「タイムスリップ41」



颯太にケーキバイキングへ連れてこられた総司は、初めて見るケーキに目を輝かせていた。
「何ですか、この奇麗なものは!?」
「ふふふっ ケーキって言うお菓子ですよ」
総司はずらっと並べられたケーキを、興味津々に見入っている。
「好きなのを好きなだけ食べられるんです。 はい、このお皿に取ってください」
颯太に渡された皿に、総司は1つケーキを取った。
そして、その場で立ったまま一口食べてみた。
「おいしいっっ!!」
総司は感動で思わず声を上げた。
「沖田先生、他のケーキも取って座って食べませんか」
周りの目を気にしたセイが、総司を促して空いたテーブルを指差した。
「そうですね、これならいくらでも食べれそうですっ!」
そう言うと、総司はケーキを物色し始めた。



目の前で繰り広げられている光景に、セイは吐き気を覚えていた。
テーブルの上には大量のケーキが並べられており、総司と颯太は次々にそのケーキを平らげている。
「あっ ちょっと颯太さんっ! それは私のですよぅ」
「いいじゃないですか〜。 また取りに行けば良いんだから」
低レベルな争いをしている2人を、引き気味に見ている。
「セイさん、もしかしてもうお腹いっぱいなのですか? 相変わらず小食ですねぇ」
ケーキをぱくつきながら、空になっているセイの皿を見て颯太が言った。
「神谷さんももっとお食べなさい。 向こうへ戻ったら、もうこんな美味しいもの食べれませんよ」
何となく言った総司の言葉に、一瞬3人の空気が固まった。

私、もう帰りません。

そう言ったセイの言葉を誰も忘れてはいなかったのだ。
総司は、恐る恐るセイの様子を伺おうと顔を上げた。
セイは何も言わずじっと空いた自分の皿を見つめている。
颯太の方に目線だけ動かすと、颯太も持っているフォークを口の前で止めて総司の方を見ている。

『ちょっとなんてこと言い出すんですか』
『だって、そんなつもりなかったんですもん』
『これでまたセイさんが機嫌悪くしたらどうするつもりですかっ!』

さすが生まれ変わり同士、目だけで会話し始めた。

「あの〜・・」
「は、はいっ!」
「どうしましたっ セイさんっ!」
突然ぼそっとつぶやいたセイに、2人は過剰に反応してしまう。

「ちょっとお2人の食べてるの見てたら気分が悪くなってしまったので、あちらで休憩してきても良いですか?」
と、レジ横に置いてあるイスを指差した。
「はい、それは大丈夫ですけど・・ 1人で大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。 あそこで待ってますので、ゆっくり食べててください」
笑顔でそういうと、セイは席を立った。

「・・・・」
「・・・・」
残された2人は、何となく気まずい雰囲気になった。

「大丈夫ですかね、セイさん」
「分かりません。 でも笑顔でしたよね・・・??」

2人は、セイが向かった方を見た。
しかし、セイに変わった様子はなく、イスに座って周りにいる人たちを興味深そうに見ている。

「大丈夫そうですね」
「ですね。 ではケーキ食べちゃいましょうか」
そういうと、2人はまたケーキを食べ始めた。


セイは、ボーっと周りを見ていた。
1人になって改めてここにいる事を不思議に感じていた。
ここにいる人達を見て、やはり自分がいた時代とは何もかもが違うと実感する。
下山の前では、こっちに残るだなんて思わず言ってしまったが、やはり自分がいるべきところはここではない。
元の時代に戻り、総司と一緒に新撰組隊士として過ごしたい。
総司がこちらへやって来たのは今朝だが、セイはもうこちらへ来てだいぶ経つ。
そろそろ元の時代が恋しくなってきた。
総司が一緒だから心強いし淋しくはない。
でも向こうへ戻って会いたい人達が沢山いる。
セイは、斉藤を始め新撰組の仲間や里の事を考えていた。

「あれ? 彼女1人?」
セイに突然話しかけてきた人物がいた。
「え?」
声のしたほうを見上げると、見知らぬ男が2人立っていた。
「どうしたの? こんな所で」
「良かったら遊びに行こうよ」
男たちは、図々しくもセイの腕を掴んだ。
「ちょっ やめてもらえますか」
セイは離そうともがくが、相手は男。
いくら普段鍛えているからと言っても腕力で敵うはずもない。

「いいじゃん。 どうせ暇なんでしょ?」
「そうそう、カラオケでも行こうよ」
セイを引っ張りあげ、強引に連れ出そうとする。
「いやっ 本当にやめてくださいっ」
ドアのところまで来た所で、引っ張られていた腕が急に離れた。

「この子を一体どこへ連れて行くつもりですか」
声のしたほうを見ると、総司が男の腕を捻り上げていた。

「何だお前」
男は苦しげな声を出して、離そうともがくがピクリともしない。
「この人は私の連れですが、何か用ですか」
感情のこもらない声でそういう総司に、男は冷や汗をかいた。
「な、なんだよ。 お前この子の彼氏かよっ」
「・・・・そうです」

えっ

その場の嘘だとわかってはいるのだが、総司の答えた言葉にセイは真っ赤になった。

「悪かったよっ 離してくれっ」
男がそう言うと、総司は捻りあげていた腕を離した。
男たちは、腕を摩りながら急いで店を出て行った。

「大丈夫ですか? 神谷さん」
「あ、はい・・・」
「もう、あなたはどこへ行っても隙だらけなんですから。 もう少し自分が回りの目を引く存在だと気づいてくださいね」
そういうと、総司はセイの手を握って颯太が待っているテーブルに戻った。

「大丈夫でしたか?」
事の成り行きを心配そうに見ていた颯太がセイに訪ねた。
「あ、はい。 大丈夫です」
「それにしても、さっきの沖田さんカッコ良かったですよ〜。 セイさんが絡まれてるの見た瞬間目の色変えてセイさんの元へ向かいましたからね〜」
「ちょっ、颯太さんっ!」
颯太の言葉に、総司は真っ赤になってあわあわした。

「セイさんの事を大切に思ってる証拠ですね。 ねっ! お き た さ ん」
今度こそ否定はさせないと、颯太は強調して総司の名前を呼んだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そうですね」
何となく空気を読んだ総司は、颯太の言葉に照れながらも何となく肯定した。
「て事です、セイさん」
ニコっと微笑みながらセイを見ると、セイも真っ赤になって下を向いている。

良い感じ、良い感じ♪

颯太は、何だか2人の間にあった蟠りが解けて来たのを感じた。