「タイムスリップ40」
「もしかして、この女性もどなたかの生まれ変わりなんですか?」
総司とセイの様子を見て、颯太苦笑いしながら尋ねた。
「はいっ! 絶対この方はお里さんです」
セイは目を輝かせながら、颯太を振り返った。
「あっ お里さんて・・・ 向こうで沖田さんが言っていた、セイさんの妾っていう・・」
「そうです、私のとても大切な人なんですよっ! まさか生まれ変わっても山南先生と出会っていたなんて・・・」
当の明美は、訳が分からず唖然と3人を見ている。
「あの・・・ 失礼ですが、あなた達は・・」
恐る恐る明美はセイに訪ねた。
「あっ すみませんっ! 私は・・・えーと、富永セイと申します」
さすがに、女性の格好をしている今、"神谷清三郎"を名乗るわけにいかない。
「こちらは、沖田総司さんで、こちらの方は佐伯颯太さんです」
「初めまして」
明美は、それぞれに軽く会釈してニコリと微笑んだ。
「立ち話も何だから、座って話そうか」
様子を見ていた下山が、ソファに座るよう促した。
「聞いて驚かないでくれ。 この方達は、実は江戸時代から来たらしいんだ」
「はいっ!?」
下山は、今までの経緯を全て話した。
「ちょっと待ってください・・・ 言ってることが良く分からないのですが・・・」
明美は右手で頭を抑えて眉間に皺を寄せた。
「きっとすぐには信じて頂けないとは思います。 私だって、まだここにいる事が信じられないんですから」
セイは困ったように笑いながら、明美に話した。
「でも、こちらにいらっしゃる下山さんは、私の尊敬する恩師の生まれ変わりだと思います。 そしてあなたは、きっとその方の恋人だった人の生まれ変わりなんです」
もうこのような説明を何度しているだろうか。
「下山先生は、今の話を信じていらっしゃるんですか?」
明美は、隣に座っている下山を上目遣いに見て訪ねた。
「自分でも良く分からないんだ。 でもこの人達が嘘を言っているとは思えなくてね。 君もそう思うだろう?」
「それは・・ もちろんです」
「私は信じてあげたいと思う。 そして、この人達の力にもなってあげたいと思っているよ」
そう言って、総司を見てウィンクをした。
総司は、下山が何を指して言っているのか分かり、頬を赤くして視線をさまよわせた。
その様子を、不思議そうにセイが見る。
「力にって?」
「な、何でもありませんよっ」
更に顔を真っ赤にしてセイから顔を背ける総司に、セイはぷくっと頬を膨らませた。
何となく事情を察した颯太は、2人の様子を見て微笑んだ。
江戸時代とはどんなところなのか、新撰組はどういう活動をしているのか。
そして山南はどのような人だったのかなど色々と話した。
下山も明美も、とても興味津々に聞いていた。
そして、思ったより下山の事務所に長居してしまった3人は、また会う事を約束して今日は帰ることにした。
「いつでも遊びに来てくれて構わないんだよ。 これ、渡しておくから」
そう言って、名刺を颯太に渡した。
「もしかしたら、また何かこの人達の事でご相談に来させてもらう事があるかも知れません。 その時は、ご連絡させて頂きます」
颯太は、名刺を受け取りながら言った。
「構わない。 いつでも待っているよ。 あ、沖田くんちょっと良いかな?」
下山は、総司を呼び寄せた。
総司は、素直に下山の元に行った。
総司の肩に手を回し、他の皆に背を向けて総司だけに聞こえるように耳元で囁いた。
「さっきも言ったが、神谷くんの好きな人は私ではない」
「あ・・ はい・・」
「しかし、私の口から君に誰なのかを言ってしまっては意味がないと思うんだ」
「え」
その言葉に、総司は下山を見上げた。
「もっと冷静に彼女と彼女の周りにいる人間を見てごらん。 そして、君は素直になる事だね。 そうすれば、きっと彼女の好きな人が誰だか分かるだろう」
総司は、何もいう事が出来なかった。
下山は、総司の肩に回している腕を放し、総司の肩をぽんぽんと軽く叩いた。
「何か困った事があれば、いつでも連絡しておいで」
「ありがとうございます」
素直に礼を言うと、2人が待つ場所へ向かった。
総司と下山の話が終わったのを見て、今度はセイが下山の元へ走ってきた。
「あのっ! すみません、1つだけ教えて頂きたい事がありますっ!」
「なんだい?」
セイは、下山の耳元でそっと囁いた。
「もしかして、下山さんと明美さんて・・・」
ずっと気になっていた事を訪ねた。
明美の左手の薬指にリングがしてあるのを、目ざとくセイは見つけていた。
それは婚約した女性が付けるものだと颯太から教わっている。
そして、下山と明美が交わす視線がどこか色を含んでいるようにセイには感じられた。
そこまで聞いた下山は、セイが何を言おうとしているか察知した。
そして、セイの顔を見てにっこりと微笑んだ。
「あぁ、今婚約しているんだ。 秋に式を挙げる予定だよ」
それを聞いたセイは、ぱぁっと顔を輝かせた。
「わぁっ!! そうなんですかっ!! 良かったっ」
元の時代では結ばれる事がなかった2人が、生まれ変わって幸せになっている事に歓喜を覚えた。
「じゃあ、また会おう」
「はいっ!」
3人は、下山と明美に別れを告げ事務所を後にした。
「私、すっごくすっごく嬉しいですっ! こちらの時代に来れて、本当に良かったですっ!」
下山と出会う前とは打って変わって上機嫌のセイに、颯太と総司は顔を見合わせて苦笑いした。
「それは良かったです。 で、この後どうします? まだ帰るには時間も早いですし・・・ 小腹が空きませんか?」
「そういえば・・・」
総司も自分の腹をさすりながらセイを見た。
「私はどちらでも」
「あっ、じゃあセイさんとこの前行ったケーキバイキングというのはどうですか? 沖田さん甘いものお好きなんでしょう?」
「ケーキ・・ バイ・・?」
総司は初めて聞いた言葉に、首を傾けながら颯太に訪ねた。
「ふふっ 行ってみれば分かります。 絶対沖田さん喜んでくれると思いますよ。 じゃあ決まりでっ!」
嬉しそうに歩き出した颯太を、総司とセイは慌てて追いかけた。
総司は、訳が分からず取り合えず颯太に従う事にしたのだが、ケーキバイキングが何か知っているセイは、この後繰り広げられるであろう状況を想像しながら、既に軽くめまいを覚えていた。