「タイムスリップ34」
「神谷さんっ! 早いですよ!!」
「すごいでしょう?? 私も最初乗った時はびっくりしたんですよぉ!!」
颯太は、恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
電車に乗った総司とセイは、後ろ向きでイスに座り、窓の外を見てワイワイと騒いでいる。
他人のフリをしようと思っても、総司と同じ顔をしているため、周りからは双子にしか見られていないようだ。
颯太と総司の顔を見比べては、「ぷっ」と周りの乗客は笑っている。
「あ、あの・・・ お2人とも、私の立場も考えて下さいよ」
泣きそうになりながら2人に訴えるが、総司もセイも聞こえていないようだ。
小学生らしき子供たちが集団で乗ってきたのだが、2人を見て指差してなにやらひそひそ言っている。
颯太は、耳と目を塞いで何も見えないふりをすることにした。
市谷に到着した時には、颯太の体力は既にほとんどなくなっていた。
「あれ? どうしたんです、颯太さん」
颯太の様子に気づいたセイが、心配そうに訪ねてきた。
「いえ、何でもなです。 私の事は気にしないで下さい」
「それにしても颯太さん、私お腹が空いてしまったのですが」
空気を読まずに総司が飄々と言う。
「はぁ・・・ では先に食べますか? それとも帰りに食べに行きますか?」
既に疲れている颯太は、どうでも良さそうに訪ねた。
「んー、お腹が空いて死んじゃいそうなので、先に食べたいです。 ね、神谷さん♪」
遠慮のない総司に、セイは苦笑いして総司を見上げた。
「分かりました。 丁度目の前にイタリアンのお店がありますね。 そこで良いですか? いいですね。 はい、じゃあ行きますよ〜」
颯太は、返事を聞かずにさっさとお店に向かって歩き出してしまった。
「颯太さんどうしちゃったんでしょう?」
「さぁ? 何だか生気が抜けてしまってますねぇ」
店の中に入ってからも、総司とセイは始めて見るおしゃれな内装にビックリしていた。
セイは若干この時代に慣れてきているのでそれほどではないが、総司は最初のセイと同じように口をぽかーんと空けてキョロキョロと周りを見渡していた。
「沖田さん、お願いですから大人しく座っててください」
颯太の言葉に大人しく従ったが、席に着いてからも、隣の客が食べている様子をじーっと見ている。
「沖田先生っ! そんなにじろじろ見たら失礼ですよ!」
「だってあんな食べ物始めてみましたよ。 あれは何の食べ物なんでしょう?」
小声で話しているつもりなのだろうが、隣のカップルにはばっちり聞こえている。
「沖田さんもセイさんも。 何にしますか?」
と、颯太はメニューを2人に見せた。
「か・・かる・・かるぱち・・」
「違いますよ、沖田先生。 これはカルパッチェって読むんですよ」
どっちも間違ってますけど・・・
そうは思うが、口には出さない。
「すみません、私が悪かったんです。 私が適当に選びます。 良いですね?」
そう言うと颯太は店員を呼び、コース料理を適当に注文した。
「それにしても、こちらの時代って本当にすごいんですねー」
颯太の服に身を包んだ総司は、目をキラキラと輝かせながら言った。
「そうなんですよ。 でも、最初私が颯太さんに連れてきてもらった時は、始めてみるものに驚きすぎて、ちょっと疲れてしまいました」
「そうですか? 私はただ楽しいだけですけど♪ 修行が足りませんね、神谷さん」
2人の会話を、肩肘をつきぼーっと聞いていた。
セイと話している時の総司の表情が、とても柔らかい事に颯太は気づいていた。
初めて総司と出会った時とは大違いだ。
知らない時代にいるというのに、セイと一緒にいるというだけで余裕すら感じているようだ。
セイと過ごす時間は、何をしていても幸せに感じているのだろう。
それはセイにも言える事だった。
「颯太さん、どうしたんですか? さっきからボーっとして」
「もしかして体調が悪いのではないんですか?」
「いえ、全然そんなんじゃないですよ! ただ、やっぱりお2人はお似合いだなーと思って」
その言葉に、2人は真っ赤になった。
「突然何を言い出すんですか、颯太さん!」
「そうですよ!」
「私と瀬奈は、周りからそう見られてるんだなぁ〜と思って嬉しくなっただけですよ」
どちらの気持ちも知っている颯太は、何とかこの2人に上手くいって欲しいという気持ちでいっぱいだった。
「お待たせ致しました」
そこへ店員が食事を運んできた。
始めてみるイタリアンの料理に、2人の目は点になっている。
その様子が、颯太は面白くて仕方がなかった。
「さ、どうぞ遠慮しないで食べて下さい。 屯所で頂いた食事も美味しかったですけど、こちらの食事も結構いけますよ」
セイと総司は食事を食べようとするが、フォークとナイフを持ったことがない2人は、どうやって食べて良いのか分からない。
「これは、こうやって食べるのですよ」
そう言って、颯太はお手本を見せた。
・・・が、どうしても2人共上手く使いこなすことが出来ない。
「すみません・・ お箸を2膳いただけますか」
恐らくイタリアンレストランでお箸を頼む人はいないのだろう。
はぁ!?という顔をしながら、店員が箸を持ってきた。
「どうぞ、これで食べて下さい」
もう、ここまで来たら恥ずかしいと言ってられないと、颯太は半分開き直ってきた。
「わぁ♪ とっても美味しいですね!」
「颯太さんが作って下さった食事も美味しかったけど、この料理もすっごく美味しいです」
セイも総司も、イタリアン料理の味に大満足のようだ。
「食べ終わったら八幡神社へ行きますからね」
2人の様子に、颯太も嬉しくなった。