沖田さん家 パート4
「あれ? 何かこのお味噌汁薄くないですか?」
味噌汁を口にした総司は、不思議そうに首をかしげた。
「そうですか? 普通ですけど」
セイは特に気にする風でもなく飲んでいる。
「それにしても、セイ何だか顔色悪くないですか?」
その質問に、セイは手を顔にあてた。
「本当ですか?」
「もしかして体調悪い?」
「いえ、そんな事ないですけど・・」
「そうですか、もし体調悪かったりしたら、すぐ言ってくださいよ」
「ありがとうございます」
食事が終わり、鈴をお風呂に入れた総司がリビングに来てみると、セイがレモンを食べていた。
「セイ?? どうしたんです!? そんなの食べて酸っぱくないんですか?」
「全然すっぱくないんですよ。 何だか酸味の強いものが食べたくて仕方なくって」
そう言うと、セイはレモンをかじった。
「うぅっ 見てるだけで口の中に涎が・・」
「総司さんもいかがです?」
セイは皮を剥いたレモンを総司の口元へ持っていった。
「やめてくださいよぅっ 砂糖漬けならまだしも、そのままなんて食べれませんよっ」
「美味しいのに・・」
そう言うと、セイはそのまま自分の口にパクッと入れた。
その様子を総司はじっと見ている。
「何ですか、そんなじっと見て」
「セイ・・ あなたもしかして・・・」
きたきたきたきたv
セイは、やっと気づいたかといわんばかりにニンマリと笑顔になった。
「もしかして・・・」
「はい、何でしょう?」
「さては、酸っぱいものが好きなんですね?」
ドカッ
セイは、あまりに脱力して椅子から落ちた。
「セイッ! 大丈夫ですか?」
「・・・・はい」
総司はセイの腕を掴み、再び椅子に座らせた。
ふとテーブルに目をやると、編みかけの毛糸が置いてある。
「セイ、何か編んでるんですか?」
「あ、そうなんです」
「セイって何をやっても器用ですからねぇ。 何を編んでるんですか?」
「靴下ですよ」
そう言うと、ほぼ完成している編みかけの靴下を総司の目の前に掲げた。
「随分小さいですねぇ。 鈴が履くにしても、小さすぎませんか?」
「ふふっ そうですね」
セイは笑ってその靴下の続きを編み始めた。
今度こそ気づくだろう。
いくら平成の野暮天王の総司でも、酸っぱいものが好き+味覚が薄味になった+小さい靴下を編んでいるとくれば、
何があったのかくらい想像がつくはずだ。
総司はじっとセイの手元を見ている。
「うわ〜、魔法の手みたいですね」
「何言ってるんですか、これくらい普通ですよ」
話しながらも、セイの手は休むことなく器用に編んでいく。
じっと見ていた総司だったが、何か思いついたかのように手をポンと打った。
「あっ!! もしかしてっ!!」
総司の顔を見て、セイはニッコリほほえんだ。
「はい、そのもしかしてですよ」
「やっぱりっ!! でも、それだと小さすぎませんか?」
「えっ!? こんなものでしょう」
「えぇ〜っ? いくらなんでもこの大きさじゃ鈴がかわいそうですよ?」
「は?」
もしかして、この男はまた勘違いしているのか。
「こんな小さな靴下じゃ、プレゼントは入りませんよ?」
「・・・・・はぁ?(怒)」
セイは、思わず手を休めて眉間に皺を寄せた。
「鈴のクリスマスプレゼント入れる靴下でしょう?」
「違いますけどっ!!(激怒)」
セイは呆れたとばかりに、持っていた靴下をテーブルにたたきつけた。
「何で怒るんですよう??」
「知りませんっ!!」
そう、この男は度を越えた野暮天&鈍感男だった。
今セイのお腹の中には、3ヶ月になる赤ちゃんがいる。
それが分かったのがつい今日の事。
嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのだが、あえて総司には言わず気づかせようとしていたのだ。
それは何故か。
4年前、鈴を妊娠した時も、この男は全く妊娠に気づかなかった。
悪阻が始まり、1日に何度もトイレに駆け込んでいるセイを見ても、体に何か異変があったと思い込み、セイがトイレに入る度にドアの前で心配そうに泣いていた。
普通それだけでも気づきそうなものなのに、本気で心配して救急車まで呼んでしまったのだ。
一体いつになったら自分で気づくだろうと、セイはずっと打ち明けずにいた。
4ヶ月過ぎ、5ヶ月過ぎても全く気づく様子のない総司に、セイはだんだんとイライラしてきた。
6ヶ月に入り、お腹も出てきたのを見てようやく総司が出っ張りに気づいた。
「あなた、ちょっと太ったんじゃないですか?」
