沖田さん家 幕末バージョン
「父上、母上、紹介したい人がおります」
突然の鈴の申出に、とうとうこの時が来てしまったと総司は思った。
隣にいる妻のセイは、口に手をあてて「まあ」と喜んでいる。
今年16になった娘の鈴は、年齢からいえば既に嫁いでもおかしくない年齢だ。
しかも器量も良く周りからの評判もすこぶる良い。
そんな鈴が紹介したい人がいると言いだしたのだ。
当然喜ばしいことなのだが、鈴を溺愛していた総司としては内心複雑だった。
「それで、どんな方なの?」
妻のセイが嬉しそうに鈴に訊ねた。
何がそんなに嬉しいのですか、セイ…
そうは思うが、口には出さない。
「はい、今日いらしているのです。 入って頂いても宜しいですか?」
「もちろんよ。 急な事だから何もお構い出来ないけど大丈夫かしら?」
「母上、大丈夫です。 彼はそのような事を気にするような人ではありません。 ではすぐに呼んでまいりますので」
そう言うと、鈴はいそいそと外へ出て行った。
「楽しみですね、総司さま」
そう言って嬉しそうにこちらを見上げるセイに、総司の口元はひきつった。
楽しみなんかじゃないっ!!
そう叫びたいが、間違いなく鉄拳が飛んで来そうで叫べない。
「ハハ ソウデスネ」
乾いた笑いでセイに返す。
「そうだ。 どんなお菓子がお好きな方なのかしら? 総司さまのお蔭で、この家にはお茶菓子が山ほどありますからね、安心です」
ちっ やっぱり出すのか・・
私が食べる為に買い溜めしていたのに(怒)
黒いオーラを醸し出しながら、悶々と鈴の恋人やらを待つ。
「おまたせしました 」
頬をほんのり染めた鈴が、戻って来た。
「紹介します」
そう言って後ろの人物を中に招き入れる。
「ハーイ ナイストゥー ミー トゥー」
「・・・・・・はい?」
突然入って来た見たこともない風貌の人物に、総司とセイは固まってしまった。
「オオウ ハジメマーシテー ダディ マームv」
そう言いながら、その人物は総司とセイに手を差し出してきた。
「・・・・・セイ。 これは一体・・・」
「私に聞きますか」
その男の肌は白かった。
そして見たこともないようは着物を着ていた。
「父上、こちらはポールさんです」
恥じらうように紹介する鈴を、総司とセイはゆっくりとみた。
「ぽーる・・・」
そんな名前がこの世にあったのか。
2人はもう1度ゆっくりポールに向って顔を向けた。
「コノタビハ スズサーンヲ オヨメサンニ シタイトオモイマーシタ」
ハハハハ〜と笑いながら、ポールが言う。
「なんですって・・・?」
総司はその言葉を発するのがやっとだった。
目の前では、ポールの腕に自分の腕をからめ、嬉しそうにポールを見上げる鈴の姿。
総司は、ぷるぷると震え始めた。
こんなどこの馬の骨とも分からぬ男に、鈴などやれるかっ!
しかも噂にしか聞いたことのない異人。
「鈴、私はあなたの選んだ人なら認めようと思ってましたよ。 でもねぇ」
「ダディー」
総司が鈴にモノ申そうとしたその時、ポールがニコニコと総司に近づいてきた。
「なななな、何ですか」
背は高いと思っていた総司だったが、ポールと並ぶと小さく見える。
そんなポールに詰め寄られ、総司はビクッとしながら後ずさる。
「ウワサニハ キイテマシタガ アナタガ シンセングミノ オキタソージサン デースカー」
「そ、それが何か」
憮然と答える。
「ウワサイジョウニ オトコマエデースネー」
「は?」
「ソンナ ダディニ オミヤゲデース」
そう言うと、ポールは持っていたカバンから何やら取り出して総司に渡す。
「コレハ ワタシノクニデ ユウメイナ オカシデ カステーラ トイイマース」
「かすていら?」
総司は渡されたカステラをまじまじと見た。
「トッテモ オイシイデース」
「かすていらって、あの異国のお菓子で柔らかくて美味と有名な・・・」
目をきらきら輝かせてカステラを見つめる総司を、セイは冷ややかな目で見た。
「ちょっと総司さま。 もしかしてそんなものでこの人を良い人だなんて思い始めてませんよね?」
「なっ 何を言うんです、セイ! そそそそんな訳ないでしょうっ!」
そう叫ぶが、カステラは大事そうに離さない。
「どーだか」
「マーム」
「はっ!?」
突然セイに近寄って来たポールに、セイも総司同様後ずさりした。
「アナタガ スズサンノ ハハウエサマデースカー」
「それが何か・・・」
総司の後ろに隠れながら、セイは訊ねた。
「コレハ オウツクシイ・・・ スズサンカラ キイテマシタガ、ソウゾウイジョウデーシタ」
「えっ・・」
「スズサント イッショニ イルト、マルデ シマイノヨウデースネー」
「あ、あら」
ポールの言葉に、セイはほんのり頬を染めた。
「スズサンガ ウツクシイノハ キット ハハウエサマー ガオウツクシイカラデースネー」
「そ、そんな・・・」
恥ずかしそうに下を向く。
「ちょっとセイ? もしかして、そんな言葉にほだされて、この人をちょっと良い人だなんて思っちゃいませんよね?」
「そっ そんな訳あるはずないでしょう!」
セイはハッとして、腕をぶんぶん振りながら総司に抗議する。
「とにかくっ!!」
総司は叫んだ。
「鈴、この人との結婚は絶対に許しませんっ!」
