沖田さん家 パート3
「ただいま戻りまし・・・・た・・・・」
今日も、少しでも早く愛しい愛しい妻の顔を早く見ようと、仕事が終わると一目さんに帰宅した総司は、
玄関のドアを開けた所で思わず立ち尽くした。
「お帰りなさいませ、旦那さま」
「お帰りなたいまて、お父たま」
妻であるセイと、娘の鈴が2人並んで三つ指を立てこちらを見ている。
「ふ、2人とも一体どうしたんですか!?」
初めて見る光景に、総司は驚いてただ2人を見下ろす事しか出来ない。
「旦那さま、お疲れでしょう? 先にお風呂になさいますか?」
セイがそう尋ねると、
「それともお風呂になたいますか」
鈴がこう尋ねる。
「い、いや、そうじゃなくて・・・」
あたふたしている総司に構わず、2人は立ち上がると総司からカバンを受け取った。
「お腹が空いていらっしゃるでしょうから、お食事にしましょう」
そう言うと、セイは総司の手を取り着替えさせる為、和室へ向かった。
総司は訳が分からないままついていく。
「どうぞお着替になります」
セイが綺麗にたたまれた部屋着を総司に差し出す。
とにかく着替えてから事情を聞こうと、総司は畳まれた服を広げた。
「!!」
つい昨日まで着ていた服が、何だか小さくなっている気がする。
「せ・・・セイ・・・ 何だかこれ小さくなってる気がするんですけど・・」
「そんなはずはありません。 私が精魂込めて、手洗いで3時間かけて洗いましたから」
笑顔で答えるセイに、総司は心の中で『それが原因で縮んだんじゃ・・』と呟くが、口には出さない。
「そうですか・・・ それはどうもありがとうございます・・」
仕方なく服を着てみるが、手も足も4割ほど出ている。
裾に関しては、パツンパツン状態だ。
「お食事のご用意が出来てますよ」
気にする様子のないセイは、笑顔で総司に食事を勧めた。
気を取り直してダイニングの椅子に座り、目の前に並べられた豪勢な食事に目をやった。
「それにしても今日は豪勢ですねぇ。 何かあったんですか?」
「これが普通ですよ? 一家の主である旦那さまの食事ですもの。 これくらい出して当然です」
今までにこんな食事を作った事があっただろうか?
帰ってからというもの、総司の頭の中は「??」だらけだ。
このセイと鈴の態度といい、突然出てきた目の前の食事。
一体何があったのか考えてみるが、全く分からない。
「そうですか・・・ では頂きます」
そう言うと、総司はまず目の前にある煮物を口に入れた。
「ぐっ・・・」
総司は箸を口から引き抜く事が出来ず、そのまま固まった。
「いかがですか?」
天使のような笑顔で尋ねるセイに、総司はすぐに反応する事が出来ない。
かなりの勢いで塩っ辛い。
これはヤバい。
塩分の取りすぎになる恐れがある程だ。
「旦那さま?」
ぷるぷると震えながら、ゆっくりと口から箸を引き抜いた。
「あ、味付けを変えたのですか」
一生懸命言葉を選んで尋ねる。
「もしかして、お口に合いませんか?」
途端に悲しそうな顔になったセイを見て、総司は焦った。
「そ、そんな訳ないじゃないですかっ!! とっても美味しいですよっ!」
「よかったぁ! 御代わり沢山あるので、いっぱい食べてくださいねv」
「はい(涙)」
1つ気になるのは、自分が食べている豪勢な料理と全く違うメニューを2人が食べている事だ。
何故・・・
どうして自分だけがこんな豪勢で塩っ辛い食事なのだろうか。
しかし世界一大好きで、世界一可愛くて、世界一怖い妻にそれを尋ねる事がどうしても出来ない。
どの料理を食べてもあり得ないほどの量の塩分が入っているだろう料理を、涙を流しながら全て食べた。
お風呂につかりながら、総司は相変わらずセイと鈴の態度について考えた。
全く分からない。
もともと考える事が苦手な総司が、いくら悩んだって答えが出る訳もない。
「着替え置いておきますね」
脱衣所からセイの声が聞こえる。
「あ、ありがとうございます」
先ほどまで悩んでいた総司だったが、これ以上考えても分からないので、とりあえず考えるのをやめた。
お風呂につかりすぎて、指の腹がふやけてきてしまった。
そろそろ上がるかな・・
総司は、少しふらつきながら湯船から出た。
「・・・・・・」
お風呂をあがった総司は、パンツを握り締めたまま動けずにいた。
セイが置いてくれていたパンツは、白地に大きなハートマークが沢山書いてあるトランクス。
普段はシンプルなボクサーパンツだったはず・・
これを履くのか?
これで明日会社に行くのか・・・?
いや、それだけはいくらなんでもプライドが許さない。
他の事はともかく、これは無理だっ!
