時雨 23
セイは疲れた体を引きずるようにして、仕事に出てきた。
旅行から帰って来たのが、昨日の深夜。
他のメンバーたちは、月曜の今日有給を取って休んでいるらしい。
セイももちろんそうしたかったのだが、今日は営業部と企画部の合同ミーティングが
朝から入っており、今週の担当がセイになっていた。
その為寝不足と旅行の疲れを癒す暇もなく出社する羽目となったのだ。
「神谷さん、やけに疲れてるね」
セイの顔を見るなり、先輩の真奈美が声をかけてきた。
「真奈美さん、おはようございます。 ええ、同期の皆と箱根行ってて・・ 帰って来たの深夜なんです」
力なく笑いながらそう伝えると、真奈美が噴き出した。
「そうなの、タイミング悪かったね。 そんな日にミーティングなんて。 出来る事なら変わってあげたいけど、こればっかりは当番制だからね」
「あっ そんな、全然大丈夫ですっ!」
慌ててそう言うと、セイは荷物を自分のデスクに置き、ミーティング用の資料を手に取った。
「そろそろ行かなきゃなんで、行ってきますね」
「うん、がんばってねーっ」
ヒラヒラと手を振りながら、真奈美は笑顔でセイを見送った。
今日の営業担当は誰だろうか・・
セイは朝からその事ばかり考えていた。
もちろん旅の疲れはあるのだが、それよりも今日のミーティングに新田が来ないかどうかが不安で仕方がなかった。
営業からは、いつも担当者が5人程参加する為、ミーティングで会う確立は高い。
何とか別の人間であって欲しいと祈った。
そしてもう1つ気になる事。
由香の言っていた総務部の女性が沖田を狙っているという話。
あの時感じた胸の痛みは何だったのだろうか。
何故素直に沖田には彼女はいないと伝えなかったのだろう。
自分でもあの時何を感じて、何を思ったのかが良くわからない。
あの後意外にも早く部屋に皆が戻って来たため、その話はそこで終わりになった。
由香に話を聞いてもらったことで、セイの気持ちも幾分軽くなり、それからは旅行を楽しんだ。
そして沖田の事も、旅行中はそれ以降思い出すことはなかった。
会議室に入ると、まだ同じ企画部の人間しかおらず、営業部は来ていないようだった。
ひとまず安心したセイは、同僚の隣に座った。
資料をめくりながら、同僚と他愛のない話をする。
その間も、気持ちが晴れる事はなかった。
「おはようございます」
突然かけられた声に、セイは顔を上げた。
「あ、沖田さん。 おはようございます」
沖田が入って来たのを見ると、先ほどまで沖田の事を考えていたことでドキリと心臓が鳴ったが、セイは幾分ホッとして笑みをこぼした。
しかし続けて入って来た人物に、セイの表情が一気に曇る。
「・・・・・。」
沖田の後ろから顔を見せた新田は、ちらっとセイを見ると、何も言わずそのまま沖田と共に席に着いた。
その後も、数人入って来たところでミーティングが始まった。
眠気やだるさに加え、新田の存在でセイは全く集中出来なかった。
途中何度も隣の同僚に内容を確認する。
何とか議長の話に集中しようと努力するのたが、内容がなかなか頭に入ってこない。
3時間近く続いたミーティングは、昼前にようやく終わった。
ガタガタと音を立てて社員たちが立ち上がり部屋を出て行く。
セイは下を向いたまま、誰とも視線を合わせないよう部屋をそっと出ていこうとした。
「セイ」
廊下に出たところで、突然腕を掴まれた。
ビクッとして振り返ると、新田が後ろに立っていた。
「な、なに?」
セイはビクビクしながら新田を見上げる。
その表情が気に入らないのか、新田がため息をつく。
「行こう」
そう言うと、新田はセイの腕を掴んだままその場を離れようとした。
周りで2人を気にするものはおらず、各自部屋を後にしようとしている。
ただ1人、沖田を除いては。
沖田は、突然新田がセイの腕を掴んだのを唖然として見ていた。
あれから2人がどうなったかを、沖田は知らない。
新田からもセイからも聞いていなかった。
途中セイがこちらを振り返ったが、状況を理解出来ない沖田は、曖昧な笑みを返して2人を見送った。
「ちょ、幸二 痛い!」
ビルを出てしばらく歩いたところで、セイが立ち止まった。
「昼」
「え?」
「昼飯食いに行くぞ」
「は?」
新田の言葉の意味をすぐに理解出来ないセイの腕を再度取ると、新田はそのままセイを連れて近くの店に向かった。
一体どういうつもりなのだろうか?
セイは訳が分からず、新田に言われるがままに席に座った。
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