ただ一筋の想いを
こんなはずではなかったのに・・
生涯不犯の誓いを立て、一生恋愛などしないと決めていたのに。
「沖田先生!!!」
1人非番を団子を食べながら過ごしていた総司の元に、どすどすと足音を立ててセイが怒鳴り込んできた。
「な、なんですか、神谷さん」
総司はびっくりして飲み込もうとした団子を喉につまらせそうになった。
「今日こそははっきり教えて頂きます!」
セイは総司を見下ろしながら、怒気を含んだ声で怒鳴った。
「何のことでしょうか? 私は用事があるのですみませんがまた今度・・」
と、総司は団子を包み、その場を立ち上がった。
「待ってください!」
セイは慌てて総司の前に立ち、総司の腕を掴んだ。
「な、何するんですかぁ! 離してくださいよぅ」
「何故私の事を避けるんですか!!!!」
セイは目に涙を溜めながら叫んだ。
総司はセイの涙にギクっとし、セイから顔を逸らした。
セイは総司を放すまいと、必死に腕を掴んでいる。
「避けてませんけど・・」
声ちっちゃ!
「避けてます! 隊務以外で決して私の顔も見ようとしないし!」
そう、総司はセイを避けていた。
セイの事を想っていたことに気づいてからというもの、セイにどう接していいのか分からない。
食事の時は自分の両隣に別の隊士を座らせ、セイが隣に来れないようにし、非番になるとセイに見つからない
うちに屯所から出て行くか、土方の部屋に隠れるようになった。
「今日こそは、私の事を避けている理由を聞かせて頂きます。 私、先生に何かしましたか!?」
・・・・なんですか、その顔を高潮させて涙を溜めて上目遣いで私の事を見るその目は!!
私の事を試してるんですかっ!
も、もう無理ですよう、この状況でこれ以上一緒にいるのは!
この気持ちに気づいてから神谷さんと一緒にいると触れたくてしかたがないんですよっ!
理性を保つのに精一杯なんですからっ!!
あぁぁぁぁぁっっ
涙が落ちちゃったっ!
これ以上見てられません!
抱きしめてしまいそうになるじゃないですかっ!
「・・・・・神谷さん」
総司は理性を保ち、静かにセイに話しかけた。
「はいっ!」
「とにかく、その手を離してもらえますか」
「嫌ですっ! 離すと逃げるおつもりでしょう!」
ちっ 気づかれた・・
「逃げません。 逃げませんから離してください。」
「嫌ですっ!」
もうほんとこれ以上無理なんですってばっ! 神谷さん気づいてくださいよぅ!
いやいや、気づかないで下さい!
どうしたら分かってくれるんでしょう、この子は。
「私の事が嫌いになってしまわれたのですか?」
「ききき嫌いなわけないじゃないですか! むしろその逆・・・」
あわわわっ
うっかり口走りそうになり、慌てて口を手で押さえる。
「嫌いになった訳じゃないのに、避けるのはどうしてですか??」
セイは、掴んでいた総司の腕を、抱きかかえた。
「あぁぁぁぁぁっ」
情けない声を出して、総司はセイを振りほどこうとした。
しかし、セイは必死に総司にしがみつく。
「嫌いじゃないなら、もう避けないで下さい!」
「わわわわかりました! だから、1度離れてください! お願いします!」
「ほんとに?」
セイは総司を見上げた。
(うぅっ 可愛い・・・)
潤んだ瞳で見上げてくるセイに、総司はくらくらした。
「ほんとうです・・・ だから、もう・・・ お願いします」
総司は泣きそうになりながら懇願した。
セイは総司の言葉を信じたのか、腕を離した。
「じゃあ沖田先生。 今から稽古しましょう♪」
「えぇぇぇぇっ」
「だって、最近全然神谷流の稽古してくれなかったじゃないですかぁ。 ね♪」
と、可愛く首を傾けながら微笑む。
その笑顔でお願いされると断れない。
「・・・はい」
2人はいつもの場所へ向かう事にした。
セイは久しぶりの2人きりの稽古に、張り切っていた。
一方、総司はうつむき加減で、終始1人でぶつぶつ言いながら歩いている。
「理性を保てますように 理性を保てますように 理性を保てますように・・・・」
「先生、さっきから何ぶつぶつ言ってらっしゃるんですか?」
セイはいつものように総司の手をつないだ。
その瞬間、総司の心臓は止まりそうになった。
「キョウハ テンキガ イイデスネ」
総司は緊張のあまり、棒読みになってしまった。
「そうですね! 気持ち良いですね! あ、稽古が終わったら葛きり食べに行きましょうね♪」
「ソウデスネ・・・」
総司は心の中で泣いていた。
稽古中総司がうっかり本気で突いてしまいセイが倒れる度に、セイの稽古着の襟元が緩んでいく。
目のやり場に困り集中できない。
今までこんな事1度もなかったのに・・
煩悩ばかりが総司の頭の中を占めていく。
こんな事になるなら恋など知らなければ良かった・・・
そう思っても、気づいてしまったものはどうしようもない。
これ以上セイの事を避ける訳にもいかない。
この状況に慣れるしかないのだ。
「今日の先生やっぱり変ですよ?」
突然顔を覗き込まれ、総司は1mほど後ずさりした。
やっぱり慣れる事は出来ないようだ。
「あーっ! 私が稽古の後葛きり食べに行きましょうなんて言ったから、葛きりの事考えてたんでしょう?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
さすがの元野暮天王子も、セイの野暮天ぶりには呆れてしまった。
「そうですね(涙)」
やっぱりそう言うしかない。
「じゃあ今日は早めに切り上げて葛きり行きましょう!」
総司はその意見に大賛成だった。
こんなところで2人きりでいるより、町に出たほうがよっぽど理性が保てる。
(はぁ〜・・・ 本当にこの子と一緒にいるといろんな意味で疲れる・・)
今後の事を考えると、頭が痛い総司だった。
果たして、総司の想いはセイに伝わるのか・・・
きっと、伝わらないだろう。。
覚醒した総司と、野暮天女王の戦いは続くのだった。・