「タイムスリップ29」
「それで、一体どなたが頭に浮かんだんですか?」
「だからっ! 誰も浮かんでませんてばっ! 第一、私にはそういう人はいませんから!」
顔を真っ赤にして怒鳴る総司に、颯太は余裕の顔でヘラヘラとしている。
「へぇ〜・・・ そこまで言い張るなら別に良いんですけどぉ〜。 1つ言っておくと、セイさんは好きな人がいるそうですよ♪」
「えぇぇぇっ!?」
過敏に反応した総司を、面白そうに颯太は見た。
「どうしたんですか? 気になるんですか?」
「はっ!? ち、違いますよっ! ただ、そんな人がいるだなんて聞いたことないからちょっとびっくりしただけです!」
そりゃー、この目の前にいる人物なのだから、本人が言う訳はないだろうと颯太は思ったが、口には出さない。
「そうですか。 じゃあ相手が誰だが別に気にならないんですね?」
「全然っ!」
総司はプイっと横を向いてしまった。
「そーですか。 じゃあこの話はこれで終わりましょう。 すみませんね、つまらない話をしてしまって」
「・・・・」
颯太は、あっさり話しを打ち切ってしまった。
「あー、お腹空いちゃったなぁ〜。 沖田さん、ご飯食べたいんですけどー。 ここに来てからろくに食事してませんよ、私」
もう江戸時代に来てから半日以上経つが、口にしたのは町で見かけたお菓子だけだった。
総司は何だか納得のいかないような顔で颯太を見たが、何も言わなかった。
突然同じ顔をした2人組みが入ってきた事で、屯所の食堂はざわついた。
「沖田さん・・ ものすごく注目浴びてるんですけど・・・」
「そりゃそうでしょう。 同じ顔してるんですから」
総司は、颯太を外に連れ出し食事に連れて行こうかとも考えたが、巡察で疲れていた為屯所で夕餉を食べさせる事にした。
隊士達の反応は予想通りのものだった。
「そこに座ってて下さい。 食事持ってきてあげますから」
そういうと、総司はどこかへ行ってしまった。
1人残された颯太は、隊士達の好奇の目に晒されていた。
「あの人沖田先生の兄弟か?」
「双子じゃねぇか? 似すぎてるぜ」
ひそひそと颯太の事を噂している声が聞こえる。
い辛い・・・ なんてものじゃない。
颯太は、下を向いて小さくなって総司を待った。
「どうぞ。 口に合うかどうかは分かりませんけど」
総司は、颯太の分の食事も運んできてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
お腹が空きまくっていた颯太は、がっついた。
「・・・ちょっと颯太さん。 そんなにがつがつ食べたら、周りの隊士達に変に思われるじゃないですか。 ちょっとは一緒にいる私の事も考えてくださいよ」
「ふみまへん! らっておいひんだもん」
口の中に入れたまま話す颯太に、総司は呆れた顔になった。
食事の内容は、自分のいる時代に比べれば質素なものだった。
しかし、颯太はとても美味しく感じた。
違う時代の食事だから、余計美味しく感じるのか。
「食事が終わったら法眼のところに送りますから」
「えっ!?」
颯太は驚いて総司を見た。
「そりゃーそうでしょう! こんな所に泊まるつもりですか?」
・・・・確かにそれは困る。
「お里さんの所にお願いすることも考えましたけど、あなたが変な気を起こさないとも限りませんからね。 やっぱり法眼にお願いするのが1番でしょう」
「お里さんて?」
「神谷さんの妾ですよ」
「ぶほっ!」
「わーっ!! あなた何するんですか!!」
颯太はあまりに驚いて吹き出してしまった。
「だっ だっ だってっ! 妾って! あの人っ」
そこまで言った所で、総司が思いっきり颯太を睨め付けた。
「!!」
そうだった。
こんな所で発言するべきではなかった。
「それ以上言いますか?」
その問いに、颯太は思いっきり首を横に振った。
「とにかく、あなたの状況を理解して受け入れてくれる人は法眼くらいでしょうから、法眼にお願いします」
