「う・・・ん・・・」
吐き気と頭痛で沖田は目が覚めた。
「あれ・・・・?」
目を開けると、辺りは真っ暗だった。
ここがどこなのか、一瞬分からずそっと起き上った。
相変わらず体は熱く、とてもダル。
感触でここが自分の家で、自分のベッドに寝ていたのだとわかった。
重い体を無理やり起こし、部屋の電気をつけた。
テーブルに置かれているビニールが目に入る。
「?」
それを手に取ると、ジュースやヨーグルトが入っていた。
隣にある紙袋の中には、風邪薬が数箱入っている。
何でだろうと考えてみるが、熱が高いせいかよく理解が出来ない。
いったい自分がどうやってここに帰ってきたのかも覚えていない。
とにかく熱で汗をかいているせいで、喉が渇いた。
置いてあったジュースを手にとって一気に飲み干した。
すると、ビニールの底に手紙があるのが目に入る。
不思議に思いながらも手に取り読んだ沖田は、驚いて目を見開いた。
『体調はいかがですか? すみません、勝手にお家に入らせて頂きました。 熱が高
いようでしたので、明日はお休みして病院に行ったほうが良いと思いますよ。 何か
あればご連絡下さい。 神谷』
ようやく思い出した。
昨日セイに話しかけられたところで気を失ったのだ。
きっと彼女がここまで運んできてくれたのだろう。
服もスーツから部屋着に変わっている。
セイが着換えさせたのだろうかと考えて、気恥ずかしくなった。
携帯を手に取りセイにお礼の電話をしようとしたところで、時計を見た。
時間は夜中の3時を指している。
まさかこんな時間に電話する訳にもいかず、明日改めで連絡することにした。
セイの買ってくれたであろうヨーグルトを口にし、薬を飲むともう1度ベッドに横に
なった。
明日はさすがに会社へ行くのは無理だろう。
悪いが明日の仕事は新田にお願いするしかないなと考えながら、沖田は目を閉じた。
朝目が覚めると、すぐに会社に休む旨の連絡をした。
そして病院へ行こうと起き上ったのだが、とてもこの体調では1人で着替えて病院ま
で行く元気もない。
どうしようか悩んだのだが、今日はまだ1日家で寝ていようと思った。
布団をかぶると、沖田ははぁっと溜息をついた。
久し振りに体調を崩してしまった。
体調管理も出来ないのかと、自分にイライラしてしまった。
しかもセイにまで迷惑をかけてしまった。
一体細みの彼女がどうやってここまで自分を運んできたのだろうか。
考えてはみるが、まだボーっとする頭では考えることが出来ない。
ピンポーン
インターフォンが鳴った。
こんな朝早く誰だろう。
沖田は不思議に思いながら、ゆっくり起き上がるとフラフラと玄関に向かった。
のぞき穴から外を見て、沖田は驚いてドアを開けた。
「おはようございます」
「か、神谷さん・・」
セイが立っていた。
「1人じゃ何かと大変かと思って様子見に来ました」
「え・・ でも仕事は・・」
「有給沢山残ってるし、休んじゃいました」
舌を出してにっこり笑うセイに、沖田は嬉しい反面申し訳ない気持ちになった。
「あ、中入りますか? って言っても風邪がうつっちゃうかも知れませんけど・・」
「大丈夫です。 私体丈夫なんで。 失礼しても良いですか?」
その言葉に沖田はドアを更に開けてセイを中に入らせた。
「まだ体調悪そうですね」
ダルそうにベッドに座る沖田に近づき、おでこに手を当ててみた。
いきなりのセイの行動に、沖田は真っ赤になって後ろによろける。
「まだ全然熱いじゃないですか。 後で病院行きましょうね」
そう言いながら、セイはテキパキとタオルを冷水に浸し沖田を横に寝かせるとおでこ
や首に置いた。
「気持ちいい‥」
「ふふっ それだけ熱が高ければ、そうでしょうね。 薬は飲みました?」
「えぇ。 昨日も私をここまで連れて来てくれたんですよね? すみません、ご迷惑
をおかけしてしまって」
「何を言ってるんですか。 あんな状態の沖田さんを放っておいて帰れる訳ないじゃ
ないですか」
話しながらも、セイは手際よく持ってきた食材を取り出すと、キッチンに持っていく
と何かを作り始めた。
「あの・・ 私は大丈夫ですから、気を使わなくても良いですよ」
「病人は黙って寝てて下さい」
笑いながらそう言うセイに、総司は困ったように笑った。
数分後、お粥を手にしたセイが総司のもとへやってきた。
「食べられますか?」
その声に、少しうとうとしていた沖田はハッとしてセイの方を見た。
「あまり食欲はないのですが・・」
「少しだけでも食べて下さい」
沖田の背中を支えて起き上がらせた。
「熱いので気をつけて下さいね」
セイはレンゲにお粥を少しすくうと沖田の口に持っていこうとした。
「あ、あのっ 1人で食べられますから」
真っ赤になりながらそういう沖田に、思わずセイも顔を赤くした。
「そうですよねっ 私ったら・・ すみませんっ」
気恥ずかしい気持ちのままセイからお粥を受け取ると、少しずつ口に入れた。
食欲は全くなかったはずなのに、昨日からきちんとした食事をとっていなかったせい
か、とても美味しく感じた。
「あなたの作る料理は何でも美味しいんですね」
「そんなこと・・」
「いえ、本当に美味しいですよ」
沖田は、セイの用意してくれたお粥を全て平らげてしまった。
「おかわりまだありますけど・・」
お椀を受け取りながら、セイは嬉しそうに訊ねる。
「いえ、もう十分です。 ごちそうさまでした」
「食べたくなったらいつでも言ってくださいね」
再び沖田を横に寝かせると、セイは洗い物を始めた。
今こんなことを思ってしまうのは不謹慎かもしれないと思いながらも、こうしてセイ
が自分の家で自分の看病をしてくれていることを幸せに感じていた。
もうセイとはこれまでのように話すことなど出来ないかもしれないと思っていたの
に。
「少し寝て下さいね。 もし病院へ行けるようになったら行きましょう。 私、
それまで外でぶらぶらしているので、何かあればいつでもお電話下さい」
自分がいては沖田が気を使って寝られないかも知れないと思い、家を出ようとした。
「神谷さん・・」
沖田がそのセイの手を弱々しく掴んだ。
「えっ」
「ここにいて下さい。 何だか病気の時って1人だと心細くなってしまって・・」
懇願するような目でそういう沖田に、セイはふふっと笑った。
「分かりました。 ではここにいさせて頂きます」
「ありがとう。 あの、テレビとか見ててもらってもかまわないので、気にしないで
好きなことしてて下さいね」
「はい。 ではゆっくり休んでください」
セイの言葉に安心したように微笑むと、沖田は再び目を閉じた。