「セイッ!!」
総司は大声でセイを呼んだ。
セイは急いで脱衣所へやってきた。
「お呼びですか? 旦那さま」
「セイ、これはどういう事ですかっ!!」
さすがにこれには怒った。
「あぁ、今日旦那さまの下着を買いに出かけたんです。 きっと旦那さまに似合うと思って、一生懸命選んで買ったんですよ? 気に入っていただけました?」
ほんのり頬をピンクに染めながらそういうセイに、総司は何も言えなくなった。
「・・・・・・・とっても気に入りました」
「わぁっ! 嬉しいっ! 絶対旦那さまにぴったりだと思ったんですよv」
嬉しそうにそういうセイに、総司は全く反論できない。
「早速はいてみようと思います(涙)」
「・・・・・・・」
総司はベッドに横になりながら、ボーっと真っ暗な天井を見つめていた。
何故だ・・
一体どうしてなんだ・・・
何故自分はダブルベッドに1人で寝かされているんだ・・・
いつもは隣にいるセイが、いない。
何故か「旦那さまと一緒の布団に入るだなんて恐れ多い事出来ませんっ!」と言い出して、総司の呼び止める声も聞かず鈴の部屋へ入っていってしまった。
しかも、中から鍵をかける音まで聞こえてきた。
自分は何かしてしまったのだろうか。
したとしたら、一体何をしたのだろう。
分からない・・・
総司は暗い気持ちのまま瞼を閉じた。
「おはようございます・・・」
目覚めは最悪だった。
キッチンへ行くと、爽やかな笑顔のセイと鈴が、既に食事を始めていた。
「おはようございます、旦那さま」
そう言うと、セイが総司の分の食事を出した。
総司は出された食事に箸をつけず、じーっと見ている。
「どうかなさいましたか? 旦那さま」
もしかして、これも・・・
総司は怖くて食べられない。
さすがにこれ以上塩分を取ると、高血圧になってしまう。
「早くお食べにならないと、お仕事に遅刻してしまいますよ?」
笑顔で食事を勧めるセイをひと目見て、仕方なく一口食べてみる。
・・・・・・・・・・・激甘
どうやったら、普通の食事をここまで甘く出来るのか。
塩分の次は糖分かよっ!
何なんだ、一体何の嫌がらせなんだっ!!
総司はゆっくりと箸を置いた。
「セイ、聞きたい事があります」
「はい」
セイは笑顔で総司を見た。
「ハッキリ聞きます。 私何かしましたか?」
「え?」
言っている意味が分からないというように、セイは首をかしげた。
「何かしたならハッキリ言ってくださいよ、セイっ!」
「そんな、"セイ"だなんて他人行儀に呼ばないで、私の事は"玲香"と呼んでください」
「はぁっ!?」
相変わらず笑顔のまま訳の分からないことを言っているセイに、総司はもう何が何だか分からなくなった。
「一体何の事ですか!? 意味が分かりませっ・・」
思わず叫んだ瞬間、総司の目に何かが映った。
テーブルの上に、隠すように置かれた写真。
何だか見覚えがある。
一気に心臓がバクバクと鳴り始める。
恐る恐るその写真を手にとって見た。
ガビーーーーン
そこには、女からほっぺにチューされている総司がいた。
全身に冷や汗が流れる。
写真の裏には、「また来てねv 玲香」と書かれている。
「随分楽しそうですね、旦那さま(怒)」
先ほどとは打って変わって地を這うようなドスのきいた声。
「うっ・・・ いや・・ 」
総司はセイの顔を見る事が出来ない。
「鼻の下なんて伸ばしちゃって」
「ちがっ これは そのっ」
反論しようとするが、何も言葉が出てこない。
「よくも私に内緒でキャバクラなんて行ったわね」
「なっ 何でそれをっ! ・・・あっ」
総司は思わず発してしまった言葉に、慌てて手を口に当てる。
「ご丁寧に、一緒に行った土方先生が写真をくれました。 その時の状況を、事細かく教えてくれましたよ。 電話番号の交換までされたようですねぇ」
セイは、持っていた箸をバキッと割った。
先日、保育園のパパ友皆で飲みに行った後、何故かキャバクラに行く事になった。
総司は元々そんなところには興味がなかったのだが、半ば無理やり連れて行かれた。
しかし、予想に反して楽しかったのだ。
そして店のサービスである、キャバ嬢との記念撮影。
セイに見つかるとまずいと言った総司に、「なら俺が捨てといてやるよ」と笑顔で写真を受け取ったのが保父の土方だった。
土方さん・・・
恨みます
その後、1ヶ月間ほとんどセイと鈴に口を聞いてもらえなかった総司は、「二度とキャバクラには行きません」という誓約書を書かされた上、セイにはダイヤの指輪、鈴にはDSを購入してやっと許してもらった。