「タイムスリップ31」
「颯太さん、お疲れならもうお休みになられたらどうですか?」
そういうと、総司はいそいそと畳まれている布団を敷き始めた。
颯太もそれを手伝う。
「沖田さんは大丈夫なんですか? こうやって別の場所に寝泊まりしちゃって」
布団を敷きながら、颯太は先ほどから疑問に思っていたことを訪ねてみた。
「後で土方さんには文を出しておきますので大丈夫ですよ。 あなたの事情はわかっていますからね」
「そうですか。 ありがとうございます」
布団を敷き終えた2人は、用意してある浴衣に着替え、敷いた布団の上に座り込んだ。
「今頃神谷さんどうしてるんですかね? あなたがいなくなってしまって大丈夫なんでしょうか?」
「あちらには瀬奈がいますからね。 よくよく考えると面白いですよね」
そういうと、颯太はぷっと吹き出した。
「何がですか?」
「だって、私と沖田さんが江戸時代でこうして一緒にいて、セイさんと瀬奈が一緒にいて・・・ 生まれ変わり同士が一緒にいるんですよ? 普通にありえない組み合わせですから」
さも楽しそうに言う颯太に、総司の頬も緩んだ。
「そうですね。 きっと神谷さんもあちらでは色々と経験して帰って来るんでしょうね」
うふふっと嬉しそうに笑っている総司を見て、颯太も嬉しそうに笑った。
「思ったんですけど、沖田さん」
「はい?」
「セイさんを危険に晒したくないんですよね?」
「はい、彼女には安全な場所で幸せに暮らしてほしいと思ってますよ」
それを聞いた颯太は、ふぅっと息を吐いて、一呼吸してから話始めた。
「では、セイさんはずっとあちらの時代にいさせるというのはどうでしょう?」
突然の颯太の申し出に、総司は息を呑んだ。
「だって、向こうだと安全だし、こちらのように命をかけて生活するという事もありません。 セイさん1人くらいの面倒くらいなら私が見れますよ?」
「でも・・・」
「それに、向こうで良い人が見つかれば、結婚して子供を作る事だって出来るし、彼女くらい器用ならどこ行っても通用しますよ」
本当は、戸籍の問題などもある為、セイがあちらにいるというのはかなり問題がある事なのだが、そこまで言わないと総司が何も行動を起こさないだろうと思っての発言だった。
「神谷さんがこちらに戻ってこない・・・」
総司は颯太の顔を呆然を見ながらつぶやいた。
「えぇ、沖田さんの望み通りになりますよ?」
総司は、下を向いてなにやら考え込んでしまった。
その様子を見ながら、後は総司次第だなと颯太は心の中でつぶやいた。
「ま、どちらにしろ私が元の時代に戻れない事には何も出来ないんですけどね。 いつ戻れる事やら」
そういうと、颯太は持ってる指輪を取り出した。
全く光る気配もない指輪をじぃっと見つめる。
一体どうしたらこの指輪が光ってくれるのか。
颯太ははぁ〜っとため息をついた。
仕事の事もある。
瀬奈とやっと元さやに戻ったのに、一緒にいれる前にこちらに来てしまった。
正直瀬奈に会いたいな〜とも思う。
ゴロンと布団に寝転がって、総司の方を向くと、まだ眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
「沖田さん・・・ どうされました?」
「あ、いえ」
はっとしたように颯太に向き直った総司は、じっと颯太を見ている。
「そんな見つめられると照れますけど」
「考えてたんですよ」
「何をですか?」
「神谷さんがこちらに戻ってくるべきなのかどうかを」
きたきた♪
颯太は心の中でほくそ笑んだ。
「それで、どうする事にしたんですか?」
「それが・・ 分からないんです。 こちらに戻ってくるべきなのか、あちらに残るべきなのか」
「そうですか・・・ ま、そうでしょうね。 セイさんの問題ですからね」
総司も考えることに疲れたのか、ゴロンと布団に横になった。
「さっきは茶化して言っちゃいましたが、沖田さんは本当はセイさんの事好きなんでしょう?」
颯太は総司の顔を見て、真剣に訪ねた。
その問いに、総司は答えない。
「本当は、私がこんな事言わなくても気づいてたんじゃないんですか? 自分の気持ちに」
颯太はうつ伏せになり、肘をついた状態で総司の顔を覗き込んだ。
「だって、セイさんの行動が気になったり、他の人と話してるの見るとイライラしたりむずむずしたりって、どう考えたって恋じゃないですか。 他の人に対してそんな事思ったりしないんでしょう?」
「・・・・」
やはり総司は何も答えない。
その代わりに、どんどん顔が赤くなっていく。
「私だって瀬奈が他の男と仲良くしていたら、いてもたってもいられなくなりますよ。 それが仕事の相手だと分かっていても、やっぱり面白くはないですね」
「颯太さんも・・ そういう気持ちになるんですか?」
「なりますよぅ。 そんなの普通の人間なら当然の気持ちだと思ってますよ? どうして沖田さんがそこまで否定するのか私には理解できませんね」
その言葉に、総司は目を伏せた。
「私にはあってはならない感情なのです」
「何故です」
「もし1人の女性に夢中になってしまったら、仕事に支障が出ます。 それに、その人を置いて死ねないと思ってしまうではないですか」
「それの何がいけないのですか!」
思わず声を荒げた颯太に、総司は驚いて体を起こした。
「颯太さん?」
「じゃあ聞きますけど、あなたの上司の近藤勇や土方歳三は恋をしていないのですか? あなたのいる新撰組の人達は誰も恋人はいないのですか? 邪魔になるような恋愛ならまだしも、セイさんがあなたの人生の邪魔をするような人だと私には思えませんよ」
思わず感情的になってしまった颯太は、あっ と思い総司を見上げた。
総司は、悲しそうに微笑んで颯太を見た。
「そうですね、確かに神谷さんはそんな人ではないですね」
総司の言葉に、颯太も嬉しくなった。
はっきりと言葉には出していないものの、セイの事を肯定したようなものだった。
「でも・・ 神谷さんには思い人がいるのでしょう? 私は自分が神谷さんとどうこうなりたいというよりも、あの人が幸せになってくれる方が良いんです」
まだ言うか、この人は・・
颯太は心の中でため息をついた。
「じゃあ、もしセイさんの好きな人が沖田さんなら何の問題はないわけですね?」
「なっ!?」
総司の顔が一気に真っ赤になる。
「あ、いえ、沖田さんかどうかは私の口からは言えませんけど、もしそうならって事ですよぅ」
「だから、それはないとさっきもっ!」
「直接本人に聞いてみれば良いんですよ」
颯太はにっこりと微笑んだ。
「そんなの聞ける訳ないじゃないですかっ!」
総司は更に真っ赤になってふるふると顔を横に振った。
「中学生みたいですね・・・」
総司の反応を見ながら、颯太は苦笑いした。
「はいっ?」
「いえ、こちらの話です」
若干寒くなってきた颯太は、布団の中にもぐりこんだ。
「沖田さん、私本当に今日は疲れてしまったようです。 続きは明日にして、今日はもう寝ませんか?」
「そうですね。 私も明日は朝から稽古があります」
そういうと、総司も布団をかぶり寝転がった。
「明日も何かとお世話になるかも知れませんが、宜しくお願いします」
「承知しました。 ではおやすみなさい」
そういうと、総司は行灯の火を消した。
2人がすっかり寝静まった頃、真っ暗な部屋の中を小さな灯りが部屋の中に点った。
ぼうぅっと点った灯りは、しばらくの間小さく光っていたが、徐々に大きくなり、一気に部屋の中を包み込んだ。