「タイムスリップ 49」


「かんぱーい」
颯太と瀬奈は、総司とセイの両思いを記念して、グラスを合わせた。
乾杯の意味が分からない総司とセイは、この2人のテンションについていけず、困ったように首をかしげている。

「もう、本当に良かった〜! セイちゃんから最初に沖田さんの事が好きだって聞いた時から、どうなるんだろうってすっごく気になってたんだよね〜」
「ちょ、ちょっとっ 瀬奈さんっ!!」
いくら総司に自分の想いを伝えたからと言って、ここでそんな風に言われて平気な程セイも総司も心の整理がついていない。
「良いじゃない。 あなた達だけだと、この後もきっと今までと何も変わらないでしょう?」
「そうですよ。 きっと沖田さんの事だから、デートするって言っても甘いもの食べに行きましょうとか言って、その辺ぶらぶらするだけで終わりそうですし」
「デート?」
「あ、そっか。 何ていうんだろう? 逢瀬?」
颯太の言葉に、総司もセイも一気に顔を赤らめた。
「お、逢瀬って!!」
「良いなぁっ! この初々しい感じっ! 私達もあったよねぇ!!」
そう良いながら、瀬奈は嬉しそうに颯太を見た。
「僕はまだ瀬奈と一緒にいる時はこんな感じだけど?」
颯太は、心外だとばかりにムスッとして瀬奈を睨んだ。

颯太の言葉に、瀬奈は悪い気はしないのか、ふふっと笑って総司とセイを見た。
今までの2人にはなかった距離が総司とセイの間に出来ている。

この何とも言えない感じが、瀬奈には何だか嬉しかった。

「あっ そうだ! あなた達が寝てる間に、今日撮った写真プリントアウトしておいたんですよっ!」
そう言うと、颯太は数枚の写真を取り出した。


「うわぁっ! これ、颯太さんが言ってたポトガラですか?」
セイは、目を輝かせながら写真を手に取った。

そこには、総司とセイがカメラに向かって引きつった笑顔を向けている。
 
『げっ 私すっごいブスなんですけど… それに比べて、沖田先生そのまんまだ…』
セイは、写真の中の総司に見とれていた。

ふと、隣を見てみると、総司が別の写真を真剣に見ている。
その写真には、セイが1人で狛犬を嬉しそうに見上げている姿が映っている。

自分を見ている総司を見て、セイは途端に恥ずかしくなった。

「お、沖田先生っ! そんなに見ないで下さいよっ!」
バッと総司から写真を取り上げた。

「あ、何するんですよぅ!」
「だって恥ずかしいじゃないですかっ!」
セイは、取り上げた写真を握り締めた。

「そのポトガラは、私のです」
「はぁっ!?」
総司の発言に、セイは首まで真っ赤にした。
「だから、返してくださいっ!」
「い、嫌ですよ! 私が写ってるんだから、私のものですっ」
「だめです。 私に渡しなさい。 命令ですよ」
「何でそんな事で命令するんですかっ!!」
総司とセイの言い合いを、颯太と瀬奈は面白そうに見ている。

「良いから、下さいよ。 私の宝物にしますから」
「!?」
総司のあまりにもストレートな発言に、セイも言葉に詰まった。

「セイさん、あげれば良いじゃないですか」
「そうよ。 宝物にするなんて、女冥利に尽きる言葉じゃない」
「えぇ〜…」
颯太と瀬奈にそう言われると、セイは素直に従うしかない。

セイはしぶしぶ総司に写真を渡した。
総司は、嬉しそうにそれを受け取る。

「神谷さんのこの顔、好きなんですよね」
そう言うと、総司は写真を覗きこんだ。
その様子を、セイは嬉しいような恥ずかしいような気持ちで見ている。

「この写真は全部あげますから。 向こうへ持って帰ってくださいね」
颯太が何の気なしに言った言葉に、総司とセイは顔を上げた。

「そう言えば… 私達いつ戻れるんでしょう」
「本当ですね…」
こちらの世界があまりにも新鮮なものが多くて、すっかり元の時代のことを忘れていた。

「もしかして、戻れなかったらどうしましょう?」
総司は、不安そうにセイを見た。
「それは困ります。 隊もありますし…」
セイも困ったように総司を見る。

颯太と瀬奈も顔を見合わせた。
本当はあんな危ない時代になど戻って欲しくないのが本心だ。
この先総司や新撰組がどうなるのか知ってしまった颯太は、ここに留まって欲しいという気持ちが強かった。
しかし、このままここにいる訳にもいかない。

「沖田さんもセイさんも、きっとすぐに帰れますよ。 だから今ここにいる間は、ここの生活を満喫して下さい。 せっかく私達と出会えたんですから」
颯太の言葉に、セイも総司も少し考えた後、微笑んだ。
「そうですね。 こんな経験そうそう出来るものではありませんからね」
そんな2人の表情を見て、颯太は嬉しくなった。
「じゃあ、飲みましょう! ほら、沖田さんグラス減ってない!」
「わわっ 颯太さんっ! そんなに注がれたらこぼれますよぅ」
そう言って、あふれそうになっているビールに総司は口をつけた。
飲み慣れない炭酸に、少し顔をしかめる。
「あんまりお酒は得意じゃないんですからー」
そうは言うが、嬉しそうに注がれたビールを次々開けていく。
セイは、先ほどの事があるせいか、ちょびちょびとお酒を飲んでいた。





「じゃあ、私達はこちらで寝ますので、どうぞ寝室使ってくださいね」
「沖田さん、セイちゃんおやすみなさい。 明日は私達土曜で休みだから、どうぞゆっくり休んでね」
そう言うと、2人は部屋に入ってしまった。
取り残された総司とセイは、気まずそうに顔を見合わせた。

「ね…寝ます…?」
「…はい」

寝室に入った2人は、どうして良いか分からず、ベッドを前に立ち尽くしていた。

「私はここで寝ますから、神谷さんは布団に寝てください」
総司は、セイにベッドを勧めた。
「そんなっ! 先生を床に寝かせる訳にはいきませんっ! 先生が布団で寝てくださいっ!」
「いいえ、男の私が布団に寝て、女子のあなたを床で寝かせる訳にはいきません」

お互いに譲らない総司とセイは、どうして良いか分からなかった。




「あ、あのっ!」
「え?」

ものすごく勇気を振り絞って総司がセイに尋ねた。
「・・・・・じゃあ、い、い、い、一緒に…寝ます・・・?」

セイの顔がボッと赤くなる。

「い、嫌なら良いんですっ! 私は床で十分ですからっ!」
自分の発した言葉に恥ずかしくなり、その場に座り込んで寝ようとした。

「やめて下さいっ! 一緒で・・・良いですからっ」
その言葉に、総司は驚いた顔でセイを見上げた。