「タイムスリップ 46」


「どんな感じ? うまくいきそう?」
その問いに、颯太は力なく首を横に振ると静かに寝室のドアを閉めた。
「沖田さんまたやっちゃったみたい」
「えぇっ!?こんな美味しい状況で!?」
瀬奈は、がっかりした。
「僕たちにはあの2人にどうする事も出来ないみたい‥」
はぁっとため息をつきながら、颯太はソファーにどかっと座った。
「さすが颯ちゃんの前世だわ‥」
瀬奈も、同じようにため息をついた。

「はぁっ!? いくら何でも、あそこまでひどくないでしょ!」
心外だとばかりに、颯太は抗議する。
「何言ってるのよ。 学生の時、私があんなに好きだっていうのを全面に出してるのに、それに気付かないで告白された相談をわざわざ私にしてきたのはどこのだれよ!」
「あれは違うんだって! 瀬奈が僕のことどう思ってるか分かんなかったからわざと試したんだよ! しかも瀬奈ってば"付き合ってみたら?"とか言うしさ」
颯太はその時の事を思い出しながら、ぷうっとほっぺを膨らませた。


それを、瀬奈は冷ややかな目で返す。
「良く言うわよ。 嬉しそうにしてたじゃない。 わざわざどんな子か、クラス違うのに見に行ったらしいじゃない?」
「うっ‥ そ、それは‥」
まさか瀬奈がその事を知っていたとは思わず、言葉に詰まる。
「好みの子ならそっちいくつもりだったくせに」
「それはない!」
颯太は、思わずその場に立ち上がった。
「どーだか」
瀬奈は呆れ顔でビールを口に運んだ。
「僕が瀬奈以外の人を選ぶわけないでしょ!」
「浮気した事あるくせに」
ビールを口元に持ったまま、颯太を睨んだ。
「浮気なんてしてないってばっ!!」
颯太は腕をブンブン振りながら、叫んだ。
「女の子の部屋に上がりこんだじゃない」
「だーかーらーっ! あれはちゃんと説明したでしょっ! 飲み会で泥酔した子を部屋まで送っただけだってば! 何で今更そんな昔の話持ち出すんだよっ!!」
「……」
瀬奈は何も言わず、じーっと颯太を見ている。
「1度も瀬奈の事を裏切った事はないってばっ!」
颯太は泣きそうになりながら、必死で訴えた。

「・・・・・・・ま、前世があの沖田さんじゃあ、浮気なんて出来ないか」
瀬奈は、寝室のドアの方を見ながら、自分1人で納得した。
その様子を見て、颯太は安堵のため息をついた。

「と、ところであの2人どうなったんだろう」









「神谷さ〜んっ 神谷さんてば〜〜っ」
総司は情けない声で、こんもりと盛り上がっている布団に向かって呼びかけていた。
しかし、セイからは何の反応もない。

「神谷さんーーーーっ! 無視するなんてひどいじゃないですかっ!」
総司はセイが包まっている布団をゆらゆらと揺らしながら抗議する。
それでも、セイは全く反応しない。

「あー、そうですか。 そこまで無視するなら無理やり布団はがしますよ」
「・・・」
「本当にはがしますよ? 良いですね?」
「・・・」

何も言わないセイにとうとう焦れた総司は、セイの被っている布団を掴んだ。
そして引っ張ろうとしたその時。

「きゃーーーっ!! 沖田先生のすけべーーっ!!」
突然叫んだセイの声にびっくりして、思わず総司は手を引っ込めて後ろに仰け反った。

「すけべって!!」
総司は、予想外の言葉にあたふたしている。
それだけ言うと、セイはまた何も言わずに更に布団の奥にもぐりこんだ。

しばらくセイの様子をドキドキしながら見ていたが、再度そーっとセイに近づいた。
ビクビクしながら、布団をぽんぽんと叩いてみる。
「神谷さ〜ん…?」



バッ

突然セイが、布団から顔だけ出した。

「わっ」
総司はびっくりして、再び後ろに仰け反った。

「・・・・」
何も言わず、総司を見上げる。
その顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「えぇっ!? どうして泣いてるんですかっ!?」
総司は慌ててセイに近寄った。

「うぇぇぇぇん」
総司の顔を見ると、セイは声を上げて泣き出した。

「い、一体どうしたって言うんですよぅ」
セイの頭を撫でながら、何とかセイを泣き止ませようとする。

「沖田先生のばかぁぁぁぁぁ〜〜っ」
「ばっバカってなんですかっ!?」
泣きながら叫ぶセイに、総司も思わず言い返す。

「えぇぇぇぇぇぇんっ」
尚も泣き止まないセイに、総司はもうどうして良いか分からない。

「私が何をしたんですか? 言いたい事があるならちゃんとおっしゃいっ!」
このままでは埒があかないと、総司はセイの頬を両手で包み込んで顔を覗き込んだ。

「っく  うぅっ」
セイはポロポロ涙を流しながら総司を見上げた。
「どうしたんです?」
総司はなるべく優しくセイに聞いてみた。

「おっ 沖っ 沖田先生がっ」
嗚咽交じりにセイが言う。

「私が何です?」
「すっ 好きな人っ いるってっ…  うぅっ」

「えっ!?」
セイが嗚咽交じりに発した言葉に、総司びっくりした。

「だっ 誰かも おしっ 教えてくれないっ からっ」
「えぇぇっ? どうしてそんな事であなたが泣くんですかっ!?」
また、わぁぁぁぁっと泣き出したセイが、総司は全く理解出来ない。


「か、神谷さん…?」
総司は、呆然としばらく泣いているセイを見ていた。


・・・が、突然ある言葉を思い出した。

『もっと冷静に彼女と彼女の周りにいる人間を見てごらん。 そして、君は素直になる事だね。 そうすれば、きっと彼女の好きな人が誰だか分かるだろう』
下山に別れ際言われた言葉。

そう言えば、会ったばかりの颯太や下山は何故セイの思い人がすぐに分かったのだろう。
颯太はともかく、下山がセイの周りにいる人間で知っていると言えば総司か颯太くらいしかいない。


・・・・という事は?

・・・・え?


「えぇぇぇぇっ!? うそっ!?」
ある事に思い当たった総司は、一気に首まで真っ赤になった。

セイはまだ泣いている。


ももももしかして神谷さんの好きな人って…