再来 7
「見合いを受けようと思います」
突然総司から話があると言われた土方は、予想外の総司の言葉に心底驚いた。
「・・・それはどういう風の吹き回しだ?」
「近藤先生から聞きました。 土方さんが私のために見合い相手を探し回ってくれたと」
「お前は俺の為に見合いを受けるのか?」
「はい。 私は本当は誰も娶るつもりはありませんでした。 でも土方さんが私の為に探してきてくれた人を無下にすることは出来ませんから。 それに・・・」
「それに?」
総司ははぁっとため息をついた。
「・・・それに神谷さんを忘れなければと思ったので・・」
聞き取れるか聞き取れないかのような小さな声でボソッとつぶやいた。
「・・・・やっと認める気になったのか。 あいつを女としてみていた事を」
土方はにやっと笑って総司を見た。
「み、認めなかった訳ではありません! 今まで自分でも気づかなかったのですっ!」
総司は顔を真っ赤にして反論した。
「まぁ良い。 どちらにせよ、残念だがあいつはもういない。 しかしお前はこれからも生きていかなければならないんだ。 その為にはお前を支えてくれる人間が必要だ。 」
「・・・そうですね」
総司は淋しそうに微笑んだ。
「時間はかかるだろうが、ゆっくり神谷を忘れる努力をしろ。」
土方は優しく総司の方に手を乗せた。
総司は下を向いてそれ以上何も答えなかった。
「先方と日取りを決める。 決まり次第連絡するからそれまで待っててくれ。」
「分かりました。」
力なく微笑んで、総司は部屋を出て行った。
最近総司は何故だか幸せそうな顔をしていた。
それは平隊士や幹部までもが気味悪がる程で、何があったのだろうかと皆が噂していた。
しかし、ここ数日また元の総司に戻ってしまった。
見ていられないくらいの憔悴ぶりで、さすがの土方も心配していた。
そこにきて、いきなり見合いを受けたいという。
何があったのかかなり気になったが、本人の口からは絶対に言わないだろうと分かっていたので、
これ以上詮索するのはやめた。
ただ、見合いがうまくいけば良いと、それだけを願っていた。
土方の部屋を出た総司は、ぼーっと屯所内を歩いていた。
セイが総司の前から姿を消して3日経った。
何度も桜の木の下へ行ったし、セイの墓にも参った。
巡察中も常にセイを探していた。
このままセイは自分の元からいなくなるのではないかと薄々気づいていた。
しかしそれを認められない。
今回の見合いを受けたのは、土方の顔を立てる為であり、全く娶るつもりはなかった。
土方に言った、セイを諦める為というのは嘘だった。
諦められる訳がない。
今日も総司はセイを探しに町に出ようと屯所を出た。
「沖田総司様でいらっしゃいますか?」
門を出た所で突然声をかけられた。
声のしたほうを見ると、若い女が立っていた。
「そうですが、あなたは?」
総司は感情の篭らない声で訪ねた。
「突然押しかけてしまい、申し訳ございません。 私は鈴木医院の娘で奈緒と申します。
この度土方様より沖田様とのお見合いの話を頂きまして・・・」
と、奈緒と名乗った女がおずおずと総司に近寄ってきた。
総司は一瞬驚いた顔をしたが、すぐまた元の感情の篭らない顔に戻った。
「あなたが・・ 返事を遅らせて申し訳ありませんでした。 つい今しがた土方に見合いを
受けると伝えたところでした。 」
奈緒はぱぁっと顔を明るくした。
「本当ですか? 嬉しい! 私は沖田様との縁談を本当に心待ちにしておりました。」
「何故私との縁談をそれほどまでに?」
総司は訝しげに訪ねた。
「沖田様の事を知らない者はこの京の町にはおりません。 新撰組きっての剣豪とお聞きしております。 それに、かなりの甘味好きだとか。 実は私も甘味が大好きなんです。」
頬をほんのり赤らめながら、嬉しそうに総司に話す。
見たところ、この奈緒という娘は15から16くらいだろう。
かなり若く見える。
「そうですか・・ でも今日こうして会ってしまっては、見合いも何もありませんね」
奈緒ははっとした顔をした。
「も、申し訳ありません・・・ 沖田様が縁談を断られるのではないかと思い、いても経ってもいられずご迷惑とは思いましたが直接お願いに上がろうと思って・・」
おろおろとしだした奈緒を見て、総司はふふっと笑った。
「もし宜しければ、今から団子でも食べに行こうと思っていたのですが、一緒にどうですか?」
何故そんな事言ってしまったのかは分からなかったが、気が付くと奈緒を誘っていた。
