「タイムスリップ42」
「本当に美味しかったですね〜」
総司はお腹をさすりながら、満足そうに微笑んでいる。
「いや〜、沖田さんに釣られて私まで沢山食べてしまいましたよぉ」
颯太も、苦しそうだがそれでも幸せそうにニコニコと笑っている。
その横では、心なしか青ざめたセイが下を向いてトボトボと歩いていた。
「神谷さん、どうかしたんですか?」
そんなセイを、総司は心配そうに振り返った。
「いえ・・ 私の事は気にしないで下さい」
いくら食べ放題だからといっても、総司は32個、颯太は30個のケーキを食べた。
それを目の当たりにしたセイは、普段総司の甘味好きを知っているとはいえ、さすがに気持ち悪くなってしまった。
店員や、周りに座っていた客までもが次々とケーキを平らげていく2人を驚きの表情で見つめていた。
「こちらの時代には、美味しいものや珍しいものが沢山あって本当にすごいですね!」
すっかり観光気分になっている総司は、周りを見渡しながら颯太に言った。
「江戸時代から比べたらそう思うでしょうね。 たった140年しか経っていないのに、信じられないくらいの進歩を遂げていますからね」
「向こうへ戻った時のお土産話が沢山ありますよ。 土方さんに話したら驚くだろうな〜。 近藤先生は涙を流しながら感動するんじゃないかな」
総司は、大好きな近藤の顔を思い浮かべながら幸せそうに微笑んだ。
「じゃあ、そろそろ日も暮れてきましたし帰りましょうか」
そういうと、颯太は2人を連れて駅へと向かった。
「ただいま〜・・・ って、まだ瀬奈は帰ってきてないのかぁ・・・」
もしかしたら、もう瀬奈が帰宅しているのではないかと期待を篭めてドアを開けた颯太だったが、部屋の明かりがついていない事に落胆した。
「あ、今日は少し遅くなると出かける時に言ってましたよ。 何か"ザンギョウ"というのがあると言ってました」
靴を脱ぎながら、朝瀬奈に言われた事を思い出しながら颯太に言った。
「残業か・・・ そろそろ瀬奈の会社も繁忙期だからな・・ しょうがないか」
1番にあいたかった瀬奈が帰りが遅いと知って、颯太は落ち込んだ。
「ま、しょうがないですね。 じゃあ瀬奈が戻るまでに夕飯でも作りますか」
「えぇっ!? まだ食べるんですか!」
颯太の言葉に、セイは青くなりながら颯太を見た。
「だって瀬奈はお腹を空かせて帰って来るでしょ? それに甘いものとご飯は別物ですから」
にっこりと微笑む颯太に、セイは苦笑いした。
「でもさすがの私も今日は少し疲れました。 瀬奈が帰るまでにはまだ時間はあると思いますから、少し一休みしましょう」
そういうと、颯太は2人にゆっくり出来るよう部屋着を渡した。
「ありがとうございます。 では私はあちらの部屋で着替えてきますね」
セイは、颯太から服を受け取ると、寝室へと入っていった。
「何か、すっかりセイさんの機嫌も直っちゃったみたいですね」
颯太は、自分も着替えながら総司を見た。
「えぇ・・・」
「どうしたんです? 何だか元気がないようですが・・」
着替える事もせず、ソファに静かに座っている総司を心配そうに見やった。
「いえ、そんなんじゃないんですが・・ ちょっと下山さんに言われた言葉が良く分からなくて・・」
「下山さん?」
「はい。 神谷さんと、神谷さんの周りにいる人を冷静に見ろと言われました。 そして私には素直になれと。 そうすれば、彼女が誰を思っているのか分かるだろうと」
それを聞いた颯太は、ふふっと笑った。
「下山さん、そんな事を言ったんですか〜。 その通りだと私も思いますけどね」
「本当ですか? 私には全く意味が分からないのですが・・・ 第一、神谷さんの周りにいる人って私や颯太さんくらいしかいないじゃないですか。 それで周りを見れば分かるって言われても・・・」
颯太は、もうこの野暮を通り越した総司を可愛いとさえ思い始めていた。
セイの行動を見れば、総司の事を思っている事など一目瞭然だ。
しかも、下山には"総司"に素直になれと言っている。
どう考えても、セイの思い人は総司なのだから、総司さえ素直になれば2人はうまくいくと言っていると普通なら気づくはずだ。
そこに全く気づいていない。
「本当に沖田さんは可愛いですねぇ」
「はぁっ!?」
突然可愛いといわれた総司は、顔を真っ赤にした。
「何ですか、可愛いって!」
「何でもないですよ。 さ、早く着替えて下さい。 セイさんが出てきてしまいますよ」
総司は納得のいかない表情で颯太を見ていたが、セイが出てきてしまうと思い渋々着替え始めた。
少し談笑した3人だったが、そろそろ瀬奈が帰って来るかも知れないと、颯太が夕飯を作る為にキッチンに立った。
総司とセイは、ソファに座りぼーっと何気なく点いていたテレビを見ていた。
しばらくテレビを見ていた総司だったが、肩に重みを感じた。
見てみると、セイが総司にもたれかかり眠ってしまっている。
自分の顔のすぐ近くにあるセイの寝顔に、総司はドキっとした。
今日1日色々動き回ったから、疲れたのだろう。
すーすーと寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。
こっちに残るとか、自分の事などもう知らないなどと言われてショックを受けたが、自分に体を預けて安心したように寝ているセイを見て、総司は嬉しくなった。
神谷さんの思い人か・・・
一体誰何だろう・・
セイの寝顔を見ながらも、やはりその事が気になる。
そして、誰かも分からないセイの思い人に嫉妬する。
きっとこんな可愛くて優しい人に言い寄られれば、誰だって悪い気はしないに決まってる。
今はこうして自分がセイにとって1番近い場所にいるが、もしセイに恋仲の男が出来れば自分などセイの中からいなくなる存在だ。
そんな事を考えてしまった事に、総司は自嘲気味に笑った。
そっとセイの前髪をなでてみた。
くすぐったそうに身をよじるが、よほど疲れているのか目を覚まさない。
総司はセイの手を握り、自分の頭をセイの頭に軽く乗せた。