「分かりました」
心なしか落ち込み気味になった颯太は、それでも食べる事はやめなかった。
食事を終えた2人は、提灯を持ち屯所を後にした。
「夜は危険ですから気をつけて下さいね。 いつ何時襲われるとも限りませんから」
平然と言う総司に、颯太は青くなりながら総司にぴったりとくっついた。
「ちょっと何するんですかっ!」
突然腕に絡まってきた颯太に驚いて、思わず叫んでしまった。
「だってそんな事言われたら怖いじゃないですかぁ!」
泣きそうな顔で訴える颯太に、総司はため息をついた。
「もし襲われたら、すぐに逃げて下さいね。 あなたを守りながら1人で戦うのは不利になりますから」
「うぅっ 分かりました・・」
「そう言えば神谷さんの思い人の話ですけど・・・」
「えっ?」
「本当にそんな人いるんですか?」
総司の顔を見ると、暗闇の中でも真っ赤になっているのが分かる。
「ふふふっ やっぱり気になるんですか?」
「そうじゃないですっ! でももしそんな人がいるのなら、早く相手の人に思いを告げて娶ってもらうのが良いのではないかと思ったんです」
「はぁっ!?」
この男、本気で言っているのだろうか。
「だって、神谷さんには幸せになって欲しいんですもん」
この男の心が全く分からなくなってしまった。
セイの事が好きなのは一目瞭然なのに、何故こんな事が言えるのだろうか。
「沖田さんは、セイさんが他の男の元に嫁ぐ事をなんとも思わないんですか?」
「そりゃー、隊からいなくなるのは淋しいです。 でもそれ以上に彼女に幸せになってもらいたいんです」
心なしか悲哀をこめた目でそう語る総司を、颯太は何だか可哀想に思えてきた。
この男は、どれほど不器用なのだろうか。
もちろん瀬奈の件で、自分も不器用で何も出来なかったのは痛感している。
セイがいなければ、元さやには戻れなかっただろう。
しかし総司に関しては、自分から何も行動を起こそうと思わないばかりか、どうして良いのかも全くわかっていないのだろうと颯太は感じた。
「もし・・・ もしですよ? セイさんの好きな人が、沖田さんだったらどうしますか?」
颯太が言った瞬間、総司はビクっと体を震わせこわばった顔で颯太を見た。
「えっ?」
「い、いや、だからもしそうだったらって話ですよ!!」
「それは絶対にないと思います」
「どうしてですか?」
「根拠はありませんけど。 でもそれはないですよ。 もし万が一そうだったとしても、私にはあの子を幸せにしてあげることは出来ませんからね」
きっぱりと、そう言い切る総司に、颯太は何も言えなくなった。
「ひょっとして、神谷さんの好きな人って新撰組の中にいるんですか?」
どきっ
「え・・・ いや〜、どうなんでしょう」
何と答えて良いのか分からず、颯太は何とかごまかそうとした。
「斉藤さんですか? もしかすると中村さん? いや、でもそれはないかな。 意表をついて土方さんとか? でもあの人の女癖の悪さと言ったら・・・ お勧めできませんね。 近藤先生かしら。 近藤先生なら、神谷さんの事娶ることは出来なくても幸せにしてあげられると思うんですけどねー・・」
勝手にどんどん想像を膨らませる総司を、颯太は呆気に取られてみていた。
「誰でしょうか? 私としては、斉藤さんが1番有力な線だと思うのですが」
「・・・・。」
颯太は、もうどうにでもしてというような顔をして首を横に振った。
「えー、違うのですか?」
ちょっと残念そうに総司が言ったその時。
「新撰組の沖田だな!」
暗闇から突然声がした。
声のした方を見ると、刀を持った男が3人ほど立っていた。
突然総司から殺気が吹き出る。
「颯太さんっ! 逃げなさい!」
先ほどまでの総司からは想像出来ない表情で、颯太を見ないまま刀を抜いた。
颯太は、突然の事にどうして良いか分からずその場に立ち尽くした。