「ただ今〜」
疲れた顔をした新田が、客先から戻ってきた。
「あぁ、お帰り。 プレゼンどうだった?」
新田を見て、沖田が尋ねた。
「難しいな。 見積もりも出してきたけど、3社くらいに相見積出してるらしくてさ。 そのうちの1社が相当安い金額提示してるだよ。 こっちは金額下げられないから、品質アピールしてきたけどあの反応見る限りだと無理だろうな」
ため息を付きながら、新田が席に着く。
「そう・・ うまくいけばいいな」
「あぁ・・ それはそうと、今日セイに会った?」
新田の言葉に、沖田は内心ドキッとするが、顔には出さない。
「あー・・ お昼にちょっと顔は見たかな」
「何か言ってた?」
「いや・・ すれ違っただけで話はしてないから・・」
思わず沖田は嘘をついてしまった。
「そっか。 様子変じゃなかった?」
「ちょっと顔見ただけだから良くわかんなかったけど・・」
嘘をついている後ろめたさから、新田の顔を見ずに言う。
「ふーーーん・・ 何なんだろうな。 怒ってるって訳でもないみたいだし・・   あ」
新田は立ち上げたパソコンを覗き込んで声をあげた。
沖田はその声に新田を振り返る。

「セイからメールが来てる。 何だよ、携帯に連絡すれば良いのに何で会社のメルアドに連絡して来るんだ?」
「・・・・・さあ」
セイには新田と話せと言ったくせに、いざメールをしていると聞いて心の中にモヤモヤとしたものが広がる。
「話があるから仕事が終わったらリフレッシュルームに来いってよ」
メールを読みながら、沖田に報告する。
「へぇ。 何があったか聞けるんなら良かったんじゃない?」
「まあな。 でも俺今日間違いなく残業だわ。 仕事抜けて行くしかないな」
「・・・・・」
沖田は返事をしなかった。

セイは、一体新田にどうやって話しを切り出すのだろう。
その事を聞いた新田はどういう反応をするのだろうか。
どういう話をするにせよ、セイにはやはり悲しい思いをして欲しくない。
例え自分以外の男とでも、セイには幸せになって欲しい。

「ちょっとタバコ吸いに行くわ。 沖田は?」
「いや、さっき行ってきたから」
「あ、そ。 じゃあ行ってくる」
新田はタバコを掴むと、席を立った。

新田の後姿を見送ると、沖田はふぅっと小さくため息をついた。







「神谷さん、今やってもらってる企画書って今日までに出来る?」
「あ、はい」
後ろからかけられた声に、セイは振り向いて笑顔で答える。
「じゃあ、ごめん。 悪いんだけど、この資料2〜3日中にお願いしても良い?」
同僚の女性から頼まれた仕事を快く引き受ける。

今は忙しい方が良い。
仕事中だけは何も考えなくて済むから。
今何もしないで1人でいると、色んな事を考えてしまう。

ふと時計を見ると、16時を少し過ぎたところだった。

大きく深呼吸すると、仕事を続けようとパソコンに向かった。

「あ」
メールのマークが点灯していた。
セイは誰からのメールなのかすぐに分かりメールを開いた。


『了解。 
ただ今日は残業になる可能性が高いから、19時くらいでも良い?』

良かった・・・。
すぐにセイはメールを送り返した。

幸二と話そうとは思ったが、どうしても2人きりになる勇気が出なかった。
なので、なるべく会社でと思ったのだ。
幸二が了承してくれて良かったと、セイは安堵のため息をついた。





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時雨  9