袖すり合うも他生の縁
「うわぁっ やっぱすっごい混んでるね」
今日は元旦。
これから始まる大学受験合格を祈願して、富永セイはクラスメイトの友人達と初詣に来た。
「セイ、大丈夫? 髪乱れてるけど」
せっかく振袖を着て髪も美容室でセットしたのに、この混雑で既にボロボロになってしまっている。
「もう、やだっ! 境内まで一体何時間かかるのよっ!」
セイは人の多さにイライラして怒鳴る。
「この人混みの中頑張って参拝するからご利益があるんだよ、きっと」
恐ろしくポジティブな性格の麻衣子が、飄々と言う。
「ほらっ 私がはぐれないように手つないでてあげるから♪」
姉御肌の純がセイの手を握る。
「もーっ! 子供扱いしないでよっ!!」
30分後、無事参拝を終えたセイ達は、おみくじを引こうということになった。
「何かこれで凶が出たら、受験落ちそうじゃない?」
「いいのいいの、こういうのは気持ちの持ちようだから」
皆次々とおみくじを引いていく。
セイも、ドキドキしながら引いたおみくじを開いた。
【大吉】
「わーっ! 私大吉だったよ!」
セイが嬉しそうに言うと、5人いるメンバー全員が大吉だった。
「こういうのは大体大吉が多く入ってるんだよね」
「なーんだ。 でも嬉しくない?」
「思わず何かいてあるか真剣に読んじゃうよね」
一同おみくじの内容を読み始めた。
【願い事 意思を強く持てば、人から愛され必ず叶う。】
(わーっ 良いこと書いてあるじゃん! えーと、次は?)
【待人 来る。】
(ん? 待人来る??)
「セイ、どうだった?」
「なんか良いことばっか書いてある。 当たるのかな、これ」
「なになに? 待人 来るだって! セイにもやっと彼氏が出来るのかぁ!」
他の皆は彼氏がいるのに、セイには未だ彼氏がいない。
高校に入って3人と付き合ってはみたものの、何だか本気で好きになれなくてすぐに別れてしまった。
きっと自分は恋愛には向かない人間なんだと半分諦めてしまっている。
「えー、今は彼氏よりも受験でしょ。」
「セイは可愛いしモテるのに、本人に自覚ないのが痛いよね」
「そうそう、B組の丸山もセイの事好きだったのに、彼氏いらないとか言って振ったんでしょ?」
「えーーーっ! 丸山くん振ったの!? もったいないっ!」
皆がセイの恋愛話で盛り上がっている中、セイははーっとため息をついた。
「もうその話は良いよ。 興味ないんだからしょうがないじゃん。 それよりもさ、せっかく振袖着てるんだし皆で写真撮ろうよ。」
「あっ 良いねぇ! あの池の前とかどう?」
そう言う純の言葉に、皆賛成して移動し始めた。
「いたっ」
セイが振り返った瞬間、誰かとぶつかった。
「すっすみません、ボーっとしててっ」
「いえ、こちらこそ。 ちゃんと前見てませんでした。」
大学生くらいの背の高い男性が、セイを見下ろして優しく微笑んだ。
「はい、落としましたよ」
と、男性はぶつかった時にセイが落としたおみくじを拾ってセイに渡してくれた。
「ありがとうございます」
おみくじを受け取ったとき軽く手が触れた。
その瞬間、とても懐かしい気持ちがした。
「じゃあ、気をつけて」
男性は近くで待っていた友人らしき人達のほうへ行ってしまった。
(何だろ、今すごく懐かしい気持ちがした。 気のせいかな。)
「セイーーーっ 早くっ!」
既に通行人にカメラマンを頼んだクラスメイト達は、もたもたしているセイを呼ぶ。
「ごめん! 今行くっ!」
2月 久しぶりの登校日に、大学の合格証書を持って軽い足取りで学校へ行った。
「セイっ! おはよう」
教室に入ると、純がいち早く気づいてセイに声を掛けてきた。
「おはよーっ 寒いねっ」
「セイ、大学受かったんだって?? おめでとーっ」
「そう言う純ちゃんも受かったんでしょ? おめでと♪」
「そうそう、初詣の時撮った写真プリントアウトしたから持って来たよ」
と言って、純はセイが写っている写真を何枚か取り出しセイに渡した。
「ありがとうっ! ・・・うっ やっぱ私髪乱れてる・・・」
髪は乱れて着物も少し着崩れている。
でも高校生活最後のお正月に、クラスメイト達と撮った写真はすごく嬉しかった。
「ん?」
「どうしたの?」
「この人・・・」
セイ達が写っている写真の端に、見覚えのある人が写っていた。
「おみくじ引いた後ぶつかった人が写ってる」
「何だ、そんなのあの場所で撮ってたんだから、そこにいたなら写ってるでしょ。
なに? もしかして気になっちゃったとか?」
純はニヤニヤしながらセイを見た。
「そ、そんなんじゃないよ。 ただ、何かこの人懐かしい感じがしただけで・・」
写真の隅に小さく写っている男性を見た。
「またぁ、一目ぼれぇ?」
「ち、違うよ! もうっ 純たら嫌いっ」
セイはぷぅと頬を膨らませながら純をにらんだ。
「セイったら本当にからかうと面白いよね。 もうっ 可愛いんだからっ」
