「神谷さん・・ ちょっと飲みすぎではないですか・・」
沖田は、セイの飲むペースに目を丸くしていた。
2人はすぐ近くにあったバーに入った。
何も言葉を発さないまま、セイは立て続けに5杯のビールやらカクテルやらを飲み干していた。
その様子を、何も言わずただただ見ていたのだが、セイが6杯目を注文したのを見て、見かねて声をかけた。
「何か文句でも?」
この店に入って初めてセイは沖田を見た。
目がやばいっ!!
完全に酔っ払っている。
そして目が据わっている。
そりゃーそうだ。
まだこの店に入って30分ほどしか経っていないのに、5杯も飲んでいるのだ。
それにしても、酔っ払うには早すぎないか?
「いえ・・ 何でもありません・・」
あまりにセイの表情が怖いので、そう言うしかなかった。
新しいグラスを受け取ったセイは、何も言わずのみ出した。
横目でその様子を見た。
やっぱり辛いだろうと沖田は思った。
付き合っていない自分だって、セイが新田と歩いている姿を見るだけでいつもいつも目の前が真っ暗になるほどの気持ちになる。
信用していた彼氏が、他の女とホテルに向かって歩いている姿を見るなんて、どんなにショックだろう。
飲みたくなる気持ちも分かるな。
今日はとことん付き合ってあげよう。
そう思いながら、沖田も自分のグラスに口をつけた。
「・・・沖田さん」
黙々と飲んでいただけのセイが、突然口を開いた。
「え? あ、はい」
「沖田さんは知ってたんですか?」
セイの言葉に、沖田心臓がドクンとなる。
「え・・・っと」
思わず言葉に詰まってしまった。
「知ってたんでしょ? だって同じ営業部だし、同期で仲良いし」
「・・・」
「知ってて、はたで見てて私の事心の中で笑ってたんですか?」
「そんな訳ないでしょう!!」
思わず叫んだ後に、沖田は「しまった」と心の中で舌打ちをした。
「やっぱり知ってたんですね・・」
そう呟くと、セイは悲しそうな表情で沖田を見上げた。
「え・・ いや・・ その・・」
「良いんですよ。 私、前から何か怪しいなって感じてはいたんです」
「えっ」
「でも疑いたくないし、ずっと幸二の事信じていたいと思ったから、何も気づかないフリしてたんです」
また自分のグラスに視線を落として静かに言った。
「神谷さん・・」
そんなセイを見て、沖田は胸が締め付けられるような気持ちになった。
「私、どうしたら良いんでしょう・・」
「えぇっ どうしたらって・・」
「今私達がこうしてる間にも、幸二は他の女性とホテルにいるんですよね・・」
「・・・・」
さすがに、"そうですね"とは言えない。
沖田の返事がない事にも、気にした様子はなく更にセイはグラスを空けた。
「同じのもう1杯下さい」
「神谷さんっ!」
どう見ても、これ以上飲んでいいわけがない。
しかもピッチが早すぎるっ!
「沖田さん、お疲れなら先に帰ってもらっても良いですよ。 私はまだここで飲んでいきますから」
「いや、そういう事じゃなくてっ」
「じゃあ、今日だけは飲ませて下さい」
「はい・・」
セイの強い口調に、何も言い返せなかった。
「大丈夫ですか?」
「なーに言ってんれすか。 らいじょーぶれすよー」
店も閉店になり、沖田はベロベロに酔っ払ったセイを何とか抱きかかえるようにして連れて歩いていた。
「タクシーで家まで送りますからね」
そういうと、タイミング良く通りがかったタクシーを止めてセイを乗せた。
「神谷さん、お家はどちらですか?」
「・・・」
「神谷さん?」
返事をしないセイの顔を覗きこんで、沖田は倒れそうになった。
くーくーと可愛い寝息を立てて寝てしまっていた。
運転手が迷惑そうな顔で振り返って、「どちらまで?」と聞いてくる。
セイの家など全く知らない。
例えどの辺りかを知っていたとしても、正確な場所など分かりはしないのだ。
沖田は必死でセイを揺らして起こそうとしたのだが、全く起きる気配がない。
「すみません、○○まで」
沖田は起こす事を諦めて、自分の家を運転手に告げた。
朝まで自分の家で寝かせて、目が覚めたら帰らせれば良いか。
どうせ明日は休みだ。
はぁっとため息をつき、沖田は窓の外に目をやった。
動き出したタクシーからは、先ほど新田たちが消えていったホテル街が見えた。
セイをこれほどまでに傷つけた新田に対し、沖田は怒りを覚えた。
こんなに可愛くて優しくて純粋な子を裏切っていたのだ。
しかし、そこまで考えて沖田は自嘲気味に笑った。
それを黙ってはたで見ていた自分もきっとセイを傷つけただろう。
例え悪意はなくても、セイにとっては気分がいいものではないはずだ。
ふと自分の膝にかかった重みに、沖田は顔を下げた。
セイが、自分の膝の上で気持ちよさそうに寝ている。
「ふふっ 可愛い」
小さくつぶやくと、沖田はセイの頭を優しく撫で、さらさらの髪を指で梳いた。
自分なら、絶対この子をこんな風に傷つけたりしないのに。
でもこの子が好きなのは自分ではない。
どんなに遊んでいようが、どんなに傷つけられようが、気持ちは新田にある。
そう考えただけで、また沖田の心の中にはモヤモヤとした気持ちが生まれた。
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時雨 2