「本当ですか? 嬉しい! 是非ご一緒させて下さい!」
二言返事で承諾した奈緒を連れて、総司は町へ向かって歩き始めた。
「沖田様、それで13皿目になりますが・・・」
奈緒は、総司の食べっぷりに驚きを通り越していた。
「はい、まだまだ入りますけど」
更に追加を3皿注文し、次々と平らげていく。
そんな総司を見て、奈緒は思わず噴出してしまった。
「沖田様の食べている姿を見ていると、幸せな気分になります」
総司は、食べていた団子をぶはっと吐いた。
「何を突然言い出すんですか」
「だって、本当に美味しそうにお食べになるんですもの。」
と、微笑みながら総司を見る。
そんな奈緒を見て、総司も何故か微笑んでいた。
「そうですか? だって、この団子本当に美味しいですよ? 奈緒さんまだ1皿しか食べてないじゃないですか。 注文しなくて大丈夫ですか?」
奈緒はたまらず噴出してしまった。
「あははははっ 1皿食べて十分ですよ! 沖田様って本当に面白い方なんですね」
「え・・・ そうですかね? 私にとってはこれが普通なんですけど・・・」
結局総司は19皿食べ、奈緒は1皿のみで後は総司の食べっぷりを楽しそうに眺めていた。
「家まで送りますよ。 どちらですか?」
「この先を行った所です。 すみません、返ってご迷惑をおかけしてしまって」
総司はにこっと微笑んで奈緒を見た。
「いいえ、迷惑ではないですよ。 久しぶりに私も楽しかったです。 最近は1人で甘味を食べていたもので、誰かと一緒に食べるなんてなかったので。」
「それまでは誰かとご一緒に食べに行かれてたんですか?」
奈緒は何気なく総司に尋ねた。
その言葉に、総司の顔はまた元の感情のない表情になった。
奈緒は、聞いてはいけない事を言ってしまったのだと気づいた。
「す、すみません。 何でもないです」
慌てて他の話題に変えようとした。
「いえ、大丈夫ですよ。 見合いをする相手の方だから、最初にお話した方が良いと思います。
聞いてもらえますか?」
「はい」
総司は奈緒の家までの道のりを歩きながら、ぽつぽつと話始めた。
「私はとても大切な人を亡くしました。」
奈緒は驚いて総司の顔を見たが、奈緒の顔を見ずたんたんと話続けた。
「その人が亡くなってから、私は彼女を愛していたのだと気づきました。 そして、私は今でも彼女をとても愛しています。 きっと、これからも忘れる事はないでしょう。」
奈緒は何も言わない。
「あなたとの縁談は受けるつもりでいます。 でも、もしあなたを娶っても、私はあなたを愛する事はありません。 一生です。」
「その方は・・・」
突然奈緒が口を開いた。
「え?」
「その方はどんな方だったのですか?」
「どうしてそんな事を?」
奈緒はふふっと笑った。
「だって、死して尚、それほど沖田様に想われるなんて、よほど素敵な方だったのだろうと想ったので。」
「そうですね・・」
総司は、すこし掠れた声で言った。
「とても可愛らしい人でした。 素直で優しくて人気者で。 じっとはしていられない性格で、目を離すといつもどこかで何かしてました。 そんな彼女をほっておけなくて、私はいつも口うるさく彼女を叱ってました。 自分の目の届かない所にいると心配で心配で。 」
総司は空を見て、セイを思い出しながらゆっくりと話した。
「今でも私には彼女が必要なんです。 死んだのにそれを認められない。 いつもどこかで彼女を探しているんです。」
「その人も沖田様の事を?」
「いえ、まさか。 彼女は私の事を師として慕ってくれてはいましたが、そういう感情はなかったですよ。 私の片恋です。」
総司は苦笑しながら肩を竦めた。
「そう・・・ですか」
総司の話を聞いて、がっかりしたように下を向いてしまった奈緒を見て、総司は笑った。
「あはははっ あなたが落ち込む事はないでしょう」
奈緒は悲しげな顔で総司を見上げた。
「その方は幸せ者ですね。 沖田様にそこまで想われて。」
「彼女にとっては迷惑な話かも知れませんけどね」
セイが今回の縁談を勧めてきた来たときの事を思い出した。
きっと、総司がセイに執着している事を迷惑に思って発した言葉なのだろうと総司は思っていた。
「私決めました!」
奈緒が突然叫んだ。
「な、何をいきなり」
「沖田様さえ宜しければ、私沖田様に嫁ぎます!」
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