セイの膨らませた頬を指でつついた。
「この写真もらっていいの?」
「もちろんっ どうぞその写真で運命の彼を探して下さいな」
「純ちゃんたらしつこいっ!」
純の腕をバシッと叩きながら、怒鳴るセイだったが、このやり取りももう少しで出来なくなるんだなぁと思うと
少し淋しくなった。
「純ちゃん、卒業しても友達でいてね」
急にしんみりと言い出したセイに、純は慌てた。
「な、何言ってるのよっ 当たり前でしょっ!」
「何か、私友達とか仲間と別れるのが妙に悲しいんだよね。 何か最期って感じがしちゃって。 小学校の時も中学の時もやっぱりそう思ったんだ。 結局今でも皆友達なんだけど。 どうしてか、そう思っちゃうの。」
「私だって淋しいよ。 今まで毎日会ってた友達と会えなくなっちゃうんだもん。 でも大学に入ればまた新しい友達できるよ?」
「うん、そうなんだけどね。 何かしんみりしちゃったね。 ごめんっ」
セイは明るい顔を無理やり作った。
残りの登校日も終わり、セイは無事高校を卒業した。
「何か大学って色んな人がいるなぁ」
大学に入ったセイは、サークルの勧誘で賑わっている構内を1人で歩いていた。
友達がまだいないセイは、サークルに入って友達を作ろうと思った。
でもあまりにも色んなサークルがありすぎて、何に入って良いのか分からないでいる。
(落語に演劇にクリケット・・ うわっ アニメサークルまである・・ それは無理だな)
色々サークルを見て回って少し疲れたセイは、近くにあったベンチに腰を掛けた。
(うー・・ 全然決まらない。 高校のとき入ってた吹奏楽にしようかな。 オーケストラも良いな)
そう思ってベンチで1人考え込んでいたセイの隣に、誰かが座った。
「サークル決まりました?」
隣に座るなり声を掛けてきた人にびっくりして振り返る。
「あっ」
「え?」
隣に座った男は、初詣の時ぶつかった人だった。
「あなたは・・・」
セイが驚いた顔で男性を見た事に、相手も驚いたようだ。
「え? 私の事知ってるですか? どこかで会った事ありましたっけ?」
どうやらセイの事を覚えていない様子。
「あ、すみません。 今年のお正月の時○○神社でぶつかったの覚えてませんか?」
セイに言われ、相手はんーと考えて、セイをじっとみた。
「あっ! あの時の振袖着てた?」
ようやく思い出したのか、ぽんと手を打って笑った。
「はい、あれ私です」
セイもつられて笑った。
「そうだったんですね。 すごい偶然ですね。 あの時とは雰囲気が違うから分かりませんでしたよ」
ははっと笑って頭をかいた。
「あ、私沖田総司と言います。 この大学の3年生です。 あなたは?」
「富永セイです。 今年入学しました。」
2人は顔を見合わせて笑った。
「そう言えば、サークル決めました?」
「まだ決めてないんです。 どのサークルに入ろうか悩んでて」
総司の顔がぱぁぁぁと明るくなった。
「じゃあN.T.Yサークルに入りませんか?」
「N.T.Y??」
聞いた事のない言葉に、セイが不思議そうな顔をする。
「はい、N=なんでも・T=楽しい事・Y=やります サークルです」
嬉しそうに言う総司の言葉を聞いて、セイは思わず噴出してしまった。
「何ですか、そのサークル!」
「あー、バカにしてますね! すっごい楽しいですよっ! 春はお花見で飲んで、夏はバーベキューして海に行きます。 秋は紅葉見に行って、冬はスノボーに鍋大会に・・・」
「遊んでばっかじゃないですかっ」
セイはお腹を抱えて笑っている。
「だからN.T.Yサークルなんです♪」
得意げに言う総司に、セイは息も出来ない程笑い転げていた。
「じゃあ、神谷さん入部決定って事で♪」
総司の言葉に、笑っていたセイはえ?という顔をした。
「神谷?? 私富永ですよ?」
「あれ? 私何で今神谷って・・・」
「もぅ! いきなり名前間違えないで下さいっ!」
総司の腕を軽く叩く。
「ご、ごめんなさいっ! じゃあ富永さん入部で良いですか?」
期待の篭った顔でセイを見る総司に、セイは微笑んだ。
「はい、しょうがないので入部させていただきます」
「わー! やったー」
「きゃーっ 何するんですかっ」
いきなり抱きついた総司を、セイは思いっきり突き飛ばした。
その反動で総司はベンチから落ちる。
「あぁっ ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「いったぁ〜っ 神谷さん、力強い・・」
また神谷と言った総司に、セイは頬をぷくっと膨らませた。
「また神谷って言った! そんなに神谷って人が良いなら、そういう苗字の人を探してくださいっ!」
と、総司を置いてすたすたと去っていこうとした。
それを慌てて追う。
「ご、ごめんなさいっ! 本当に間違えただけなんです! 富永さん! 待ってくださいよぅ!!」
こうしてセイの楽しい(?)大学生活が始まった。