大トラと不条理な戦い



酒は飲んでも呑まれるな 。
神谷清三郎は大トラである。
そんな情報を知っているのはごく一部の親しい人間。
というよりは犠牲率の高い人々である。
幹部で言えば、三番隊組長・斉藤一。
同じ一番隊なら古参の相田・山口。
皆、等しく神谷清三郎に好意を抱く人々だ。
そして今日も彼らは苦悩する。 ちゃかぽこちゃかぽこと楽しそうな宴の音がする
。 宴会場の中からは原田や永倉といったいつものメンバーの声がする。
ああ、すでに出来上がっているのかと斉藤は思った。
斉藤は普段から平常心を保ち、酒を飲んでも平然としている。
飲みすぎても多少顔がピンクになる位だった。
巡察も終え、三番隊も宴会に合流する はずだった。
ところが目にした物は 下帯一枚の原田左ノ助と藤堂平助。
上半身裸の永倉新八。
そして永倉の帯に手を掛けている神谷清三郎と その神谷の手を解こうとする相田と山口の姿。
「キャハハハハ!とうどうせんせ〜のおしりきれ〜♪」
「神谷!お前飲み過ぎだ!」
「それよりお前、永倉先生の帯から手を離せ!!」
「や〜らよ〜☆ながくらせんせもおしりきれい〜?」
「おう神谷早くやれ!ぱっつぁん『あ〜れ〜』忘れんなよっ♪」
(しまった・・・神谷の大トラが始まっていたか)
そうして斉藤は宴会場を見回す。
近藤局長・土方副長の姿が見えない。
そしてヤツの姿も見えない。
(また沖田さんが原因か・・・)
溜め息一つ。
まだ訳を聞いていなくとも分かってしまう自分が虚しい。
とりあえず大トラを止めるには原因を知らねばならぬと 神谷大トラと戦う山口に声を掛けた。
「今度は何が原因だ?」
「斉藤先生!・・・実はですね・・・」

− 今から遡る事二刻半前の出来事でした。
「あれ?先生お出掛けですか?」
「あ、神谷さん」
声を掛けた神谷には分かったそうです。
沖田先生の『マズイ!見付かった!!』という表情が。
当然神谷の機嫌も悪くなります。
「どこへお出掛けですか?」
「ええ、ちょっと・・・甘味処へ☆」
えへっと顔して誤魔化したつもりでしょうが、 あの判り易い沖田先生の嘘なんてバレバレなんです。
「へ〜。そ〜ですか〜。お一人でですか?」
そりゃいつも一緒に行ってる神谷を誘わないんですから 甘味処なわけなんてないですよね。
「べっ別に一人でもいいじゃないですかっ!」
「悪い、なんて一言も言ってません」
まぁここからはいつもの売り言葉に買い言葉でして・・・
「先生のバカー!!!」
「神谷さんの分らず屋!!」
ふんっ!!! そんな風にまた喧嘩をしたのですが、 それを見ていた原田先生達が神谷を慰めるべく こうして宴会を開いたのです。
以上、解説の山口でした。

「それで沖田さんは?」
「まだ戻ってません。おかげでどんどん神谷は不機嫌に・・・」
なるほどな、と宴会場に顔を戻せば 永倉さんがグルグル回っていた。
相田は床で倒れていた。

(一人ではもたなかったか)

恐るべし大トラ

「斉藤先生っ!神谷を止めて下さいっ!!」
山口の涙の訴えに斉藤は腰を上げた。
「神谷」
「あ!あにうえ〜♪」
きゃ〜♪と両手を広げて近付く清三郎。
その様子に平常心もひらひらと飛んでいく。

(いかんいかん!俺には大トラを止める使命がっ!)
なんとか自分に言い聞かせるが、 「あにうえぇ?」と首を傾げて舌ったらずで言われては 思わずずっきゅんとなっても仕方ない。
だって斉藤一も男ですもの。
それでも残った理性で使命を果たそうとするのもまた男・斉藤一。
「か、神谷。もう飲むな。
皆に迷惑がかかるだろう」
「迷惑、ですか?」
きゅうううんと涙目で言われたら 「そんなわけねえだろ!」
「むしろ誘った俺達が悪いんだ!」
「そうだよ!神谷は悪くない!!」
「むしろ悪いのは神谷を泣かせた総司だろうが!」
「そうだそうだ〜!きゃはははは!」 「な〜神谷♪」
「は〜い♪原田先生だ〜いすき」
その瞬間、宴会場は時が止まった。
酔っ払った神谷が原田さんに抱きついて ほっぺに ちゅっ としたのだ。
「神谷〜かわいいな〜v俺もお礼に」
「お礼になんですか?」
背後から感じるどす黒いオーラ。
正面にいた永倉さんと藤堂さんは青い顔をしている。
ようやく帰ってきたか腹黒ヒラメ(怒)
「神谷さん。あなた何してるんですか」
ずかずかと原田さんと神谷の元へと近付き あっという間に原田さんから神谷を奪う。
「おきたしぇんしぇい・・・?む〜〜〜〜〜」
神谷も思い出し怒りか沖田さんから顔をぷいっと背けた。
「何してるんですかと聞いてるんです!」
「沖田先生には関係ありません!」
「関係ないって・・・」
「私に嘘ついて出掛けたくせに!」
「別に・・・いいじゃないですか、出掛ける位」
「だったら私が原田先生と飲んでたっていいじゃないですか!」
「別に飲むのはいいです!ですが皆迷惑しているでしょう!」
「・・・・・・」
流石に神谷も二の句を告げれなかったか。
しゅんと首を垂れる神谷に沖田さんが耳元で何か呟いたようだ。
その瞬間、神谷の顔が真っ赤に染まった。
別に、気になるわけじゃないが、気に入らん!!!
そのまま沖田さんは神谷を担いで宴会場を後にした。
「どうぞ皆さん、この後もごゆっくり楽しんで来て下さい」と一言残して。
楽しめるわけないだろうが!腹黒糞ヒラメが!!!
翌日、昨日の酒臭さを洗うべく井戸へ向かうと神谷の姿があった。
「おはようございます斉藤先生!」 昨日の酔いっぷりはどこへやら。
神谷は酒の匂いを感じさせることなく清々しい顔をしている。
「あ、昨日はすみませんでした」
「いや、俺は大した事はしてない」
「そうですか」 ほっとした表情で微笑む神谷。
やっぱり可愛い。
「昨日沖田先生に怒られちゃいました。飲み過ぎるなって」
思わずヤツの名前がでて心の中で舌打ちした。
「それで仲直りはできたのか」
「仲直りというか・・・」
「神谷さ〜ん♪」
「沖田先生!」
ちっ!邪魔をするな野暮天ヒラメ!
「あ、斉藤さん。昨日はうちの神谷さんが失礼しました」
なんだ?わざとか今の台詞は?!
「全く私がいないとす〜ぐ迷惑掛けちゃうんですよね♪」
「そんな事!・・・無いですよ、多分・・・」
「ほんとに〜?」
「もう!沖田先生なんて知らない!」
「拗ねないで下さいよ〜」
なんだ?もう俺の存在は無視か?! アホらしい・・・。
野暮天2人に関わってられるか!!!
結局無事野暮天2人は仲直りしたようだ。
しかし昨日の宴会での記憶など無い清三郎が反省する事もなく 彼が犠牲になるのは必然的なのである。 頑張れ斉藤一。