セイが店から出てきたのを確認すると、沖田はセイの元へ駆け寄ろうとした。

「えっ」
その瞬間、自分のスーツの裾が引っ張られた。
振り向くと、そこには以前自分を誘ってきた総務部の女性がいた。

「あなたは・・」
戸惑いがちに声をかけた。

「沖田さん、今お暇ですか?」
女は、ほんのりと頬を染めながら上目づかいに沖田を見上げてくる。
「すみません。 ちょっと今急いでるんですが・・」
早く行かないとセイを見失ってしまう。
「うそ、さっきからずっとここにいらしたじゃないですか。 もしお時間あるならお茶でもいかがですか」
「いえ、本当に急いでて。 また今度お願いします」
少し苛立ちながらそう言うが、女は離さない。
「だってこの前もそう言って誘ってくれなかったじゃないですか」
「本当に今忙しいんです。 すみません、離してもらえますか」
冷ややかにそう言うと、無理やり女の手を離し、セイの歩いて行った方向へ足早に向かった。




「あれ・・・」
セイの歩いていった方向へ来てみたが、見失ってしまったようだ。
携帯を取り出し、セイの名を呼びだす。

「・・・・・・・。」

しかしかけようとして止めた。
電話して、何を言えば良いのだろう。
何を話していたのかなど聞く立場に自分はない。
新田に話すのも躊躇われた。
必要があれば、彼女が自分で伝えるだろう。


携帯をたたむと、胸ポケットへしまった。
気にはなるが自分はこれ以上彼女に関わらない方が良いのかも知れない。
沖田は諦めて歩き始めた。













とぼとぼと歩きながら、セイは先ほどの中川の言葉を反芻していた。

思わずあの場から逃げ出してしまった。
中川に嫌悪感を抱いた訳では決してない。
自分の今の揺れている気持ちを、中川に見抜かれているような気がしたのだ。
彼女は自分で、中川は浮気相手のはずなのに、なぜか立場が逆になっているような気がした。
新田と中川の仲を邪魔しているのは、まるで自分なのではないかとすら思った。
なぜそんな風に思ってしまったのかは分からない。
しかし中川に誰にも新田への気持ちは負けないと言われた時、何も言い返せなかった。
きっとその通りだろう。
以前のように新田の事が好きだと胸を張って言える自信がない。
いくら浮気するきっかけが中川にあったと分かったとしても、この数日の間に新田に対して失った信用は、確実にセイの新田への気持ちを薄れさせていた。




「・・・!!」
家に戻ってきたセイは、自宅マンションの入口に見覚えのある人物が座っているのを目にした。
その人物も、セイの存在に気づくと手に持っているタバコを消し、携帯灰皿にしまうとこちらに近づいてきた。
「よう」
「・・・・幸二」

新田はセイの目の前まで来ると、苦笑いした。
「そんな嫌な顔する事ねーだろ?」
「・・・・・。」
思わずセイは視線をそらし下を向いた。

「ちょっと話したいんだけど、良い?」
中川と話したばかりなのに、今度は新田と話さなければならないのか。
セイはズンと気が重くなるのを感じた。
新田からは一体何の話をされるのだろうか。

「セイ?」
返事のないセイの顔を心配そうに覗きこんできた。

正直話したくはないが、これ以上逃げていては何も解決はしない。
セイは顔を上げると、ゆっくりと頷いた。






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時雨  19