どれ程こうして沖田の腕に抱かれていたのだろうか。
セイは徐々に気持ちが落ち着いて来たのが分かった。
ふと我に返り、急に恥ずかしくなったセイは沖田の腕から離れようとした。
それに気づいたのか、沖田が腕を緩めた。
「すみません、沖田さん。 私取り乱してしまって」
気恥ずかしくて、セイは沖田と顔を合わせられずに下を向いたまま言った。
「神谷さん」
沖田の両腕は、まだセイの腰を抱いたままだった。
「は、はい」
呼ばれて顔を上げると、そこには自分をじっと真剣な眼差しで見つめる沖田の顔があった。
あまりに真っ直ぐに自分を見つめる沖田に、セイは目が離せなくなった。
「私は、あなたの事が好きです」
「え?」
沖田の言葉に、セイは身を硬くした。
突然すぎて、何を言われているのか分からない。
「今こんな事いうのは、ずるいのは分かっています。 でもあなたが入社してきてからずっと好きだったんです」
そう言うと、セイの頬を優しくなでた。
セイはただその場に固まったまま動けないでいる。
「誰と付き合っていても、私の中にはあなたしかいませんでした。 どうしても諦められませんでした」
「・・・・う・・・そ」
やっと出た言葉だった。
「いいえ、嘘ではありません。 だから、あなたにだけはそんな顔をしていて欲しくないのです。 」
「沖田・・さん・・?」
どうして良いか分からず、セイは少し身をよじり沖田から離れようとした。
しかし、それを許さず腰を抱く手に力を入れた。
「は、離してください・・」
何となく沖田に対して恐怖感を抱いたセイは、沖田を見上げてよわよわしく言った。
しかし沖田は腕を離そうとしない。
そして、セイを愛おしそうな眼差しで見つめた。
「神谷さん。 私では・・・ダメですか」
瞬間、セイは沖田を突き飛ばすと、荷物を掴んで立ち上がった。
「ご、ごめんなさい! どうもありがとうございました!」
そう言うと、セイは部屋を飛び出した。
部屋を出たセイは、闇雲に走った。
今のは一体何?
セイの頭の中は混乱している。
あんなの沖田さんじゃない。
いつもの優しい沖田さんじゃなかった。
何か・・ すごく怖かった。
しばらく走ったセイは、徐々に速度を緩めのろのろと歩き出した。
はぁはぁと息切れしている。
顔が熱い・・
火照っている顔をセイは手のひらで包むように触った。
男の人の顔してた・・・
先ほどの事が頭の中をぐるぐると回っている。
しかし、何故あんな事になったのかセイには何度考えても分からなかった。
ブーッブーッ
カバンの中で、携帯のバイブが鳴っていることに気づいた。
セイは取り出す気力もなくそのままにしていた。
しかし、携帯は鳴り続けている。
仕方なく携帯を取り出した。
ディスプレイに映し出されている名前は、彼氏である幸二だった。
携帯を開くと、鳴っている携帯を切った。
何故か涙があふれてくる。
幸二の裏切りと沖田の突然の告白に、セイはどうして言いか分からなくなった。
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時雨 5