「タイムスリップ36」
先生が私の事なんとも思ってない事なんて分かってたよ。
今までもこれからも、上司と部下以上の関係になりたいなんて期待してなかった。
でも迷惑って何?
そんな言い方ってある?
沖田先生って本当に女心が分かってないと言うか・・・
本当に野暮天だよね。
もうやだ。
先生だけ向こうに帰れば良いんだ。
私は1人ここに残ってやる。
どうせ先生なんて私がいなくなったって悲しくないんだもん。
セイは、そんな事を考えながら、知らない街で1人泣きながらとぼとぼ歩いていた。
「どうしたんだい? 大丈夫かい?」
下を向いて泣いているセイに、話しかけてきた人物がいた。
セイは、その声にふと顔をあげた。
「どこにもいませんよ!!」
「参ったなぁ・・ 私もこの辺の地理全く分からないんですよ・・ どこにいるか検討もつきませんよ」
颯太と総司は、セイを探して辺りを走り周ってみたのだが、どこにもいない。
いい加減、走り続けていた2人は疲れてきた。
「ちょっと休みましょう」
そういうと、2人は歩行者の邪魔にならないような場所を探し、座り込んだ。
「どうしてあんなこと言ったんですか? 絶対あれは颯太さんのせいですからね」
総司は、颯太の顔を睨みながら言った。
「はぁっ!? 私はただ、自分の思ったことを言っただけじゃないですか! あんな言い方してセイさんを傷つけたのは沖田さんでしょう!」
颯太は心外だとでも言いたげに言い返した。
「どうして神谷さんが傷つくんですか。 そもそも、私はどうして神谷さんが泣いて走って行ってしまったのか全く分からないんですけど」
「そうでしょうね。 きっと沖田さんには一生分からないでしょうね」
棘を含んだ口調でそういう颯太に、総司はムッとした。
「どういう意味ですか? じゃあ颯太さんは神谷さんの気持ちが分かるんですか?」
「とっても良く分かりますよ。 いくら私が沖田さんの生まれ変わりでも、あなた程野暮ではありませんからね! 生まれ変わりっていう事がちょっと恥ずかしく思えてきましたよ」
「何ですって!?」
「何ですか! 文句でもあるんですか!!」
2人は睨みあった後、ふんっ! と言って子供の喧嘩のように顔を逸らした。
「ちょっちょっと君!!」
泣いている少女が気になり声をかけた瞬間、その少女に抱きつかれた上、大声で泣き始めた少女に、男は心底驚いた。
「うえーーーーんっ!! 生きてらしたんですねーーーー」
男は意味の分からない事を良いながら泣いている少女に、戸惑っている。
「ちょっと待ってくれないか? 誰かと間違えてないかな?」
「間違えてませんーーーーっ! 会いたかったです、山南先生ーーーーっ!」
「はぁっ!? 私は山南なんて名前じゃないよ!」
「やっぱり山南先生だぁ〜〜〜っ!」
尚も、男をぎゅっと掴みながら離そうとしない少女に、男はどうして良いか分からず立ち尽くしていた。
「何か泣き声が聞こえませんか?」
「神谷さん・・・・ の声ですね・・・」
こんな所で喧嘩していても仕方ないと、もう1度セイを探しに歩き始めた颯太と総司の耳に、聞きなれた声が聞こえてきた。
しかも、なにやら叫びながら泣いているようだ。
2人は声のする方へ走りだした。
曲がり角を曲がったところで、2人の目の前に男に抱きつきながら泣いているセイを見つけた。
「神谷さんっ!」
知らない男に抱きついているセイを見た瞬間、モヤモヤとした感情が総司の中に出来、ものすごい速さでセイの元へ行ったかと思うと、思いっきりセイを引き剥がした。
「何知らない人に抱きついてるんですかっ!!!」
目を真っ赤に腫らしながら泣いているセイに、総司は思いっきり怒鳴った。
「うぇぇぇぇぇんっ だって山南先生がぁ〜〜」
セイのその言葉に、目の前にいる男性を見た。
「山南さん・・・」
男を見た総司は、思わずそうつぶやいた。
「どうもすみませんでした・・・」
事情を簡単に説明し、3人は山南にそっくりな男性に謝罪した。
「いや、全然構わないよ。 でも、そんな可愛らしい女の子を泣かしたのはどっちだい?」
「この人です」
颯太と総司はお互いを指差しながら同時に言った。
「・・・君たち2人共って事だね」
男は呆れながら言った。
「あ、いや・・・」
総司も颯太も何か良いわけをしようとするが、言葉が出てこない。
セイはその横で、まだ男にしがみつきながらしくしく泣いている。
「神谷さん、その人は山南さんに似てますが、山南さんじゃないんですよ?」
いい加減男から離れて欲しい総司は、セイを諭すように優しく言う。
「絶対山南先生の生まれ変わりだもん!」
そう言い張るセイに、3人はどうして良いか分からず、はぁ〜とため息をついた。
「君、私は山南という名前ではないよ? 私は下山敬二というんだ。 この近くで弁護士事務所を開いている。 もし良かったら、そこで話でもしないかい? 少し落ち着いたほうが良いだろう?」
自分から離れる様子のないセイを、このまま放って行く訳にいかず、下山と名乗る男はセイに優しく話しかけた。
「はいっ! 行きます!!」
セイは嬉しそうに下山を見上げて元気に答えた。
総司と颯太は、予想外の展開についていけず、2人のやりとりを呆然と眺めていた。