「タイムスリップ38」
とんでもない事を言い出したセイを、他の3人は唖然として見上げていた。
当のセイは、口をぷくっと膨らませて目には涙を溜めている。
「神谷さん・・・?」
恐る恐る総司はセイの名を呼んでみた。
しかし、セイは下を向いたまま総司を見ようとしない。
「あなた、自分が何を言っているか分かってるんですか?」
「分かってます。 私は、このままこちらに残って山南先生や颯太さんや瀬奈さんと一緒にいます」
セイの言葉に、更に総司はショックを受ける。
「そんな事が許されると思っているのですか? 第一、隊はどうするんですか!?」
総司は、思わず声を荒げた。
その言葉に、セイの顔も曇る。
本当は総司と一緒にいたくない訳がない。
でも、この度を越した野暮天には心底落胆していた。
「先生には私の気持ちなんて分かんないんですよ」
「気持ちって何ですか! 隊を抜けてまで残るほど、何かここにあるとでも言うのですか!?」
「もうっ! うるさいですっ! ここに残ると言ったら残るんですっ!」
「そんなの許しませんよっ!!」
「先生には関係ありませんっ!」
言い合いをしている2人を唖然と見ていた下山だったが、ある事に気づいた。
そして、ふと颯太を見ると、颯太もこちらを見ている。
颯太は、下山が何に気づいたのか理解したようで、下山を見て頷いた。
「神谷くんと沖田くん」
下山は、少し厳しい声で2人の名を呼んだ。
「はい・・」
セイが小さく返事をした。
「ちょっと、冷静に話しをしないかい?」
「あなたには関係ないでしょう」
下山を見ないまま、総司は冷たく言った。
「沖田くん、出来れば君と2人きりで話がしたいんだが、ダメかな?」
下山の発言に、総司は眉間に皺を寄せた。
「何故私があなたと?」
「ちょっと君に興味があってね。 この上に空いている部屋がある。 そこで話でもしよう」
有無を言わせない威圧感があった。
山南と瓜二つという事もあり、総司も納得は出来ないものの断れなかった。
下山がその場に立ち上がり、部屋を出ようとすると、総司もそれに習って立ち上がった。
その様子を颯太はハラハラしながら見ていたが、セイはしたを向いたままだった。
2人が部屋を出て行くと、セイはその場に座り込み泣き出した。
「セイさん・・」
颯太はすぐにセイの横に駆け寄り、そっとセイの肩に手を乗せた。
「大丈夫ですか?」
どう慰めて良いか分からず、颯太はそれしかいえない。
「颯太さん・・・」
セイが泣きながら、颯太の名を呼んだ。
「はい」
「きっと沖田先生は、私の事なんて嫌いなんですよね」
「えぇっ!?」
颯太は驚いて、セイの肩に置いていた手を離した。
もしかして、この人も・・・
颯太は、やっとセイも総司と同じで野暮なのだと気づいた。
「あの〜、セイさん?」
「私なんて一緒にいない方が良いんですよ。 もし今度指輪が光ったら、私はその場から逃げます。 沖田先生にだけ向こうに戻ってもらう事にします」
涙ながらにそういうセイを、颯太は波も言えず唖然と見ていた。
空いている会議室に総司を連れてきた下山は、総司に座るように勧めた。
「話って何ですか?」
総司は、勧められたイスに座ると下山に問いかけた。
「初対面でこんな事を聞くのは失礼かと思うが、どうしても君たちの事が気になったのでね」
先ほどとは打って変わって、優しく総司に話しかけた。
「私たちの事が?」
総司は怪訝に思い、思わず聞き返した。
「君と、神谷くんとは恋人どうしという訳ではなさそうだね」
下山は、敢えて核心を突いた。
その言葉に、総司の顔がカッと赤くなった。
「な、な、何ですかっ 急に!」
「いや、すまん。 失礼なのは分かっているんだ。 でも、君や神谷くんの事をどうしてもこのまま放っておけないと思ったんだ」
総司の頭の中は、珍しくフル回転していた。
颯太といい、下山といい何故自分がセイの事が好きなのが分かったのだろうか?
しかも、下山に関してはさっきであったばかりだ。
そんなに自分の気持ちは分かりやすいのだろうか。
「なぜ、私が神谷さんの事を・・」
好きなのが分かるのかと訪ねたかったが、それ以上の言葉を言うのが恥ずかしくて口ごもってしまった。
そんな総司を見て、下山はにこっと微笑んだ。
「君を見ていると、きっと誰でもわかると思うよ」
「えぇ〜っ!」
総司は恥ずかしいのとびっくりしたのとで、思わず叫んでしまった。
「あははっ そんなに驚く事はないだろう」
「だっ だっ だってっ! ってことは、もしかして神谷さんも・・・?」
総司は、1番気になったことを下山に尋ねてみた。
「いや、彼女は全くその事には気づいていないみたいだね」
それを聞いて、総司はふぅっと息を吐いた。
「でも、私は神谷くんの好きな人も誰かわかってしまったよ」
意地悪く笑ってそういった。
「えっ!?」
総司は驚いて下山の顔を見た。
「君は気づいていないのかい?」
その問いに、総司は何も答えない。
その変わり、下山の顔をじーっと凝視している。
「沖田くん?」
「私、神谷さんの思い人が分かっちゃいました・・・」
「そうか、それなら話は早い。 君から神谷くんに・・」
「山南さんだったんですね・・」
「え"〜っ!?」
予想外の言葉に、さすがの下山も叫んでしまった。
「そうか、そうだったんだ。 山南さんが好きだったんだ・・ 小姓をしていてずっと一緒にいたんだもの。 ありえた話なのに・・」
「えーと、沖田くん?」
頭が痛くなってきた下山は、どうにか話を元に戻そうと総司の名を呼んだ。
「お里さんとの仲を喜んでいたのも、きっとお里さんの事を思ってのことだったんだ。 あの時神谷さんはきっと辛い思いを必死に隠して・・・」
「もしもし?」
「ここに残りたいと言った神谷さんの気持ちが、やっと分かりました」
「いや、全然わかってないから」
どんどん暴走していく総司に、下山は頭を抱えて下を向いてしまった。