沖田がリフレッシュルームに来てみると、新田がソファに座り頭を抱えていた。
 
「新田?」
声をかけてみるが、反応はない。
沖田は、先ほどまでセイが座っていた場所に座った。
 
「今神谷さんに会ったよ」
その言葉に、新田の肩がぴくっと動いた。
「泣いてるようだったけど・・・?」
責めるような沖田の口調に、新田は静かに顔を上げた。
「何があった?」
分かってはいるが、敢えて知らないフリをする。
 
「俺が悪いんだ・・」
「え?」
「まさかバレてるとは思わなかったんだ・・」
その言葉に、沖田は怒りを覚えた。
しかし、こぶしをぎゅっと握って怒りを堪える。
 
 
「中川さんの事だろ?」
冷たく言い放った言葉に、新田はバッと体を起こして沖田を見た。
「お前・・ 何でそれ・・」
信じられないという顔で沖田を凝視している。
その新田に、呆れたという顔をして、沖田はふぅっとため息をついた。
 
「バレてないとでも思った? 営業部の人間はほとんど気づいてるよ」
「え・・」
「お前が誰と遊ぼうが、浮気しようが別に興味ないけどさ。 ・・・神谷さんの事傷つけるのだけは許せない」
「は・・・?」
「もし彼女がこれからもお前と付き合っていくとするなら、もうすっぱり中川さんとは別れてあげて欲しい」
そう言うと、沖田はじっと新田の顔を見た。
「沖田、お前何言って・・?」
「彼女が悲しい思いするのだけは嫌なんだ。 神谷さんには幸せになって欲しいし、いつも笑っていて欲しいから」
沖田は悲しげに微笑んだ。
 
「沖田・・・?   ・・・お前もしかして」
新田は目を見開いた。
「やっと気づいた?」
沖田はははっと笑った。
 
「・・・・・嘘だろ?」
「ずっと神谷さんの事好きだったよ。 お前が彼女と付き合うもっと前からね」
「・・・」
新田はあまりにも驚き、言葉も出ないようだ。
 
「だからお願いだから、彼女をこれ以上泣かさないで欲しいんだ」
「おきた・・・」
「俺は、お前の事いい奴だと思ってるし、これからも仲良くやっていきたいと思ってるよ。 たとえ神谷さんと付き合ってたとしてもね。 彼女がお前と付き合うことで幸せになれるなら、どんな協力もしたいと思ってる」
「・・・・・」
新田は辛そうな顔で沖田を見た。
 
「神谷さんの事、ちゃんと好きなんでしょ?」
「・・・・ああ、もちろん」
 
「じゃあすぐに中川さんと別れて、神谷さんを安心させてあげなよ」
「でも‥ セイは俺の話を聞こうともしなかった」
「え?」
「当分距離をおきたいとか言われたんだよ。 もうダメかもしんない」
それを聞いた沖田は、ふぅっとため息をついた。
 
「誰だって、浮気されればショックを受けるでしょ? 時間が経てば、きっと彼女は戻って来るよ」
そう言うと、沖田は立ち上がり新田の肩をぽんぽんと叩いた。
「じゃあそろそろ帰るわ」
「あぁ‥」
沖田がその場を立ち去ろうとしたとき新田が沖田を呼び止めた。

「沖田、ありがとう」
「何言ってるんだよ。 じゃ、また明日ね」
去っていく沖田を後姿を、複雑な思いで新田は見送った。
 
 
 
 
 
 
セイは、手すりに持たれて電車の窓の外の流れる景色を見ていた。
 
結局幸二の口から本当の事を聞けなかった。
浮気を認めるする言葉を怖かったのだ。
言い訳など聞きたくない。
何を聞いても、自分を裏切った事実は消えないのだ。 
これからどうすればいいのか。
幸二の事は今でも好きだ。
でもこれ以上幸二と付き合っていくべきなのかどうか、何度考えても分からなかった。
きっと今回許しても、今まで通り付き合っていくなんて事は絶対に出来ない。
ことあるごとに、目撃してしまった光景を思い出すだろう。
そんな辛い思いをしながら幸二と付き合っていくことが、自分に出来る自信がなかった。

携帯についているストラップをコロコロと手で転がしながら、深いため息をついた。 
 
 
 
 
 
 
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時雨  11