「タイムスリップ 45」


総司はどうして良いか分からず、その場に立ち尽くしていた。

「どうしたんれすか〜?」
ベッドに座って眠そうに目をこすりながら、セイが総司に話しかけた。

セイの言葉に、総司は恐る恐るセイを振り返った。
総司を見上げたセイは、にっこりと微笑んだ。

「寝ないんれすか?」

総司の心臓は止まりそうになった。

寝ないんですかだ!?
この状況で、どうやったら寝れるというのか。
普段隠れてほとんど見た事がないセイの生足が、スカートから覗いている。
昼間は気にもならなかったのに、今では目のやり場に困ってしまう。
しかも、酔っているせいでうつろで潤んだ瞳がやけに艶めかしく思えてしまう。

「わ、私は大丈夫ですから、あなた1人で寝てください」
セイの顔から目を逸らしながら、しどろもどろに総司は言った。

「沖田先生はどうされるのれすか?」
「私はあちらの部屋へ戻って颯太さん達とお話してきますっ」
その言葉に、セイの顔がみるみる悲しそうになっていった。


そそそそそそんな顔しないでくださいよぅっ!!

「子供じゃないんですから、1人で寝られるでしょうっ!」
焦りも手伝って、思わず厳しい口調で怒鳴ってしまった。

みるみるセイの瞳に涙が浮かんだ。

「わっ わっ ごめんなさいっ!! そんなつもりではっ」
焦った総司は、セイに駆け寄った。
「分かりましたっ! あなたが寝るまでここにいます! それで良いですか?」

セイをベッドに寝かせ、自分はベッドに腰をかけた。

「手を繋いでても良いですか?」
可愛いおねだりに、総司も断る事が出来ずセイの手を握った。

「これで眠れますか?」
早くセイに寝てもらい、一刻も早くこの場から立ち去る為に、総司は必死だった。

「はい♪」
幸せそうに返事をしたセイは、まぶたを閉じた。
総司はふぅっと息を吐きセイの寝顔を眺めた。


セイの顔を見ていると、やはり浮かんでくるのはセイの想い人の事だった。
気になって仕方がない。
本人に聞けと颯太は言うが、そんな事出来るはずがない。
それに、誰か聞いてしまえば相手の男に嫌な感情が芽生えるのも目に見えている。
今だって、誰だか分からないセイの想い人に悋気を起こしてしまうくらいなのだから。
それでも知りたい自分がいる。

セイの頬をそっとなでてみた。
手に吸い付くような質感に、総司はうっとりしながらセイの顔を覗き込んだ。

ぱちっ

その時、突然セイが目を開けた。

「おっ おきてたんですかっ!!」
あまりに驚いた総司は、急いで手を引っ込め、バクバク言っている心臓に手を当てた。

「すごく眠いのに、何だか寝付けません・・」
トロンとした目で総司を見上げる。

総司はドキドキしながら、しばらくセイを見下ろした。

今なら聞けるかも。
こんなに泥酔しているのだ。
聞いたら答えてくれるかもしれない。


ごくっと唾を飲み込んだ。
「神谷さん、聞いても良いですか?」

総司の問いに、セイは顔を傾けた。
「何れすか?」



「あなたには…想い人がいるんでしょ?」

言ったっ!
とうとう言ってしまったっ!

総司はドキドキしながらセイの反応を待った。


「ど、どうしてそんな事を聞くのですか?」
先ほどまでの酔いが一気に冷めたような表情で、セイは目を見開いて総司を見た。

「えっ!? どうしてってっ…」
セイの反応に焦った総司は、何と言って良いか分からない。

「誰かに、何かをお聞きになったのですか?」
「え、え〜っと… そのぉ…」
まさか颯太の名を出す事は出来ない。
何と答えようか悩んでいる総司に、セイは更に予想外の事を言い出した。

「沖田先生には… そのような人がいるのですか?」
「えぇっ!? 私の事は今は関係ないでしょうっ!!」
総司は真っ赤になりながら、叫んだ。

「私の事は聞くのに先生の事は答えてくださらないのですか?」
「そっ それは…」
確かにセイの言う通りだ。

「先生が答えてくだされば、私も答えます」
「はぁっ!?」
「先生には好きな人がいるのですか?」
総司をまっすぐに見上げる視線に、総司は動けなくなった。

「い… ます…」
思わず答えてしまった。

「えっ」
総司の答えに、セイはバッと起き上がった。

「答えましたよっ! あなたはどうなんですかっ!!」
総司は、もうどうにでもなれと思い開き直った。

しかし、セイの瞳は同様して揺らいでいる。
「その方は… 誰… ですか」

「えぇっ!? 聞きますか!! 私が答えたら、あなたも答える約束でしょうっ!」
「だ、だって… そんな事今まで聞いた事なかったから…」
「そんな事関係ないですっ! それに、最初に聞いたのは私ですよっ! どうして私が質問されてるんですかっ!」
総司は必死に反論するが、今のセイにはそんな事は通用しない。
「もしかして… サエさん?」
「そんな訳ないじゃないですかっ!! あの人は人妻ですよっ!」
「じゃ、じゃあ小花さん?」
「違いますよっ!  って、何で私ばかりが答えてるんですよう!」

予想外の展開に、総司は泣きたくなってきた。
酔っているセイなら簡単に答えてくれると想ったのが間違いだった。
颯太には相手が誰かも教えたというのに。

「じゃあ… 私の知らない人… ですか…?」

尚も質問してくるセイに、総司はこの部屋から逃げ出したくなった。
まさか、その相手がセイだとはこの状況で言えるはずがない。
セイの想い人が誰かも分からない上、今告白してしまってセイとの仲が気まずくなるのはまずい。

「それは言えません」
きっぱり総司は答える。
「ちゃんと私は答えたんですから、あなたの好きな人が誰かを教えてくれる番ですよっ!」
有無を言わせない口調で、総司はセイに訪ねた。

セイはしばらく総司の目をじっと見ていたが、急にプイっと顔を逸らした。
「私は一言も好きな人がいるだなんて言ってません。 だから、先生に言う事は何もありませんっ!」
「えぇぇぇぇっ!?」
セイは、それだけ言うと布団を頭から被りベッドに横になってしまった。