そういいながら、セイのお腹をさすっていた。
「でも、こういうポッコリお腹も可愛くていいですけどね」
総司はセイのお腹に頬を当てて、嬉しそうにそういった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ」
その時、総司は叫びながら飛び上がった。
「セイッ! あなたのお腹、今動きましたよっ!」
「そうですか?(怒)」
青筋を立てながらも、セイは笑顔で尋ねた。
「もっ、もしかしてセイのお腹の中にはエイリアンが・・ 私昔見た事あるんですよっ! いつの間にか女性のお腹の中には・・」
「まてまてまてまて」
どんどんあり得ない妄想が膨らんでいく総司を制して、仕方なくセイはお腹に子供がいることを打ち明けた。
聞いた瞬間、総司はあまりに驚いたせいか、卒倒してしまった。
あっけに取られたセイが見下ろしていると、急に起き上がり、自分の顔や頭を殴り始めた。
「そ、総司さん・・・?」
セイの呼ぶ声も聞こえないのか、「痛くない・・ やっぱり夢なのか?」と呟くと、今度は自ら壁に激突し始めた。
どうして良いか分からないセイは、ただその様子を見ていた。
そして3分後、鼻から血を流した総司が、「痛いかも・・ 夢じゃなかったんだ・・」といいながらセイに近づいてきた。
そして、セイを抱きしめて歓喜の言葉を延々叫んでいた。
その時の事を遠い目をしながらセイは思い出していた。
このまま言わなければ、きっとこの男は生まれる寸前まで気づかないのだろう。
打ち明けるべきか、このまましばらく様子を見て遊んでみるか。
セイは考えていた。
その時、1人でTVを見ていた鈴が、トコトコとセイと総司の元へやってきた。
「どうしたの? テレビ見てなくていいの?」
セイが尋ねるが、鈴はセイの膝の上にセイと向かい合わせになるようにちょこんと座った。
「鈴?」
普段からあまり甘えてこない鈴が、こうしてやってくるのを不思議に思ったセイだったが、鈴が発した言葉に驚愕した。
「ママのお腹の中に赤ちゃんがいるの」
セイのお腹をさすりながら、ニコニコといった。
「「えぇっ!?」」
これには総司どころか、セイも驚いた。
鈴にもまだ言っていないのだ。
「男の子の赤ちゃんがいるの。 鈴の弟なんだよ」
「セイッ!? 本当ですか?」
総司は目を見開いてセイの元へ走ってきた。
「え? あ、う・・」
セイは言葉に詰まった。
男の子??
まだ3ヶ月に入ったばかりとお医者さんは言っていた。
男の子か女の子か分からないはずだ。
「セイッ!?」
「あ、いや、赤ちゃんがいるのは本当ですけど・・・」
「やったーっ!」
総司はあまりの嬉しさに、喜びの舞を踊り始めた。
「鈴? 何で分かったの?」
「えー? 鈴は前から知ってたよー? 男の子なの。 とっても可愛いんだよ?」
子供には不思議な力があるというが、本当だったのだろうか。
「何で男の子って分かったの?」
「いつも、ママのお腹の中から"お姉ちゃん"って鈴の事呼ぶんだよ」
セイは、鈴の言葉を聞いて思わず涙が溢れてきた。
感動しているセイの横では、総司がまだクルクルと回っている。
あまりに勢いが良すぎたせいか、角に小指をぶつけてその場に倒れた。
「痛いっ! 痛いーーーーっ!!! ゆ、夢じゃないんだぁっ」
この人だけは一生このままなんだろうな・・
セイは総司を見ながらため息をついた。
「赤ちゃんが生まれてきたら、お姉ちゃんだね」
「うんっ! いっぱい可愛がってあげるのぉ!」
「ちょ、ちょっとっ! 無視しないで下さいよぅ! たすけてぇぇぇぇ」
あまりの痛みに、総司は涙を流して叫んでいる。
「じゃあ、赤ちゃんが鈴と同じくらいの年になったら、鈴と一緒のお部屋で寝てあげてねv」
「うんっ!」
「うわーーーんっ! セイ〜〜〜っ!!」
7ヶ月後、セイは鈴の予言通り無事に元気な男の子を出産した。
個室に移ったセイと赤ちゃんを見て、総司はまた嬉しさのあまり歓喜の舞いを踊り、セイと看護婦にこっぴどく叱られたあげく、病院を出禁になってしまった。
総司が我が子を抱けたのは、出産2週間後だった。
「色白で、目がパッチリしていて本当に可愛いですねぇ」
うっとりしながら我が子を見ている。
「本当に。 色黒で平目顔だったらどうしようかと思いましたよ」
「ちょっと、セイ? どういう意味ですか?」
「私に似てくれて、本当に良かったv」
「・・・」
赤ちゃんは、総司の強い希望で『颯太』と名づけられ、元気にすくすくと育っていった。