「美味しいっ! 神谷さんて、仕事が出来る上に料理も上手なんですねぇ」
セイの作ったご飯を一口食べて、沖田は感嘆の声を上げた。
「全然そんな事ないですよ。 普通の料理しか作れませんよ」
照れたように笑いながら、そう答える。
沖田は、セイの言葉にふふっと笑うと、次々とおかずを平らげていった。
「私がここに泊まってしまったのが彼女さんにバレたら大変ですね」
「は?」
突然セイが発した言葉に、沖田は訳が分からず聞き返した。
「え、だって誤解されちゃいますよ。 何だか申し訳ない事しちゃったなぁ」
「何の話です?」
ますます訳が分からず、沖田は眉間に皺を寄せた。
「沖田さんの彼女さんの話ですよ」
可愛く首をかしげながら、セイは微笑んだ。
「私には彼女なんていませんよ。 前の彼女と別れてから、もう数年経ってますしね」
「えっ? だって冷蔵庫の中食材沢山詰まってましたよ! それに、さっき洗面所使わせて頂いた時、歯ブラシ2本置いてあったし・・」
朝食を作ってくれと言い出した沖田の申し出に、何を作ろうかと冷蔵庫の中を空けてみた。
どうせ男の1人暮らしだし、大したものはないだろうと期待していなかったのだが、以外にも普通に詰まっていた。
先にシャワーでも浴びてスッキリしてはどうですか?との沖田の申し出に、セイは申し訳なく思いながらも使わせてもらった。
すると、洗面所には女性用の歯ブラシや、洗顔など置かれていた。
それを見て、彼女がいるのに申し訳ないなとセイは思っていたのだ。
「あぁ、そういう事ですか」
やっと納得がいったという顔をして、沖田は笑った。
「違うんですか?」
「あれは、この間母親が私の生活を心配して様子を見に来たときに買っておいていったものですよ。 帰りが遅くなってしまったので、ここに泊まっていったんです」
「そうだったんですか」
「えぇ、だからさっきも言ったように彼女なんていないので安心してください」
食事を終え、目の前の食器を重ねているセイに沖田はそう言った。
「良かった。 でも、沖田さんみたいにいい人に彼女がいないなんて、世の中の女性は見る目がないんですね」
「大体いつも”いい人”で終わってしまうんですけどね。 あ、洗い物は私がやりますよ!」
食器を運ぼうとしたセイを沖田は止めようと立ち上がった。
「いえ、これくらいさせて下さい。 泊めていただいたお礼ですから」
「じゃあ私も手伝いますね」
そういうと、2人はキッチンへ向かいセイが洗った食器を沖田が拭くことになった。
「じゃあ、これ以上いてはご迷惑だと思いますので、私は失礼しますね」
身支度を軽く終えたセイは、沖田にそういった。
「全然迷惑なんかじゃないですよ。 どうせ何も予定なんてなかったし」
「あははっ せっかくのお休みですし、私がいてはやりたい事も出来ないでしょう」
「そんなっ! あ、もし良かったら映画のDVDでも見ませんか? 休みに見ようと思って借りてきたのがあるんです。 アクションとか嫌いですか?」
何とかもう少しセイと一緒にいたい。
その思いから、沖田は必死でこの場に留めようとする。
「アクションは好きですけど・・」
セイはそう言いながら、チラっと時計を見た。
「あ、ごめんなさい! 神谷さんにだって用事はありますもんね。 無理に引き止めるつもりはなかったんです」
「いえ、そんなんじゃ・・・」
そう言うと、セイは少し考えるそぶりをした。
「そうですね。 沖田さんがご迷惑じゃなければ、もう少しお邪魔させていただきます」
セイの言葉に、沖田はホッとした表情になった。
沖田が借りてきたDVDは、数年前にヒットした映画だった。
見始めてすぐ、映画にのめりこんでしまい2人共話もせず映画に見入ってしまった。
映画もそろそろ架橋に入るかというところで、ふと沖田はセイへ顔を向けた。
「・・・っ」
思わず声を上げそうになったのを、必死で止めた。
ついさきほどまで元気に振舞っていたセイだったが、まるで映画など目に入っていないかのような表情でボウッとテレビを見ている。
目にはうっすらと涙を浮かべていた。
映画の内容は、泣くような内容ではない。
理由は彼氏である新田幸二であることは間違いなかった。
やはり辛いのだろう。
昨日の今日だし当然か・・
そうは思うが、自分は全くセイにとって新田の代わりになっていないという事を痛感し、また起きたもショックを受けていた。
ふと沖田の視線を感じたセイが、沖田を振り返った。
突然こちらを見たセイに、沖田は焦った。
「あ、あの・・」
何を言えば良いか分からず、思わず言葉に詰まる。
「私どうしたら良いんでしょうか・・」
「え」
そう言うと、セイはポロポロと涙を流し始めた。
「昨日の事、忘れようって思ってるのに、ずっと考えてしまうんです。 今だって、幸二は誰と何やってるか分からないと思うと・・」
「神谷さん・・」
沖田はどうして良いか分からず、セイを見つめた。
「沖田さんが一緒にいてくれてよかったです。 もし1人なら、私どうなってたか分かりません」
そう言いながら次々あふれる涙を拭うセイを見て、沖田は胸が痛くなった。
「っ!」
気がつくと、沖田はセイを抱きしめていた。
「お、沖田さんっ??」
一瞬何が起こったのか分からないセイは、戸惑った声で沖田の名を呼んだ。
しかし、沖田はそれに答えず更にセイを抱きしめる腕に力を入れた。
しばらく目を見開いて固まっていたセイだったが、沖田の背中にゆるゆると自分の腕を回した。
何故自分がそんな事をしてしまったのか分からなかったが、妙に沖田の腕の中が気持ちよく感じた。
そして、沖田の温かさが伝わり、心地よく感じていた。
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時雨 4