「タイムスリップ30」


「沖田覚悟っ!」
1人の浪士が突然総司に向かって斬りかかってきた。
それを総司はさらりと交わして倒した。
と、同時にもう1人が総司に斬りかかる。

颯太は、現実とは思えないような思いでそれを見ていた。
まるで、ドラマの撮影でも見ているような感覚で。

「颯太さんっ 危ないっ!」
総司に見入ってしまっていた颯太に、残りの1人が斬りかかった。

「うわぁっ!」
間一髪の所で、颯太は転がりながら逃げた。

男は尚も颯太に向かって斬りかかってきた。
颯太は、咄嗟に砂利を掴んで男に向かって投げた。

「ぐわっ 目が!!」
砂利は見事男の目に入り、目を押さえてその場に膝を付いた。
そして、ふっと男から力が抜け、その場に崩れ落ちた。

その後ろには、刀を血で染めた総司が立っていた。

「お・・沖田さん・・・」
颯太は、真っ青になりながら総司を見上げた。
総司は汗ひとつ欠かずに、平然と懐紙で刀を拭っている。

「ありがとうございます。 助かりました・・・」
「逃げなさいと言ったのに、どうして逃げなかったのですか?」
「あまりにもびっくりしてしまって・・・」
「もしあなたがここで死んでしまったら、二度と神谷さんは戻らないんですよ」
そう言うと、総司は颯太に手を差し伸べた。
「すみません」
素直に謝ると、その手を取って立ち上がった。

「ここではこんな事は日常茶飯事です。 ここにいる以上は、もう少し自覚してくださいね」
口調は厳しいが、表情は先ほどとは違い柔らかいものに戻っていた。
「はい・・」






その後松本の家に着いた2人だったが、生憎松本会合に出ていて今晩は戻らないとの事だった。
「弱りましたね・・・」
「何かすみません」
自分の為に、総司を振り回しているようで、颯太は責任を感じた。

「仕方ないですね。 今日は宿でも取りますか」
そういうと、総司は颯太を連れてすぐ傍にあった宿に入った。

「今からでも入れますか?」
「へぇ、1部屋でよろしおますか?」
店の店主は、あまりに似ている2人の顔を見比べながら答えた。
そして、颯太の格好を上から下までじろじろ見ている。

「では部屋へ案内して下さい」
店主の態度に、若干むっとした総司は、早々に部屋に案内させようと店主を促した。

「ではごゆっくり」
部屋に案内した店主は、そう言うとそっと襖を閉めた。

「感じ悪いですね」
憮然と総司は言った。
「でも・・ やっぱりこの格好ではここでは浮いちゃいますからね」
苦笑いしながら、颯太はその場にどさっと座り込んだ。

「やはり慣れない世界では疲れますか」
総司も、颯太の目の前に座り込んだ。

「そりゃーもう。 でも、きっとセイさんもこんな感じだったんだろうなーって思います。 見た事ないものばかりで、セイさんもびっくりしっぱなしでしたからね」
新宿に連れて行った時のセイの行動を思い出し、颯太はぷっと吹き出した。
颯太の言葉に、総司の顔が曇った。
「セイさんて、本当に新撰組の隊士なんですか? あんなに可愛らしくて華奢な人が、とてもさっきの沖田さんのように刀を振るっているなんて思えませんよ」
「神谷さんは、立派な新撰組の隊士ですよ。 その辺の男は敵わないくらいです。 頑張り屋さんで負けず嫌いで」
「そして、とっても心の優しい人ですよね」
颯太の一言に、総司は嬉しそうに微笑んだ。
「えぇ、本当に優しい子なんですよ。 本当は、こんな人斬りの集団にいるような子ではないです。 早く隊から出して、誰かの元に嫁いだ方が幸せになれるんです」
「・・・」
颯太は何も言わず、総司の話を聞いている。
「何度も何度も隊を出そうとしたのに、あの人ったら全然いう事聞かないで自分は武士だと言い張って新撰組にいたがるんです。 一緒にいる私なんて、おなごのあの人に何かあってはと思うと気が気じゃないんですよ」
そこまで言って、総司は「はぁっ」とため息をついた。

「でも、それはセイさんが選んだ道では?」
「えっ?」
「セイさんは、新撰組にいる事が幸せなんですよ。 誰かと結婚するよりも何よりも」
颯太は、セイが何故新撰組にとどまっているのかと言うのを知っている。
「でも女子は嫁いでややを作るのが1番の幸せなんです」
「ぷっ あははははっ! 沖田さん、いつの時代の人なんですか」
ここが江戸時代という事を忘れて、颯太は笑いながら総司の肩をばんばん叩いた。
「はっ!? いつの時代って今の時代ですけどっ!」
「あっ そうでしたそうでしたっ!」
それでもおかしくて仕方がない颯太は、なかなか笑いが止まらない。
その様子を、憮然とした顔で総司は見ていた。

「すみません、だって江戸時代って本当にそうなんだなって。 私のいる時代では、女の人が結婚して子供を産む事だけが幸せなんて言ってる人よりも、自分がやりたい仕事を探してやっている人の方が多いかもしれませんよ?」
「そうなんですかっ!?」
「いえ、もちろんそういう人も沢山いますよ。 でも女性の社会進出が始まって、今では会社の社長を女性がしたりしてますもん。 アメリカでは、子供を産んで48時間後には職場復帰した政治家がいるくらいなんですから。 私としては、瀬奈が結婚して家庭に入りたいって言えばそれで良いし、結婚して子供を産んでも仕事を続けたいと言えば、もちろん大賛成ですよ」
「・・・・颯太さんの話している内容の半分が理解できませんでしたけど・・・」
またまたうっかり時代を忘れて話してしまった。
「すみません、とにかくセイさんが新撰組で働いている事は、危険ですけど気持ちは理解出来るって事です」
「・・・・そうですか」
「それに、きっと新撰組に何か生きがいでもあるんじゃないんですかね?」
颯太は、わざと会話の内容を元に戻した。

「生きがい・・」
「はいv」
「近藤先生でしょうか」
「はい!?」
またまた見当違いな発言をしている総司に、颯太はびっくりした。
「近藤先生好き好き同盟を組んだんですよ、私たち」
「・・・へぇー」
「女子の幸せを捨ててまで、近藤先生に尽くしたいなんて・・・」
どこまでもずれている発言に、颯太はがっくりと肩を落とした。