薬を飲むため、ミネラルウォーターを買いにきた沖田は、自販機の前で何を買おうか悩んでいるセイを見つけた。
軽く驚かせてみようと、そっと後ろに近づきセイの髪に触れてみた。

「きゃっ」
びっくりした顔で振り向いたセイに、思わず沖田は笑ってしまった。
「あははっ お疲れ様です」
「お、沖田さんっ」
ほんのり頬を赤らめて、恥ずかしそうにしているセイが可愛いと思ってしまった。

「飲み物、買わないんですか?」
「あ、いえ・・ ミルクティにしようか、レモンティにしようか悩んでて」
可愛らしい悩みに、微笑んだ。
「じゃあ、こうしましょうよ。 両方同時に押してみる」
「ぷっ 良いですねぇ」

セイはお金を入れると、ミルクティとレモンティを同時に押した。

「ミルクティが出てきました」
「じゃあ、神谷さんは本当はミルクティが飲みたかったんですよ、きっと」
笑いながら、沖田もミネラルウォーターを買った。

2人は近くに置いてあるベンチに腰掛けた。

「体調はいかがですか?」
「えぇ、おかげ様でだいぶ良くなりましたよ」
そう言いながら、ポケットから薬を取り出して飲んだ。

「良かったです。 スケジュールで出社してるの見て、大丈夫かなと思ってたんです」
「やだなぁ。 チェックされてたんですね」
「そんな、チェックだなんて・・ 大丈夫なのかなと心配だっただけで・・」
「あははっ 冗談ですよ」
笑っている沖田を見て、恥ずかしそうに微笑むと、持っているミルクティを飲んだ。

「昨日仕事休んじゃったから、仕事が山のようにたまってますよ。 病み上がりなのに容赦なしです」
「あまり無理しないで下さいね」
「大丈夫。 あなたのお蔭で本当に助かりました。 もし今晩お暇なら、夕飯でもいかがです? お礼がしたいのですが」
何気なく提案した沖田の言葉に、一瞬セイの顔が曇ったように見えた。
「いえ・・ すみません。 是非ご一緒したいのですが、今晩はちょっと・・」
「? そうですか。 では来週お時間あるときでもお願いします」
「ええ、ありがとうございます。 楽しみにしてます」
微笑んだセイの顔も、どこか辛そうに見える。。

「・・・何か、あったのですか?」
「えっ?」
「いえ、何となくそんな気がしただけなのですが・・」
「・・いいえ? 何もありませんよ」
沖田から視線を外し、セイはまたミルクティを口にした。
「・・・・そうですか」
「・・・」
セイの視線が宙をさまよっているのを見て、沖田はそれ以上何も言えなくなった。


「では、私はそろそろ仕事に戻ります」
そう言うと、沖田は立ち上がり”うーん”と伸びをした。

「あ、はい。 私も戻らなきゃ」
セイも慌てて立ちあがった。

沖田はセイに目をやると、優しく微笑んだ。

「あなたは何でもすぐ顔に出ますからね」
「えっ!?」
「何かあれば、何でも相談してくださいね。 私で良ければ聞きますから」
「・・・・・」
セイは気まずそうにしたを向いてしまった。
「じゃあ、また」
沖田はセイの頭にぽんぽんと手を置くと、その場を後にした。





1人になったセイも、職場に戻ろうと歩き出した。

あの人には敵わないな。
自分の顔色ですぐ何かあったと気付かれてしまう。
そんなに私って分かりやすいのかな。


・・・そうじゃないのかも知れない。
それだけ、自分の事を良く見ていてくれているのという事なのか。

そう考えると、途端に恥ずかしくなり顔を赤らめた。
ぶんぶんと頭を振ると、歩みを速めた。











会社のあるビルのすぐ隣のカフェに入ると、窓際の席に座った。
時計を見ると、まだ約束の時間よりも少し早いようだった。

セイは嫌な気分のまま頬杖をつきながら、ぼうっと窓の外を見た。

中川からの話はどんな内容なのか検討もつかないが、自分にとって気持の良い話であるはずがない。
それどころか、今このような状況にした張本人なのだ。
新田とも確信に触れる会話をしていないのに、浮気をしていた相手と話をするのも変な気分だ。


店員が注文を聞きにきた。
ホットココアを頼もうとして、やめた。
「ミルクティをお願いします」


沖田には中川の事を話せなかった。
きっと、止められると思ったから。
自分でも、なぜ誘いに乗ったのかは良く分からない。
でも沖田と一緒に飲んだミルクティを飲みながらなら、何となく勇気が出そうな気がした。


すぐに店員がミルクティを持ってきた。
礼を言って飲もうとしたその時。

「神谷セイさん・・ ですよね?」
上から聞こえた声に、セイは頭を上げた。

そこには、中川が申し訳なさそうな顔で立っていた。


「・・・はい」
セイが答えると、中川は断ってセイの向かい側に座った。

「すみません、突然呼び出してしまって」
深々と頭を下げる中川を、セイは妙に冷めた気持ちで見ていた。

「いいえ。 それよりも、お話って何ですか?」
早く話を終わらせて帰りたい。 
感情のこもらない声で、セイは訊ねた。

中川は口を一文字に閉じ、言おうかどうか逡巡している様子だった。
しばらく考えていた中川は、意を決したようにばっと顔を上げセイを見た。

「あの・・  新田さんと別れて頂けないでしょうか」




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時雨  17