奈を、土方から引き離す為に遠くへひっぱっていく。
「土方さん、本当にもてもてじゃないですか」
それを見ていた総司が、冷やかしながら土方に近づいてきた。
「うるさいっ! 何なんだ、あの女は! お前の生まれ変わりだろう! お前が何とかしろっ!」
セイを指差しながら、真っ赤になって叫ぶ。
「そんな事私に言われても・・」
「もう、土方さんたら照れ隠しに神谷さんに怒鳴らないで下さいよぅ」
「俺は悪くもないのに、颯太にうらまれる事になるのはごめんだ!」
「大丈夫ですよぅ。 誰も土方さんの事なんて恨みませんて」
総司はへらへら笑っている。
わいわいと歩いていた5人だったが、ふと目に入ってきたものに一同立ち止まった。
明らかに新撰組の旗と思われる『誠』の文字が入った旗を指している家がある。
「もしかして・・・」
総司が、目をキラキラさせながらその旗を指差した。
「あれが、俺の家・・・か・・?」