「タイムスリップ39」



総司はショックで呆然としている。
その様子を、下山は呆れてとしてみている。

「私、神谷さんには幸せになってもらいたいとずっと思っていたんです」
突然総司が話しだした。
「え?」
「いくら、私が神谷さんの事好きだからと言っても、やはり神谷さんには神谷さんの思い人と一緒になってもらうのが、彼女にとっては1番幸せになれると思うんです」
そこまで言うと、総司は姿勢を正して下山を真剣な眼差しで見た。
下山は嫌な予感がした。
「待ちなさい、沖田くん」
下山が慌てて総司が言おうとすることを止めようとした。

「下山さんっ! 神谷さんをどうか幸せにしてあげてくださいっ!」
総司は深々と頭を下げた。
「ちょ、ちょっと沖田くん、私の話を聞いてくれないかっ!?」
慌てて総司の肩を持ち、頭を上げさせようとした。

総司は、頭を上げても下山の顔を見ようとしない。
「私の神谷さんに対する役目はもう終わりました。 これからは下山さんに彼女を託します」
勝手にどんどん話を進める総司に、下山は苦笑いした。

「沖田くん、申し訳ないが私には神谷くんを幸せにする事は出来ないんだ」
「どうしてですかっ? もしかして、もう他に恋仲の人がいるのですかっ!?」
「うん・・ まぁ、それもあるんだが・・ 理由はそれだけじゃない」
「他になにが?」

普通に考えれば、初対面の人間にセイを託そうとする事自体がおかしいのだが、総司はその事にちっとも気づかない。
それどころか、山南の生まれ変わりなのだからそれが当たり前だと思っているようだ。

「はっきり言おう。 神谷くんの好きな人というのは私ではないんだよ」
「え・・・」

コンコン

そこへ、遠慮がちに部屋をノックする音が聞こえた。

やっと総司との話に本題に入ったところだったのに、ノックに邪魔されて下山は心の中で落胆した。
「すまん、沖田くん。 ちょっと待っててくれるかな」
そういうと、下山はドアを開けた。

ドアを開けると、女性が立っていた。
「あ、下山先生ただ今戻りました」
「やあ、お帰り」

総司は、声に聞き覚えがありふとドアの方に目を移した。

「あ・・」
総司は目を見開いた。

「ご来客中と聞いたんですけど、どうしても今日の裁判の事で急ぎでご相談したい事があるんです」
「分かった。 じゃあすぐ行くから君のオフィスで待っててくれるかな」
「分かりました」
そう言うと、下山はドアを開けて総司を振り返った。

「すまん、沖田くん。 ちょっと私は打ち合わせに行ってくるから、さっきの部屋で神谷くん達と待っててくれるかな?」
「え、あ、はい」
2人は立ち上がり部屋を出た。

総司は、足取り重く颯太とセイのいる部屋へ向かった。

さっきの女性は・・・
それに、神谷さんの思い人は山南さんではない?
他には一体誰がいるって言うのだろう。

総司の頭の中は、色々な事がぐるぐるしていた。


「あ、沖田さん」
部屋の中に入ってきた総司を見て、颯太は焦ったように立ち上がった。
しかし、その一瞬を総司は見逃さなかった。

颯太とセイはしっかりと抱き合っていたのだ。

実際は、泣いて落ち込んでいるセイをあやしていただけなのだが、今の総司がそれを勘違いしない訳がない。

「し、下山さんとのお話は、もう終わったんですか?」
「そこで一体何をしていたんですか?」
総司の冷ややかな視線と、怒気を含んだ声色に颯太の背中を冷たい汗が流れた。
「いや、な、何も・・」
まさか総司の事でセイが落ち込んでそれを慰めたとは言えない。

「あなたには他に恋仲の人がいると聞きましたけど、同じ顔ならどちらでも良いんですか」
総司のあまりにもひどい言葉に、颯太の頭に血が上った。
「はっ!? 一体どういう事ですかっ!」
「だってどうでしょう? あなたの恋人は神谷さんの生まれ変わりなのですから、あなたにとってはどちらでも良いんじゃないんですか」
「いくら沖田さんでも、言って良いことと悪い事がありますよ」
「図星をつかれて焦りましたか」
総司は、バカにしたように言うと、ふふっと笑った。
その言葉に颯太は総司の胸倉を掴んだ。

「やめてくださいっ!」
様子を見ていたセイが、颯太をドンっと突き飛ばして総司にギュッと抱きついた。

「いって」
予想外のセイの行動に、颯太は勢いあまってその場に尻餅をついた。

「あ、ごめんなさい、颯太さんっ!」
転んだ颯太を心配するセイだったが、しっかりと総司を抱きしめたまま離そうとしない。

「大丈夫ですよ。 ちょっとびっくりしましたけど・・」
軽く打ったお尻を撫でながら、颯太は立ち上がった。

一方、総司は突然セイに抱きつかれた事に、びっくりしていた。
「あ、あの・・・ 神谷さん?」
「あっ すみませんっ!」
総司が殴られると思った瞬間、考える前に行動してしまっていた自分が恥ずかしくて、総司の呼びかけにハッとして飛びのいた。
「いえ・・・」
2人は、お互いに顔を赤らめて下を向いてしまった。

何でこの状態で2人とも気づかないんだっ!?

颯太は、呆れて2人を見ていた。

「入って良いかな」
そこへ廊下から下山の声がした。

「どうぞ」
颯太が答える。

「待たせてすまなかったね。 ちょっと急ぎの用があったものでね」
下山は女性を伴って中へ入ってきた。

「あ」
入ってきた女性を見て、セイは驚いて声を上げた。

「紹介するよ。 こちらは、うちの事務所で弁護士として手伝ってくれている白川明美さんだ」
「初めまして、白川です。 すみません、突然お邪魔してしまって」

にこやかに挨拶している明美を見て、セイと総司は固まったままだった。

「お里さん・・・」
セイがぼそっとつぶやいた。

「ん? 何か言ったかい?」
セイの言葉が聞き取れなかった下山は、セイに訪ねた。

「お里さんだーー!」
セイは、嬉しそうに明美の元へ駆け寄ると、明美の手を取ってぴょんぴょん跳ねている。
当の明美は、セイの行動に驚いてされるがままになっていた。