再来  1



「好きにしなさい。 私はもうあなたの面倒は一切見ません。」

それがあの子に対して言った最後の言葉だった。


「神谷が斬られた!」
その日、非番だった私は、何で時間を潰そうかと屯所内をブラブラと歩いていた。
2番隊の隊士が息を切らして走ってきた。
屯所にいた隊士達がざわついた。

「神谷さんは!? 神谷さんはどこです? 無事なんですか!」
私は考えるより先に行動していた。
隊士の両肩を掴み、激しく揺さぶりながら問いただした。
隊士は悲しそうな顔をしながら答えた。
「・・・滅多刺しにされて、既に・・・」

私は頭の中が真っ白になった。
その場にへたり込んでしまい、動けなくなった。

神谷さんが死んだ・・・・?




3日前。
私は神谷さんを厳しく叱った。
神谷さんが他の隊士に呼び出されて、押し倒されそうになったのだ。
何とか自力で逃げてきたようだが、その事を知り激しく叱った。
「女子だという自覚がないのですか」と。

最近私は神谷さんが他の隊士達と話しているのを見るだけで腹が立っていた。
どうしてそんなに腹立たしい気持ちになるのか自分ではわからなかった。
少しでも他の男と仲よさそうに話しているのを見るだけで、呼び出し叱った。
「そんなに近づいて、女子だとバレたらどうするのですか」
「誰にでもいい顔をしすぎです」

神谷さんは、当然そんな事まで言われたら屯所内で生活していけませんと言い返してきた。
それが更に私を腹立たせた。
そして言った言葉。
「好きにしなさい。 私はもうあなたの面倒は一切見ません。」

彼女はとても傷ついた顔をして、泣きながら走って行ってしまった。
そして、そのまま毎月恒例となった居続けに入った。

神谷さんは、お馬で辛い体のはずなのに、お里さんと町へ買い物に出ていたそうだ。
そこで尊攘派浪士と出くわしたという。
ただでさえ体調が悪い上、相手は3人だった。
お里さんを守りながらの戦いはかなり不利だったのだろう。
神谷さんは3人から斬りかかられて、倒れたという。
たまたま巡察で通りかかった2番隊が、騒ぎを聞きつけて応戦した時には既に神谷さんの
息はなかったそうだ。

私は、この3日間神谷さんにひどいことを言ったことをとても後悔していた。
どうしてあんなことを言ったのか、どうしてあんなに腹が立ったのか考えていた。
神谷さんが帰ってきたら謝ろうと思っていた。
そして、いつも通り2人で仲良く甘味でも食べに行こうと思った。
それなのに。

もう二度と神谷さんに会うことも、謝ることも出来ないのだ。

私は神谷さんの遺体が屯所に運ばれてきた。
神谷さんの周りには隊士達が集まり涙している。
私はその光景を部屋の外から眺めていた。

「総司」
声をかけられて振り返る。
土方さんがいた。
「別れを言ってやれ。」
そう言って、神谷さんの周りにいた隊士達を部屋から出した。

私は神谷さんの横にふらふらと倒れるように座り込んだ。
とても死んでいるとは思えない程きれいな顔。
そっと顔を撫でてみる。
今にも起きてきて、「沖田先生」と言いそうだ。

「神谷さん・・・   ごめんなさい。 ひどい事を言って。」
髪を撫でながら、何度も何度も謝った。
ふと神谷さんの顔に水滴が落ちた。
自分でも知らないうちに泣いていたようだ。
もう涙なんて出ないと思っていたのに。
そう思ったが、涙は止まらない。
いくら呼びかけても起き上がらない神谷さんを抱き上げて、声を出して私は泣いた。


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