自分の部屋に新田を上がらせたセイは、新田に適当に座るように伝えキッチンにお茶を入れに来た。

セイも新田も、一切会話はない。
以前仲の良かった頃からは想像もつかない状況だろう。

久し振りに2人きりになったこの空間に、セイは緊張していた。
その証拠に、コーヒーを入れる手が少し震えている。

先ほどから痛いほど背中に新田の視線を感じていた。

何故いきなり家まで来たのだろうか。
話があるのなら、電話でも良かったのではないか。
様々な疑問が頭をよぎるが、セイはとにかく手を休ませる事なく作業に集中した。


コーヒーを入れ終えたセイは、何か茶菓子でもと思い、戸棚を開こうとしたその時。




「えっ」


突然背後から新田が腕を回して来た。
考え事に没頭していたせいか、新田が近づいてきたことに全く気付かなかった。


「こ、幸二?」

新田の突然の行動に、セイはどうして良いか分からず身を固くした。

「セイ」
新田は静かにセイの名を呼ぶと、首元に顔を埋めてきた。
セイは、何とも言えない嫌悪感を抱く。

「あ・・あの・・ 離して・・」
セイの言葉に、新田は更に腕に力を入れた。


少しまえまでは、嬉しかったはずの新田の腕の中も、今となっては苦痛でしかない。



「幸二?」
一向に何も話す気配のない新田に、セイはたまらず声をかけた。
しかし新田はセイの首元に顔を埋めたまま何も言わない。
セイは諦めて新田が話し始めるのを待つことにした。





「なあ、セイ」
しばらくして、漸く新田が口を開いた。
「・・・・・」
何を言われるのだろうか。
セイは身構えた。

「俺達、まだ付き合ってんだよな?」
「・・・・っ!」
新田の問に、思わずセイは息をのんだ。
何と答えて良いのか分からない。


「俺はセイが好きだ」
「・・・・。」
「言い訳はしない。 おれが悪かったことも認める。 だから、もう1度俺と・・」
「幸二」
新田の言葉を、セイは強い口調で遮った。

「ごめん、私もう幸二とはこのまま付き合っていけない」
「・・・・セイ?」
セイの新田は思わずセイに回していた腕を緩めた。
すかさずセイは新田から離れ、新田に向き合った。




今まで好きなのかどうか自分の気持ちが分からず悩んできた。
このまま付き合っていっていいのかどうか、分からなかった。
しかし、実際にこうやって2人きりになってようやく自分の気持ちに気がついた。
もう新田の事は好きではない。
初めて新田に対して感じた嫌悪感。
あの瞬間、もう無理だという事を理解した。



「もう、私無理」
「浮気してたことなら謝る。 本当に悪かった。 でも相手とはきっぱり別れたし、もう二度と2人きりで会う事はしない。 だから・・」
新田の目を見ようともしないセイに、必死に訴えた。
「中川さん・・」
「えっ」
「中川さんの方は、納得してないみたいだよ」
「・・・・なっ、なに?」
セイの口から中川の名前が出たことに驚いた新田は、それ以上言葉が出ない。
「彼女、幸二のことすっごく好きみたい。 きっと今の私なんかよりも、ずっと幸二の事好きでいてくれてると思う」
「セイ、お前なに言って・・」
そこまで言うと、幸二は何か思いついたようにハッとした。
「もしかして、あいつと話したのか?」
「・・・・・。」
何も答えないセイをみて、新田は中川に対する怒りで唇を噛み、小さく”あいつ・・”と呟いた。

しばらくどちらも言葉を発する事はなく、沈黙が続いた。



「ねえ幸二」
静かにセイが言葉を発した。



「もう、終りにしよう」


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時雨  20