男の勲章



男の勲章 それはまだ私達が江戸・試衛館に居た頃、 あの頃はまだ私が清純派(笑)だった時の話です。


「あ〜原田さんてば後ろ傷〜」
「あぁ?何言ってんだ平助。こりゃ『男の勲章』ってもんだぜ!」
「おいおい平助。分かってないってか?!」
「し、知ってるよソレくらい!!!」
「お?なんだ平助も妓の味を知ってるってか?!」
「もう!知ってるよソレくらい!!!」
「か〜!可愛いなぁおい!」
いつもの三人組が井戸で水浴びしながら下世話な話をしている。
試衛館ではよく目にする光景だ。
「うるさいなぁ!宗次郎だってそうだよね!?」
ふいに藤堂さんが私に話をふってきた。
「馬鹿平助!」
永倉さんが間髪要れずに藤堂さんに拳骨をお見舞いしました。
「あ・・・ゴメン・・・」
頭を撫でながらしょんぼり謝る藤堂さんに私も同情したけど やっぱりあの事で皆気を遣ってるのが申し訳なかった。
「いいんですよ。
私は女子に興味ありませんから」 何度も言ったこの台詞。
生涯不犯の誓いを自分の心を反芻するように言い聞かせる。
そんな中原田さんが叫んだ。
「違うぞ!宗次郎それは違う!!」
「何がですが原田さん」
「妓を抱くと女子を好きになるは別物だ!」
「そうですか?」
「そんな事言ってたら抱く女全部好きになってたらキリがねえ!」
「あはははは、原田さんは大食いですもんねぇ」 原
田さん独特の理論(?)は男らしいと思う。 なんかいっそ清清しい。
私もそう割り切れれば苦労しないのだろうけど、 妓の味を知ったら誓いが意味を失くすような気がした。
それ以上にその味に溺れはしないだろうか。
私にその自制心があるか不安もある。
原田さんのような強さと潔さが羨ましい。
藤堂さんのような純粋さが羨ましい。
永倉さんのような思慮深さが羨ましい。
私には剣しかない。
でも、それだけでも先生を守れればそれでいいと思った。
あれから何年も経って私は変わったかもしれない。
少なくとも『耳年増』にはなったろう。

「お、総司。お前もやるなぁ!」
「何がですか?」
巡察が終わって水浴びをしていると三人組が話しかけてきた。
「総司ってば、とうとう『後ろ傷』だねv」
「え?切られた覚えはないですよ?」
「バ〜カ、これだよ。この『男の勲章』」
「勲章・・・?あ!」
「しかしすげえ傷の数だな。やるな総司」
ニヤニヤしながらも嬉しそうに肩を組む原田さん。
こういう時に本当に心配を掛けていたのだなと思う。

「先生方、楽しそうですね?」
何も知らずに私に『勲章』を付けた張本人がやってきた。
「おう!神谷も総司のコレ見たか?」 「なんですか?」
そう言って面白そうに私の背中を見て傷を触っている。
もしかして神谷さん分かってない?
「痛そうですね〜。ちゃんと薬塗らないと駄目ですよ?」
それを三人組も察知したらしく 「神谷、コレ分かってる?」
「???コレですか?」 「『男の勲章』ってヤツだよ」
「勲章?どこがですか?」
「バッカだな〜神谷!この傷はな〜」
「どれだけ相手を『喜ばせたか』って意味ですよv」
見る見る間に顔が赤くなっていく神谷さん。
その右手にはいつの間にか竹刀が握り締められている。
三人組と目配せした私は神谷さんが爆発する前に逃走する事にした。
「そこへなおれ!助平野郎ども〜!!!」

今ではなんの珍しくないこんな光景。
それでもこんな日が来るなんて思ってなかった。
感謝してますよ、神谷さん。