「タイムスリップ 43」


騒がしい足音が聞こえ、バタン!とドアが開かれた。
「セイちゃん! 遅くなってごめんねっ!」
相当急いで帰ってきたのだろう。
瀬奈の息は乱れており、額には汗をかいていた。

「お帰り、瀬奈」
玄関に出迎えたのは、セイではなく颯太だった。

「そ、颯ちゃん!?」
颯太の顔を見るなり、瀬奈は驚いてその場に立ち尽くした。

「遅くまでお疲れさま。 ご飯出来てるから、食べよう」
笑顔でそう言う颯太に、瀬奈の目にはみるみる涙が浮かんだ。

「戻って‥来れたの?」
涙声でそう言う瀬奈に、颯太は笑顔でうなづいた。

「心配したんだよ」
ポロポロ涙を流しながら、瀬奈は颯太に近づいた。
颯太も、瀬奈の元へ行くと、そっと抱きしめた。
「心配かけてごめん。 でも無事に帰って来れたから。 それに、向こうでは皆良くしてくれたから、結構楽しめたよ」
瀬奈の頭を撫でながら、優しく話した。
瀬奈は安心したようにため息を吐いて「良かったぁ」と呟いたが、ふと何か思いついたように颯太を見上げた。
「向こう?」
「うん」
「向こうって・・・ それってもしかして・・・」
それを聞いた颯太は、ニコッと笑った。
「うん、江戸時代だよ」

「ほ、本当にセイちゃん達の時代に行ったんだ・・・」
瀬奈は信じられないという顔をして颯太の顔を凝視した。
「映画のセットみたいですごかったよ。 お土産話も沢山あるんだ。 ご飯食べながら聞いてよ」
「あっ そう言えばセイちゃんは?」
セイの問いに、颯太は意地悪く微笑むと、そっとリビングのドアを開けて瀬奈に中を見るように勧めた。


セイがリビングを覗くと、ソファに座って寝ているセイの膝に、気持ち良さそうに寝ている総司がいた。
2人は仲良く手を繋いでいる。

瀬奈は驚いて颯太を振り返った。
「あの人・・」
寝ている2人を起こさないよう、小声で颯太に訪ねた。
「本物の沖田総司だよ。 こっちに帰って来る時に一緒に来ちゃったみたい」
苦笑いしながら答える。
瀬奈はもう1度2人に顔を向け、安心しきったようにセイの膝を枕にしている総司を見た。

「本当に颯ちゃんにそっくり・・・」






セイは、楽しそうな声に目が覚めた。
2、3度瞬きをしてそちらの方へ目を向けると、颯太と瀬奈が楽しそうに食事をしながら話しているのが見えた。
「あれ、瀬奈さん・・・」
そう呟いたセイだったが、自分の膝の重みに下に視線を落とした。

「!!!」

いつの間にか自分の膝の上で気持ち良さそうに寝ている総司を見て、セイは驚いた。
慌てて颯太達の方を見るが、2人共セイが起きた事にはまだ気づいていないようで、話に夢中になっている。
セイは再び総司を見た。

スースーと寝息を立てて安心しきったように寝ている。
元の時代では、常に危険と隣り合わせにいる為、例え屯所で寝ているときでさえも神経を張り詰めているせいか少しの物音でも起きる総司が、今はすっかり熟睡してしまっている。

その寝顔は、自分より5歳も年上とは思えないほどあどけなく、セイはふふっと笑った。
そして総司のほっぺをつんつんと突っついてみた。
無反応の総司に、セイは面白くて何度も突っついてみる。

すると、今まで無反応だった総司が突然セイのつっついていた手をもう片方の手で握ってきた。

「!?」
びっくりしたセイは、思わず手を引いたが、握られた手は離れない。
起きていたのかと、顔を真っ赤にして総司の顔を覗き込み様子を伺ってみたのだが、反応がない。
「沖田せんせぇ・・?」
小さな声で呼びかけてみた。

しかし反応はない。

なんだ寝てるのか・・・

セイは安心してほうっと息を吐いた。

その時。

「かみや・・・さん・・・」
「はっ はいっ!!」

突然名前を呼ばれたことにびっくりしたセイは、思わず大きな声で返事をしてしまった。


「神谷さんの・・・ ばか・・・」



「・・・・・・・・・・・は?」



セイは唖然として総司を見下ろすが、当の本人は再びすーすーと寝息を立て始めた。

わなわなと震えながら、セイは拳を握った。


「わぁっ!! いったぁ〜〜っ!!」

総司の頭をボカっと殴り、その場に立ち上がった。
その拍子に総司はソファから転がり落ちてしまった。
一体何が起こったのかわからない総司は、突然訪れた痛みに涙目になっている。

「バカで悪かったですねっ!!!」

「えぇぇっ?? 何ですか一体?」
顔を真っ赤にしているセイを、総司は訳が分からぬまま見上げている。


「ぶっ あははははははっ」
「きゃはははははっ」

突然後ろから、大爆笑が聞こえた。
総司とセイのやりとりを、どうなる事かと気づかないフリをしてみていたのだが、あまりの面白さに我慢が出来なくなった。
セイは2人に全て見られていた事に顔を真っ赤にして何も発する事が出来ず、颯太と瀬奈を見つめた。


「ごめんね、セイちゃんっ! だってあんまりにも2人が可愛かったから」
瀬奈は笑いすぎて涙を拭いながら申し訳なさそうに言った。
「瀬奈っ! それ全然謝ってるうちにはいらないから! セイさんも沖田さんも、お腹空いたでしょう? こっちへ来て一緒に食べましょう」
颯太も笑顔で2人にテーブルに着く事を勧めた。

総司は、皆が笑っている理由もセイが怒っている理由もさっぱり分からなかったが、テーブルに乗っている食事を見るなり笑顔になり嬉しそうに空いているイスに座ろうとした。

テーブルに近づいたところで、漸く瀬奈の存在に気づいた。

「あ・・」
自分をじっと見ている瀬奈をふと総司は振り返ったところで、あまりにセイに似ている事に驚いた。
「初めまして、沖田さん」
瀬奈は、セイと同じ可愛らしい笑顔で総司に挨拶をする。
「は、初めましてっ! お話はお聞きしていますっ」
急にかしこまって瀬奈にお辞儀をするが、あまりにセイに似ている為、総司の心境は複雑だった。

「ふふっ 本当ですか? 私もセイちゃんや颯ちゃんから沖田さんのお話は聞いてました。 是非もっと色々とお話を聞かせて頂ければ嬉しいです。 さ、どうぞお座りください」
瀬奈に勧められて総司は慌ててイスに座った。

「セイさんも早くこちらへ来て食べましょうよ」
立ち尽くして3人の会話を呆然と見ていたセイに、颯太が声をかけた。
その声にはっとして、セイは照れながらもしぶしぶ総司の隣に座る。

「何か生まれ変わり同士で変な感じですね」
「ホントに。 でも何か嬉しい」
瀬奈が2人を見てにっこり微笑んだ。

「良かったらお酒もありますよ。 きっと飲んだ事がないお酒もあると思いますから、是非飲んでいってください」
そういうと、颯太は用意してあったビールやワインを取り出した。