「タイムスリップ26」
「うわぁっ!! 本物だぁ!!」
颯太は、土方に隊服を借り羽織ってみた。
「やっぱりお土産やさんで売ってたのとは違うなぁ!」
「何だ、お前のいる時代ではこんなものが土産物屋に並んでるのか」
土方は嬉しそうに訪ねる。
「はい。 修学旅行で京都に行きましたが、清水寺にあるお土産屋さんには沢山ありましたよ!」
その様子を、総司は面白くなさそうに見ていた。
「颯太さん。 ちょっとはしゃぎすぎではないですか? 神谷さんも戻ってきていないのに」
「あっ、沖田さん! これで写真撮ってもらえませんか!」
と、総司に携帯を差し出した。
パシッ
総司は、その手を振り払った。
「あ・・・」
颯太は、落ちた携帯を目で追った。
「すみませんが、私はこれから巡察がありますので。」
「えっ」
「それでは」
総司は颯太を一瞥し、土方の部屋を出て行ってしまった。
少しはしゃぎすぎてしまったかも知れない・・・
颯太は、総司が出て行った襖をじっと見ながら立ち尽くした。
「気にすんな。 あいつは神谷がいなくなってから妙に機嫌が悪いんだ。 稽古中も1番隊が苦労してるぜ」
土方は鼻で笑って颯太を見た。
「・・ありがとうございます」
優しい人だ・・
颯太は、土方の優しさに感動していた。
鬼の副長というのは間違いなのではないか?
土方と会ってから、恐怖を感じたのは最初だけだった。
その後は妙に自分に対して優しくしてくれる。
沖田総司の生まれ変わりだからなのだろうか。
「巡察に出たら、半日は帰ってこねぇだろう。 その間やる事なければ屯所でも見回ってくるといい」
「えっ! 良いんですか!?」
「ただし、屯所の外には出るなよ。 この京でその顔で出歩いてみろ。 総司と間違われて襲われかねんからな」
土方は意地悪そうに笑って総司を見た。
「・・・分かりました」
そうだ。
さっきから自分は何をうかれていたのだろう。
ここは幕末の京都だ。
いくら歴史にうといとは言え、平成の時代からは比べ物にならないくらいここは危険なところだという事くらい分かる。
それに、沖田総司と瓜二つという事は、刺し違えられないとも限らない。
「ではちょっと見学に行かせて頂きます」
力なくそう言うと、颯太は土方の部屋を出てみた。
「広いなぁ・・・」
西本願寺は、驚くほど広かった。
ここには初めて来た・・・と思う。
京都へは修学旅行以来来ていないので、初めてなのかどうかあまり記憶にない。
と言っても、ここは自分が行った10年前よりも遥か昔の140年前の京都。
自分で考えていても、何だか訳が分からなくなってきた。
「沖田さんか?」
突然声をかけられた。
振り返ってみると、月代の男が立っていた。
「こ、こんにちはっ」
取り合えず、颯太は挨拶をしてみた。
「髪を切ったのか?」
男は、颯太を上から下までじろじろ見ている。
どうして良いか分からず、颯太はただ愛想笑いを浮かべていた。
「・・・神谷がいなくなっておかしくなったか」
分かり辛いが、男の顔は微妙に悲しげな表情になった。
「えぇと・・・」
「そういえば、1番隊はこの時間巡察ではなかったか?」
「そのぉ・・・」
このままだと沖田総司がおかしい人だと思われてしまう。
何とかごまかそうとするが、この人物が誰か分からない上、何と言ってごまかせばよいのか思いつかない。
「・・・・」
突然男は黙り込んだ。
そして颯太の顔をまじまじと見ている。
冷や汗を流しながら、颯太は男の顔を見ていた。
「御主、沖田さんではないな」
どっきーん
気づかれた。
どうしようっ!
斬られる!
「誰だ?」
静かに男は訪ねる。
「さ・・佐伯颯太と申します」
「ふーん。 何の用でここにいる?」
「えーと・・・ 土方さんに、屯所の中を見学してこいと言われました」
嘘は言っていない。
「そうか。 副長の知り合いか」
「いえ・・・ そういう訳じゃないんですが・・・」
どうせ説明しても信じてもらえないと思うと、何とか別の方法でごまかそうとしてしまう。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何をどう言えば良いのか分からず、沈黙が続く。
しかも空気が思い。
「よぉっ! 斉藤!」
「何してんだ? ・・・と、一緒にいるのは・・・ 総司か?」
突然その場に騒がしい人物達がやってきた。
また増えたっ!
颯太はもう泣きたくなってきた。
屯所内を見物するという事は、当然だが新撰組の隊士達が居るという事だ。
しかも、総司と同じ顔をしているという事で、隊士達から声をかけられないはずがない。
何故もっと早く気づかなかったのか。
颯太はドキドキしながら3人の男に囲まれていた。
「あぁ、原田さんと永倉さんか」
斉藤と呼ばれた男は表情を変えず、やってきた2人組みを見た。
「何だ、総司。 その格好は?」
「髪切ったのか? 見た事ねぇ髪型してやがんな。 それどこできったんだ?」
興味津々に颯太の髪を触ったり服をひっぱったりしている。
「あー、皆集まってどうしたのー?」
更に月代の可愛らしい隊士が走ってやってきた。
「あれ? 総司どうしたの? その格好?」
そういうと、その男も颯太の服を嬉しそうに見ている。
颯太は涙を流しながら、男たちのされるがままになっていた。
「マジかよっ!」
「信じられん・・・」
土方から説明を受けた男たちは、驚いて颯太を見た。
先ほど、颯太を屯所の見学に行かせたは良いものの、やはり1人で行かせたのはまずかったかと思った
土方は、様子を見に外へ出てみた。
すると、案の定斉藤達に囲まれている颯太を見つけた。
そしてそこにいた全員を自分の部屋へ呼び、颯太の事を説明した。
「総司と同じ顔してるのに、総司じゃないんだ?」
藤堂と紹介された男は、颯太の顔をぺしぺし叩きながらまじまじと顔を覗き込んだ。
「平助、やめろ。 怖がってるだろう」
「だって、すっごく総司に似てるよ?」
「いやー、でも本当にそんな事があるのかねぇ?」
「神谷はこいつのいた時代にいるって事だろ? いつこっちに戻ってくるんだ?」
「信じるのか、原田さん」
「俺は深く考えるようには出来てないんでね。 未来から来たと言われれば、そうだと信じるぜ」
原田という男はニヤっと笑いながら斉藤を見た。
斉藤は、ふーっとため息をつくと、目を閉じてしまった。
「総司の生まれ変わりがいるって事は、俺たちの生まれ変わりもいるって事じゃねぇか?」
「おっ! そうだな!」
「わー、すごーい! 面白ーい! ねね、俺たちと同じ顔した人っていないの?」
盛り上がっている男たちに、颯太は圧倒されて言葉を発する事が出来ない。
「それにしても、何で神谷の生まれ変わりは女なんだ?」
「やっぱ例の病気が原因で・・?」
「でもそんなの生まれ変わっても影響するもんなのか?」
「いやー、でも神谷くらい可愛かったら女になっても納得だよなー」
「うんうん」
颯太そっちのけでどんどん盛り上がっていく3人に、颯太はどうして良いか分からず土方を見た。
しかし、土方は自分では無理だと言わんばかりに、顔を横に振った。
3人の話はまだ続いている。
その横では、斉藤が瞑想に入っている。
颯太は、居心地が悪そうにその場にいる男たちを見渡していた。
きっと、自分はとんでもないところに来てしまったのだ。
恐るべし新撰組・・・
やっとその事に気がついた。