再来  12



「今日は甘味は宜しいんですか?」
何も言わず町をぶらぶらと歩いている総司に、奈緒は訪ねた。

「今日はやめておきます」
珍しく総司は甘味を断った。
眉間に皺を寄せ、何かを考え込んでいるようだった。
奈緒は、何も話さない総司にどうしたものかと考えていた。

「奈緒さん。 どこかゆっくり話が出来るところに行きませんか」
突然そう言い出した総司に、奈緒は素直に従った。

総司は、川沿いの土手に奈緒を連れてきた。
「ここで座って話をしましょう。」
奈緒の着物が汚れないよう、総司は自分の着ている羽織を敷き、奈緒を座らせた。

「昨日はすみませんでした。 疲れていてかなり気が立っていたもので」
総司は再度昨日の件を謝った。
「いえ、本当に気にしないで下さい。 私もしつこくお誘いしてしまったのですから。」

奈緒がそう言っても、総司は川をぼーっと見たまま奈緒を見ようとはしない。
総司の様子に、奈緒は少し心配になった。

「沖田様? どうかされたのですか?」
奈緒は総司の顔を覗き込みながら訪ねた。
「あっ すみません! ちょっと考え事をしていました」
総司は慌てて奈緒を見た。

「ふふっ いいえ、大丈夫ですよ」
奈緒はにっこり微笑んだ。

「奈緒さんはいつもお家のお手伝いを?」
「はい、父の助手をしておりますので」
「もしあなたが私と結婚すれば、お父上のあとを継ぐものがいなくなってしまいませんか?」
それを聞き、奈緒は悲しそうに下を向いた。
「それは・・」
「私と一緒になることで、奈緒さんが幸せになれると私には思えないのです。」
「それは私との結婚を取りやめたいということでしょうか」
総司の目をじっと見据えて奈緒は訪ねた。

「そういう訳ではありません。 ただ・・」
総司はそこまで言って言葉を切った。


「沖田様。 訪ねたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」
奈緒は意を決して話を切り出した。

「はい、何でしょう」


「・・・月代のある可愛らしい小さな少年をご存知ですか?」
奈緒がそう言った瞬間、総司は驚いた顔をして奈緒を振り返った。
その顔色を見て、総司が知っている事を奈緒は悟った。
「知っていらっしゃるのですね」
「・・・何故」
知っているのかという事を総司は聞こうとした。
奈緒が知っているはずがない。
奈緒と知り合ったのは、セイが死んでからだ。
それに、土方が総司の事を話したといっていたが、セイの話をしたはずがない。

「今日夢に出てきました。」
「夢に?」
総司は信じられないという顔で奈緒を見ている。
「はい。 沖田様とその方はとても中むつまじく歩いていました。 その方は新撰組の方ですか?」
その問いに、総司は答えなかった。
しばらく奈緒を見ていた総司だったが、顔を逸らした。
「そんな人は知りません。」
顔色を失くした総司は、ただそれだけ答えた。
奈緒は嘘だと分かっていた。

「やはり、私との見合いを躊躇っていらっしゃる理由は、先日お話して下さった方が理由ですか?」

「・・・・」

それ以上聞ける雰囲気ではなくなってしまった為、奈緒は口をつむいで下を向いてしまった。

しばらく2人は何も言わずその場に居たが、総司が急に立ち上がった。
「もう行きましょう」
そう言って、手を差し出して奈緒を立たせようとした。
急いで立ち上がった奈緒、ふらついた。
総司は奈緒の右脇を救い上げて支えた。
自然と奈緒は総司にもたれかかる姿勢になった。

「あ・・」
奈緒は総司の腕の中で顔を赤くしていた。
一方総司は、奈緒を抱きかかえながらセイの事を思い出していた。
セイとは違う柔らかさ。
セイとは違うにおい。
やはりこの人はセイとは違うのだという事を実感していた。

総司はそっと奈緒を引き剥がした。
「大丈夫ですか? 気をつけて下さいね」
奈緒は悲しげな顔で総司を見上げた。

総司は奈緒の顔を見ない。
そして奈緒の後ろに目をうつした。



「・・・えっ」
総司の顔色が変わった。
奈緒は、自分の後ろに何かあるのだろうかと振り返った。

「あ・・・」
奈緒ははっとした。

そこには夢で見た少女が立っていた。

「・・・神谷さん・・」
総司がボソッとつぶやいた。

奈緒にはその少女の名前なのだろうと察しがついた。
そして、その少女はきっと総司が言っていた大切な女性なのだろうという事も。

なぜならば、その少女はそこに存在しているという感じではなかった。
うっすらと後ろが透けて見える。
その表情はとても儚げで、とても美しかった。

神谷と呼ばれた少女は、2人に向かってにっこりと微笑んだ。
そして軽く会釈をしてすぅっと消えていった。

「神谷さんっ!」
総司は叫んだ。
奈緒はあまりの驚きに、その場から動けなかった。

「すみません、奈緒さん!」
と言って、総司は走り出した。
奈緒は引き止める事も出来ず、走り出した総司の後姿を見ながらその場に立ち尽くしていた。


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