「タイムスリップ23」
坊主の男は、驚いた表情で颯太を見た。
「沖田? ・・・じゃあおめぇは誰だ?」
「だ、だからさっきから沖田じゃないって言ってるじゃないですかぁ」
颯太は泣きそうになりながら訴えた。
颯太は内心ドキドキしていた。
いくら自分が沖田総司の生まれ変わり(かも知れない)と言っても、新撰組の沖田と言えば、人斬りの沖田として有名だったのだ。
何か粗相をすると、斬られるかも知れない。
「すーみーまーせぇぇぇぇん、ほうげぇーん」
情けなく間延びした声が、再度聞こえた。
「うるせぇ! 今行くっ!」
と玄関の方へ向かって叫ぶと、颯太に向き直った。
「良いか、そこで待ってろよ」
そう言い残すと、部屋を出て行った。
颯太は1人であたふたしていた。
何とか逃げる事は出来ないか。
障子を開けてみると、ここは2階だった。
飛び降りるか。 現代と違って、この時代の2階は思ったより低い。
運動神経なら悪くないし、落ちても軽い怪我で済むだろう。
そう思い窓枠に足をかけた。
「てめぇ、何逃げようとしてやがんだ」
怒気を含んだ声が背後から聞こえた。
恐る恐る振り返ると、さっきの男が思ったよりも早く戻ってきていた。
「う・・・ す、すみません」
颯太は泣きそうな顔で、足を下ろしその場に正座した。
「沖田、おめぇも入れ。」
そう言われて、長身の男が中に入ってきた。
互いに顔を合わせて、あまりに似ている顔に2人共が驚いている。
「え・・? 何ですか、あなた・・・」
沖田総司と思われる男は、あまりにびっくりして立ち尽くしている。
颯太も、初めて見る歴史上の人物に緊張している。
「あ、さ、佐伯颯太でごじゃいます」
思わず噛んでしまった・・
「沖田、お前も座れ。」
坊主の男に促され、やっと沖田はその場に座った。
しかし、まだ沖田総司は颯太を見ている。
「それで? さっきおめぇセイの事を知っていたな」
坊主の男が颯太に話を切り出した。
その言葉に敏感に沖田は反応する。
「本当ですかっ!? 神谷さんを知っているのですか!」
「神谷さん・・・ やっぱりセイさんの事だったんですね。」
颯太は、最初にセイが名乗っていた神谷清三郎という名前を思い出した。
沖田は、颯太の両肩を掴んだ。
「それでっ! 神谷さんはどこに居るんですか!? 無事なんでしょう??」
「わっ 痛いっ」
「あなた神谷さんに何かしたんですかっ!!」
「やめろっ! 沖田!!」
今にも切りかからんばかりの勢いで颯太に迫る沖田に、坊主の男が仲裁に入った。
「いいか、セイがいなくなって心配なのは分かるが、まずは話を聞け。 お前は今感情的になりすぎている。 黙ってそこで聞いてろ。」
そして男は颯太に向き直った。
「俺は松本良順だ。 医者をしている。 お前は佐伯とか言ったな。 どっから来たんだ?」
松本と名乗った男は、落ち着いて颯太に訪ねた。
「さっきも言いましたけど・・・ 私は違う時代から来ました。 信じてもらえるかどうか分かりませんが、この時代から約150年くらい先の時代です。」
「は? あなた自分が何を言っているのか分かっているのですか?」
沖田は呆れた表情で颯太を見ている。
「うぅっ その反応・・ いや、気持ちは良く分かりますが、本当なんです。」
颯太は、自分がセイに対してした態度と同じ態度を沖田にされ、とっても悲しい気分になった。
「それで? 続きを話せ」
松本は楽しそうに話を聞いている。
颯太は、セイが自分が捨てた指輪が原因でセイも自分の時代に来たことを話した。
そして、自分もその指輪を触った事でここに来てしまったのだという事も。
2人は黙って話しを聞いていたが、話終わると松本が豪快に笑った。
「面白れぇじゃねぇかっ!」
「えっ!!」
「法眼! 今の話を信じるんですかっ!」
沖田は驚いて立ち上がった。
「何だ、沖田。 信じねぇのか?」
松本はにやにやと笑いながら沖田を見た。
「だってある訳ないじゃないですかっ! 未来とか過去とか! 絶対この人頭がおかしいんですって!」
うぅっ・・・ 自分がセイに言った事と同じ事を言われてる・・・
颯太は更に落ち込んだ。
「で、神谷さんをどこに隠したんですっ!」
沖田は颯太を睨んだ。
「隠したって・・ 私はそんな事してませんよっ! それどころか、今は私がこんなところに来ちゃってどうしたら良いか分からない状況なんですからっ!」
颯太は必死だった。
「それに、今私がこっちに来ちゃった事で、セイさんをここに連れ戻す事も私には出来ないんですよっ!
本当なんですっ! 信じてくださいよぅっ」
それを聞いていた沖田は、はぁっとため息をついた。
颯太の目を見て、嘘を言っているわけではないと分かった沖田は、それ以上颯太を問い詰めるのを止めた。
しかし、未来とか過去とかを信じたわけでは決してない。
ただ、これ以上この男を問い詰めても無理だと思っただけなのだ。
それに、自分と顔も声もしゃべり方も同じ男に何となく親近感が湧き始めていた。
「なんにしろ、神谷さんは無事なんですね?」
「無事・・・って言えば無事です。 どっちかというと私のが無事ではない状況なんですけど・・・」
「おい、お前!」
それまで黙ってにやにやしながら2人のやり取りをしながら見ていた松本がいきなり口を開いた。
「はっはい、私ですか?」
「セイが無事だという事は分かった。 お前がいた時代というのはどんな時代なんだ?」
元々面白い事好きな松本は、颯太のいる時代がどんなところなのかさっきから聞きたくてうずうずしていたのだ。
「ほ、法眼っ! 今そんな事言っている場合ですかっ! まずは神谷さんが帰って来る事が重要でしょう!」
「良いじゃねぇか。 それに、まずはこいつのいる時代の話を聞かねぇ事にはセイの状況も分かんねぇだろ」
さっきから、この沖田という男は神谷さん神谷さんとヤケにうるさいなぁと颯太は思った。
心配なのはもちろん分かるが、それだけじゃなさそうな感じがする。
さっきこの松本という男が、セイがいなくなってからの沖田は憔悴しきっていると言っていた。
颯太は、セイが沖田のことを想っている事をセイの口から聞いていた。
もしかして、沖田総司もセイさんの事を・・・?
颯太は自分の状況を心配しながらも、何となく沖田総司という人間を探ってみたくなった。