「えっ、なぜです、父上」
「聞かなくても分かるでしょうっ! こんな異国の人など認められませんっ!」
「っ!!!」
総司の言葉に、鈴はショックを受けた顔をした。
「絶対に反対ですからねっ! この人には帰ってもらいなさい!」
そう言うと、総司はぷいっと背を向けた。
「父上ひどい・・ この方は本当に良い方なのに・・」
目に涙を溜めてそういう鈴に、総司はギクッとした。
セイの涙同様、総司は鈴の涙にもめっぽう弱い。
「な、泣いたって駄目なものはダメですっ!」
「父上なんて嫌いですっ」
「嫌いっ!?」
総司は思わず振り返った。
「私はどうしてもポールさんと一緒になりたいのです! ダメだというならこの家の娘を辞めます!」
「何を言ってるんですかっ!!」
総司は焦った。
「もう知りませんっ! 行きましょ、ポールさん」
そう言うと、鈴はポールの腕を取って家を出ようとした。
「待ちなさい! 鈴!」
必死で呼び止めるが、鈴は構わず出て行ってしまった。
総司はその場に崩れ落ちた。
これまで手塩にかけて育ててきた愛娘が・・・
どこの誰とも知らぬ男に連れて行かれた・・・
総司はガックリと肩を落とした。
「総司さま、そろそろ巡察のお時間ではありませんか?」
何事もなかったかのように、セイが声をかける。
「巡察・・・ 今私は不逞浪士を見たら、斬ってしまいそうですよ・・・」
「何言ってんですか、早く行ってください」
セイは、呆れたように総司を促す。
「やですっ! 今日は気分が乗りませんっ! お休みします!」
「何駄々をこねてんですかっ! 早くいけーっ!」
そう言いながら、セイは総司のお尻と思いっきり蹴った。
「わーんっ! セイ、痛いですようっ!!」
「うーん うーん」
「ちちうえさま〜? はやくおちてくだたい」
うなされながら、総司は目を開いた。
総司の体の上には、まだ4歳になったばかりの鈴が馬乗りになっている。
「鈴・・・」
呆然と鈴を見上げる。
「ははうえさまが、おこってますー」
くりくりとした瞳で見下ろす鈴に、総司は勢いよく起き上がるとガバッと抱きしめた。
「鈴―っ」
鈴のほっぺに自分のほっぺをくっつけてさすりながら、総司はうれしそうに叫んだ。
「ちちうえ、痛いですっ」
イヤイヤと総司の腕から逃れようとするが、総司はそれを許さない。
「良かったぁ! そうですよね、鈴はまだこんな小さいんですものね! お嫁になんて行ったりしませんよね!」
「ははうえさまー、たすけてくだたーい」
涙を浮かべながら、鈴が叫ぶ。
「鈴、あなたは一生誰の元にも行ってはなりませんよ! あなたの1番好きな人は父上ですよね! そうですよね!」
「あーーーんっ」
とうとう泣きだしてしまった。
「鈴ーっ いてっ!!」
突然後頭部に痛みが走った。
振り向くと、そこには両手を腰に当て怒りを含んだセイが立っている。
「何娘を苛めてるんですか、総司さまっ!」
「い、いじめるだなんてっ! 違いますよっ」
「良いから鈴を離してくださいっ!」
セイは、総司の元から鈴を抱きあげた。
「あぁっ すずぅぅ」
セイに抱きあげられた鈴は、セイにしがみついて泣いている。
「朝から鈴を怖がらせるのはやめて下さいっ!」
「怖がらせるって! 鈴、怖がってなんかないですよね? 鈴は父上が誰よりも大好きなんですよね?」
総司はあわてて立ち上がり、鈴の顔を覗き込む。
しかし鈴はセイの胸に顔を埋めてこちらを見ようともしない。
「鈴っ! 何ですか、その態度は! それが大好きな父上にする態度ですか!」
「うるさいっ!」
セイにそう叫ばれて、総司はたじろいだ。
「だって・・」
「良いから早く支度してくださいっ! また遅刻して副長に叱られますよっ!!」
「土方さんなんてこの際どうでも良いです! 今は鈴の方が大事です!」
「何バカな事言ってるんですっ! 早く行けーーっ!」
そう言うと、セイは思いっきり総司のお尻を蹴り飛ばした。
「あーーんっ 鈴〜っ! 父上が大好きと言って下さいよぉぉぉぉっ」
その後、なかなか仕事に向かおうとしない総司に、とうとう副長の土方が直々に迎えに上がり、殴られながらも紐で首を結ばれながら屯所へ引きずられて行った。
「もしかして、土方さん鈴の事狙ってるんでしょうっ! 絶対鈴は渡しませんからねっ!!」
「阿呆! あんなガキいるかっ!」
「ガキって! 鈴はきっと美人になるんですっ! 大人になってどんなに欲しいと言われてもあげませんからねっ!」
「うるせーーーーっ! とっとと歩けっ!!」
2人の叫び声が、京の町を駆け抜けていった。
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ショウさまより頂きましたリクエスト、
『沖田さん家の幕末バージョン』を書かせて頂きました。
・・・・が、なんだか幕末ではくても良いんじゃないのという内容になってしまいました…
しかも全く笑えない…
随分お待たせした割には、全く面白くないお話になってしまって申し訳ありませんでしたっ!!><
笑いのセンスを磨きたいと思います・・・
本当にごめんなさい(涙)
リクエスト頂きまして、ありがとうございました!
2009年8月28日