何故あんな事を言ってしまったのだろう・・

沖田はセイが出て行った後、1人になってからは後悔しきりだった。
セイに言うつもりなど全くなかった。
どんなにセイの事が好きでも、セイが幸二の事を好きな間はただ見守っているつもりだった。
なのに、更にセイの事を傷つけてしまった。
次からどんな顔をして会えば良いのか分からない。
沖田は膝を抱えて頭を埋めた。



家に帰ったセイは、ベッドに倒れるように横になった。
もう何も考えたくない気分だった。
家の電話の留守電ボタンが光っている。
きっと幸二だろう。
携帯は切ってしまっているから、家にかけたのだと思う。
しかし留守電を聞く気にはならなかった。
今日は、昼から幸二と会う約束をしていた。
昨日の現場を見てしまってからは、当然会う気になどなれない。
連絡が取れない事を心配しているだろうか。
そうは思うが、今は声も聞きたくない。
枕を自分に引き寄せ、顔を埋める。

「もうやだ・・」

そう呟くと、また涙が溢れてきた。
先輩として、友人として慕っていた沖田が自分の事を好きだといった。
その事も、セイの心を暗くしていた。
それが本当なら、これまでセイと幸二が一緒にいる場面をあの人はどんな気持ちで見ていたのだろうと考える。
昨日自分が経験した思いを、沖田はずっとしていたのだろうか。

このままだと週末中その事ばかりを考えてしまうと思ったセイは、ゆっくりと起き上がりベッドから降りた。

そうだ、この間買った本を読もう。

先日大量に購入した小説が、まだ封も開けられていない状態で置かれている。
それを手に取り、適当に1冊を取り出した。








「おはようございます」
「あ、神谷さんおはよう〜」
月曜、セイが会社へ行くと既に先輩の真奈美が仕事をしていた。
「早いですね」
セイは、カバンをデスクに置きながら真奈美に話しかけた。
「昨日の夜突然連絡があって、急遽今日の午前中にプレゼン入ったらしいのよ。 その資料作りの為に、7時から来てるんだ」
そう言うと、ため息をついた。
「大変ですねぇ。 私に何かお手伝いできる事あれば何でも言ってくださいね」
「ありがとう。 じゃあもうすぐこれ上がるから、営業部に持って行ってもらっても良いかな? 私まだもう1つ資料作らなきゃいけなくて・・」
営業部 という言葉を聞いて、セイの心臓がドキっと鳴った。
「あ、えぇ、分かりました」
動揺を隠すように、笑顔でそう言うと、PCの電源を入れる。

自分のデスクの上には、先週の金曜に作りかけていたデータが入っているDC-Rが置いてある。
これをCD-Rに落とした後、沖田と出かけたんだ・・
そしてあの現場を見てしまったんだな・・

また考えそうになったセイは、ハッとして頭をブンブン振った。

「神谷さん、じゃあこれお願い出来るかな」
しばらくしてから、真奈美は束にした書類をセイの元へ持ってきた。
「あ、はい。 誰に渡せば良いですか?」
「あなたの彼氏にお願いね」
「え」
「え じゃないでしょう。 新田くんに渡してくれる?」
ふふっと笑ってセイに書類を手渡した。
「・・・分かりました」
営業と言っても、この会社には30人以上の営業マンがいる。
まさかそんなピンポイントにくるとは思わず、セイはたじろいだ。
しかし今更断る訳にもいかず、仕方なく営業部の部屋へ向かった。


そっと中を覗いてみると、既に社員たちは慌しく仕事をしていた。
ぐるっと見渡すが、幸二はいない。

適当にその辺にいる人に渡して帰ろうとしたその時。
部屋の奥にあるホワイトボードの前に、沖田が誰かと話しているのが目に入った。
思わず沖田に見つかる前に廊下に隠れた。

何をやっているのだろうか、私は。

とにかくさっさと誰かに書類を渡そうと、もう1度部屋を覗こうとした。

「セイ!」
突然後ろから声をかけられて、驚いて振り返った。
「・・・・・幸二」
自分の彼氏である新田幸二が、怒った表情で立っていた。

「週末何やってたんだよ」
明らかに不満のこもる声で、そう尋ねてくる。
「・・・」
何と答えて良いか分からず、セイは下を向いた。
「約束したのに電話にも出ねえし」
「・・・ごめん」
とにかくこの場から早く立ち去りたいセイは、謝って書類を幸二に渡した。
「これ、真奈美さんから預かってきたの。 渡したから。 じゃあっ」
そういってその場を後にしようとしたセイの腕を、幸二が掴んだ。
「いたっ」
「お前何逃げてんだよっ! 話はまだ終わってねぇだろう」
その声に、営業部の部屋の中の人間が数人こちらを振り返った。
セイは視線に気づき中を見ると、沖田もこちらを見ていた。

目が合った。

セイは、幸二の手を振り払い、その場を走って逃げた。
「おい、セイっ!」
叫ぶ声が聞こえるが、セイは構わず走った。




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時雨  6