再来  最終話



走り出した総司は、迷わず壬生の木の下に来た。
「神谷さん!」
息切れしながらも、必死で叫んだ。
「神谷さん! いるんですよね! お願いです、出てきてください!」

セイは出てこない。
「神谷さんっ!」
総司は尚もセイの名を呼び続けた。

しかし、やはりセイは出てこなかった。
総司は脱力し、その場に膝をついた。



ふと、総司の頬に柔らかな風が触った。
総司は顔を上げた。

目の前にセイがいた。
優しく微笑んで総司を見ている。

「神谷さん」
会いたくて会いたくて仕方がなかった人がそこにはいた。

総司はセイに近づこうとした。
しかしセイは微笑みながらゆっくりと首を横に振った。
そして『さようなら』と言った。

「待ってっ! まだいかないで下さい!」

『どうか、お幸せに』
セイは微笑んでそう言った。
総司は素早くセイの元へ走り、セイの手を掴んだ。
空を切ると思われたその手は、しっかりとセイの手を握っていた。

セイも驚いてつながれた手を見ている。

「やっと・・触れられました」
総司は、その手を引いてセイを抱き寄せた。

亡き人とは思えぬぬくもりと、セイの匂いに総司は心から愛しいと思った。
何故セイ以外の人を娶ろうなどと一瞬でも思ったのか。
何故セイを忘れられると思ったのか。

総司にとってセイ以上の人などこの世に居ないのだ。


「愛してます。 神谷さん」
総司ははっきりとセイに伝えた。

腕の中のセイは何も言わない。

しかし総司はそんな事気にも留めない。
「私にはあなたしかいないんです。 例えあなたが居なくなってしまっても、私は一生あなたを想って
生き続けます。」


どれほどの時間過ぎたのかは分からない。
しかしお互いに何も言葉を交わさないまま抱き合っていた。

総司はそれだけで良かった。
もう最後になるであろうセイのぬくもりを少しでも長く感じていたかった。


『沖田先生・・』
セイが優しい声で総司の名を呼んだ。
「はい」

『私も沖田先生の事をずっと愛していました。』
総司は喜びに頬を緩めた。
『沖田先生と過ごした時間は、私にとって至福の時でした。』

総司がセイの顔を覗き込もうとした瞬間、セイは消えた。
突然腕の中のセイがいなくなり、総司はその場に倒れこんだ。

『どうかお元気で。  さようなら』
セイの声だけが木霊した。

セイが自分を愛してくれていたと言う喜びを感じる前に、セイがいなくなってしまった喪失感を感じた。
セイは二度と自分の前に現れないだろう。
そう思うと、その場から動けずに悲しみに暮れた。





セイが完全に総司の前から姿を消して数ヶ月が経った。
奈緒との縁談は、正式に断りあれから奈緒とは会っていない。
土方にどやされても、近藤に理由を聞かれても総司は何も言わなかった。

前を向いて生きていこう。
それが総司の決めた事だった。
セイはいなくなってしまったが、総司の心の中にいる。
それだけで十分だった。
いつもセイが自分を見守っていてくれている気がした。




今日も巡察を終え、総司は甘味を食べに1人で団子屋に来ていた。
隣に誰もいないという状況にも淋しいながらもだいぶ慣れてきた。
「そうだ・・」
総司は思い立って、団子を店に包んでもらった。

久々にセイの墓へ行こうと思った。
思えばセイが完全にいなくなってから、1度も墓には参っていない。

セイの墓の前に来ても、以前ほど胸が痛まなくなった。
「神谷さん、お久しぶりです、総司です。 お団子持ってきましたよ。」
と言って総司はセイの墓を掃除した。
そしてしばらく手を合わせた後、帰ろうと立ち上がった。

総司の頬を、感じた事のある柔らかい風が吹いた。
それだけで幸せな気分になった。
自分を見守っていてくれると感じられる。
総司は微笑んでその場を後にした。













「神谷さん・・」
「沖田先生、随分ご無沙汰しておりました」
そこには愛しい笑顔があった。

総司は、流行り病に侵され、最近では床に伏せっている事が多くなった。
そんな総司の元に、会いたくてしかた愛しい少女が立っていた。

「やっと会えましたね」
総司は青白い顔で幸せそうに微笑んだ。
「はい。」
セイは慈愛に満ちた表情で総司を見つめた。
「お迎えにあがりましたよ、先生」
セイが総司に向かって手を差し出した。

総司のやせ細った手がセイの手を掴む。
既に起き上がる事もままならなくなっていた総司だが、とても体が軽い。
総司とセイは、手を取り合い見つめ合い微笑みあった。

今度こそずっと一緒にいましょうね。


そして手をしっかりとつなぎ、2人は天に向かって歩き出した。